第78回「波」 電波暗室の猛獣
向かいで妻が唸り声をあげている。
「もうケータイ捨てたい……」
「あー」
じゃあ電源切っとけば、などと言えば噛みつかれるのは明白だ。求められているのはユーモアと思いやり。曖昧な相槌で時間を稼ぎつつ、ふと物理の授業を思い出した。軽快なトークが流れるラジオを金網の筒に入れた途端、音がぱったりと止んだあの実験。
「買い物行ってくるね」
妻はまだ唸っている。
「なにこれ」
「まあまあ、騙されたと思って」
金属メッシュとポリパイプ製の小空間は、僕手製の電波暗室である。
「うそでしょ、バカじゃないの」
呆れ声は歓声に変わった。中は圏外、実験済みだ。
「超快適!」
気に入ってもらえたらしい。猛獣を手懐けた気分で、僕はそっと微笑んだ。
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