クライマックス
あくびが出た。噛み殺さずに思いっきり大口を開けられるのは家の中くらいだ。女の子だもんな。
これで何度目か。いつでも出られるようにとの言葉に健気に従って着替えることもなく制服のまま待っているのだが。
築山が来ない。
いつ来るのかも解らない奴を待つってのは辛いもんだ。俺は待たされる女になんかなりたくないぞ。
とにかく眠い。夜も更けた。早く来ないと明日になる。ソファに寝そべって目を閉じる。すぐにでも寝てしまいそうだ。
俺の理性の砦が今にも睡魔軍に破られる、その時。
「ぐえ」
頭頂部に痛烈な痛みが走った。
ソファから転げ落ちた俺が見たのは見事な脚線美だった。見上げて築山を確認する。
「いってぇな!」
「百会を突いた。眠気覚ましの効果があるらしいわ」
そんなツボ押さなくていいから。
まぁ、眠気は吹き飛んだけど。
「まったく……すぐ出るのか?」
「ああ」
差し出された手を無視して起き上がる俺。
家の外へ。ぱらぱらと雨が降っていた。築山が先導して歩き出す。
家の門をくぐると、そこは廃病院の前だった。
振り返ると家はない。テレポートかな。
「またここ?」
築山の背中に尋ねる。
「またここよ」
人目のつかないという点では最高の場所だもんな。
着いた先はこの前穴を空けた壁。のはずなのだが。
「あれ? 直ってる……」
人一人通れるほどの大穴は塞がっていた。もともと傷付いていなかったかのように完全に消えて元通り。
「あの後内装を含め全て修復したのよ。そのままにしておいたら大事になるでしょう」
言いながらまたしても壁に穴を空ける築山。普通に門から入ればいいのに。
真っ暗闇の廃病院へ。この前来た時より暗いような。かすかに見える築山の背中のみを頼りに歩を進めていく。
改めて侵入して思う。夜の廃病院ってのはびっくりするほど怖い。だって病院に廃まで付いてるんだぜ? 幽霊なんか信じちゃいないが、絶対出るよこれ。
「なぁ」
無言に耐えられなくなったので口を開く。幸い話題はあった。愛から仕入れた情報だ。何故か小声になってしまうのは雰囲気のせいかな。
築山は終始相槌を打つこともなく黙っていた。聞いているかどうか判断しがたいが、一通りの話が終わると、
「そう」
間を空けて、
「〝ソロン〟は他人の協力を得ることである程度は能力を強化することができるのよ。彼女を連れ去ったのはそのためでしょうね」
「でも、俺のの体を奪うのに協力するなんて」
手伝えと言われて玲於奈が頷くとは思えん。
「了解を得なくたって強制的に利用できるの。おそらく彼女は何も聞かされてないんじゃないかしら」
ひどい奴だね魔女っ娘。
話が終わったタイミングで四○四号室の扉が見える。築山が舌を打った。
いきなり扉が真っ二つに割れて浮遊。スチール製の分厚い扉が風切り音を響かせて迫ってきた。目にもとまらぬとはまさにこのことだ。今それは目の前にある。目の前でぴたりと静止したままで。
「ハズレね」
築山は悔しげな言葉を吐き捨てる。
「正解です」
少女の声が聞こえた途端周囲に閃光が弾けた。四方八方で閃く白い光のせいで視覚と聴覚が使い物にならない。俺は耳と目を塞いでその場に伏せるしかなかった。
しばらくして唐突に閃光が途切れる。
目を開くと、くらんだ視界には優雅に佇む魔女っ娘と、両腕から大量の血を流す築山の姿。
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