なんとなし

 携帯が鳴ったのは時計の針が直角になった頃だった。


『もっし~もし愛ちゃんだよ』


 受話口から響いたのは爽やかな声。


「どうだった?」


『んふふ、私の網のすごさを改めて実感したような感じだよ』


 この口ぶりからすると、


「何か解ったか」


『ばっちり』


「役に立ちそうな情報だよな?」


『もうばっちり』


 よし。心の中でガッツポーズ。顔の広い愛はこういう作業が速くていい。

 築山が来るまでただ待っているのも落ち着かなかった俺は帰宅してすぐに愛に調査を依頼した。調べてもらう内容はもちろん玲於奈の消息。俗気たっぷりのネットワークにもこういう時には利用価値がある。


 もちろん〝ソロン〟や監禁云々は話していない。愛自身も玲於奈の欠席を気にしていたようで積極的に協力してくれた。

 持つべきものは友達ってな。


『順を追って話すね。玲於奈、電車で遠出したみたい』


 愛曰く、土曜日の朝に駅で玲於奈を見かけた者がいるらしい。詳しい行き先は解らないが運行車両からどの方角に向かったかは割り出せた。最後に確認されたのが県境の駅。ご苦労なことに県外まで赴いている。


「一人でか?」


『ん~ん。それがね、小学生くらいの女の子と一緒だったって。玲於奈って妹いたっけ?』


 あいつは一人っ子だ。一緒にいたのは間違いなく花ちゃんだろう。

 しかし県外に行かれると愛のネットワークの守備範囲外だ。あいつがどうして遠出をしたのかその理由が探れない。話を聞く限り無理矢理連れていかれたようでもなさそうだ。

 しかし築山の言う通り彼女が魔女っ娘なら、玲於奈を連れ出すための罠かもしれない。

 玲於奈をかどわかす理由はなんだ? メリットがあるとは思えない。


『そんな感じかな~。私の網に引っかかった情報はここまで。残念だけどね』


「サンキュな。助かる」


『なになに。愛するみぃやのためならお安い御用だよっ』


 嬉しいことを言ってくれるね、まったく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る