魔女の正体

 授業を終えて帰路につく。


 今日一日、愛をはじめ他のクラスの連中からも玲於奈はどうしたと質問攻めをされた。俺は知らないの一点張り。こっちが聞きたいくらいだ。

 数多い玲於奈の友人達の話を聞くところによると、どうやら連絡が取れないとのこと。金曜の夜から携帯が繋がらず、家を訪ねた者もいたが不在だったようだ。玲於奈の両親からは泊まりがけで遊びに行ったとの情報しか得られなかった。

 さすがに心配になってくる。


「金曜か」


 築山を混ぜたメンバーで遊んだ日だ。花ちゃんを送っていったきり玲於奈には会っていない。あの時から音信不通というわけだ。

 傘を杖代わりに歩を進める。

 ここ最近は一人で帰ることがなかったからか、会話のない黙々とした帰り道はなんとなくつまらなく感じてしまう。

 とぼとぼと歩き、街の喧騒の届かない住宅街に差しかかったあたり。


「面倒なことになったわ」


 声と気配が同時に現れた。

 もう驚かない。足を止めるまでもなく隣を見やる。築山が歩いていた。


「どこから湧いて出た、って言って欲しいか?」


「結構」


 相変わらずの固い表情。


「面倒って? これまでもそれなりに面倒な感じだったが」


「さらに面倒で厄介な事態よ。時間が無くなってきたと言えばいいかしら。あのインチキ魔女が予想よりも早く動き出した」


 そりゃまたなんで。


「あの子が事を起こした理由、わかる? あなたに接触して〝マスレス〟を手に入れたのは何のためなのか」


 〝マスレス〟って俺の男の体のことだっけ。見当もつかないな。

 細いレンズの奥にある眼光はいつにも増して鋭利である。


「あの子にとっても計画の前倒しはやむをえなかったようね。私に阻止されるという結末は変わらないけど、どうやら手は抜けなくなったみたいだわ」


「話が見えないんだが」


「御厨暮太」


 なぜそこで御厨の名前が出てくるんだ?


「彼は昨晩から危篤状態に陥っているわ」


 俺は驚いた。大丈夫なのか。クラスメートとして御厨の容体には関心がある。


「でもそれと魔女っ娘に何の関係が」


「〝マスレス〟は入れ物に過ぎないの。厳密には肉体そのものではなく、世界に存在を認識させるための機構、装置。だから〝マスレス〟が他人のものであったとしても、中身を入れ替える分には何の問題もない」


 わかるような、わからないような。


「けれど〝マスレス〟は生物のステータスに大きな影響を与える。現状に即した物言いをすれば、健康状態の改善も可能ということ」


 曲がり角を右折。初めて魔女っ娘に遭遇した場所だ。


「そして有栖川魅依弥。あなたは至って健康な体を持っている」


 さっきから話に一貫性がないぞ。俺が健康だ?


「それがどうしたってんだよ」


「まだ解らない? あの小さな魔女の目的はそれなのよ。健康な人間の〝マスレス〟を入手して御厨暮太が死亡する前に中身を入れ替える」


「はぁ? なんでそんなこと」


「愛する兄を救うため、世界とあなたを犠牲にしようというわけ」


「それってつまり……魔女っ娘の正体が、御厨の妹ってことか?」


 俺がよほど変な顔だったか。築山は眉間に皺を寄せて、


「とっくに気付いていると思ったけど」

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