魔女の正体 2

 花ちゃんが魔女っ娘? そりゃ年齢的にはぴったりかもしれない。しかし、そんなの信じられない。


「御厨家は〝ソロン〟の血筋。あの若さなら御厨花以外には考えられないわ」


「じゃあ……」


 玲於奈の付き添いで病院に行った時には既に花ちゃんは俺を知っていた。あのよく解らない占いと中途半端な警告は、自分の計画を邪魔するであろう築山を俺に接触させないための作戦だったというのか。


「あの子にしてみれば棚から牡丹餅だったでしょうね。異性になりたいと望む健康な人間が身近にいるなんて」


 皮肉のつもりか。悪いが花ちゃんとは最近まで全く身近でもなかったぜ。俺が女になりたいと思っていることをどこで聞きつけてきたのか知りたいくらいだ。

 そこではたと気づく。玲於奈のこと。


「どうした?」


「玲於奈が音信不通なんだよ。先週花ちゃんを送っていったんだけど。あの時から」


 築山はふむと息を吐く。思案する仕草をしているので初耳なのだろう。


「あの子の仕業ね」


「監禁?」


「ありえるわ」


 マジかよ。

 玲於奈よ、小学生の女の子に誘拐されるとか恥ずかしくないのか。それとも相手が〝ソロン〟とやらじゃ仕方ないのか。

 なんて暢気なことを言っている場合ではない。誘拐されたのなら助け出さないと、幼馴染として示しがつかない。


「警察に言うか?」


「ただの誘拐事件ならそうしてもいいけど」


 ということは、言わないのか。

 俺にも解る。これは〝ソロン〟達の問題なのだ。一般人が首を突っ込むべきではない。警察などというなまじ力を持つ機関なら尚更だ。世界を守るのも玲於奈を救うのも俺の体を取り戻すのも、すべて築山が一人でやるつもりなのだ。

 俺は何を手伝えばいいのだろう。

 我が家に到着した。


「手を」


 促され左手を差し出す。何を思ったか、築山の両手は俺の手を挟んできた。


「熱っ!」


 思わず手を引っ込める。手が一瞬煌めいたかと思うと、めちゃくちゃな熱さが手を襲った。めちゃくちゃ冷たかったかもしれない。熱いんだか冷たいんだか解らないドライアイスを掴んだかのような刺激が俺の左手に走った。


「なにすんだ!」


 左手を振ったりさすったりしてみる。痛みはすぐ引いた。


「それがあなたの力になる。少しくらいなら、私達のやっていることが理解できるようになるでしょう」


「へ?」


 左手を見ると手の甲に黒い模様が刻まれていた。螺旋を中心とした複雑怪奇な紋章。


「次に雨が降った時に迎えに来るわ。いつでも出られるようにしておいて」


 左手とにらめっこをする俺に声がかかる。


「今夜中にカタをつけるわ」


 顔をあげた時には築山の姿はなかった。

 こいつは一体なんなんだ。説明くらいしてけっての。

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