クライマックス 3

「なぜ、攻撃しないのですか」


 花が恨めしげに漏らした。


「して欲しいの? とんだマゾヒストね」


 明らかに深刻なダメージを受けているというのに、築山は不敵な笑みさえ浮かべている。


「世界の秩序を乱す者に与えられる罰は死じゃない。あなたも承知の上でしょう」


「それは……」


 言い切らず俯いた花はその場から姿を消した。テレポートの痕跡がある。

逃げたのか? 周辺は完全な静寂に戻っている。

 建物は半壊していた。人が集まってくるのも時間の問題だろう。築山は慌てる様子もなく瓦礫に背を預けて座り込む。


「おい!」


 駆け寄った俺を一瞥して、


「疲れた」


 疲れたじゃ済まないだろどう見ても。


「急いだ方がいいわ」


「急ぐ? どこに?」


「教室よ」


 教室って、学校のか? 


「理解したならさっさと行きなさい」


「お前はどうすんだよ?」


「ここを直さないと」


 会話をしている間にも、築山の下には血だまりが広がっていく。

 この量はシャレになってない。


「気にしないで。早く行って」


「でも、救急車を呼ばないと」


「ここは病院よ」


 冗談を言ってる暇があるんだったら、なんとかしようとしてくれ。

 築山はゆっくりと目を閉じ、深い息を吐いて、そしてゆっくりと目を開く。


「世界がかかってるの」


 その一言は重かった。


「走りなさい」


 鋭利な眼光に押し出されるように俺の脚が動く。言われるがまま、築山を背にして走り出してしまった。

 どうしてか、この時俺の頭はほとんど何も考えていなかった。

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