三人寄れば姦しい

 会うったって。ふむ、いつどこで?

 という疑問を抱くのはごく当然の流れであり、俺はもちろんのこと、隣を歩く玲於奈と面白がってついてきた愛もどうすればいいか解らなかった。


 俺はいつも通り下校していればそのうちひょっこり出てくるだろうと楽観的に考えていたのだが、玲於奈はどうにも気に食わないようで勃然と歩を進めている。愛はキラキラと瞳を輝かせて今か今かと築山の登場を待ちかねている様子だ。


「待ち合わせの時間と場所くらいちゃんと決めてなよ」


 そんなこと言われても。


 ブツブツ愚痴を垂れる玲於奈。待たされているわけでもないだろうに、何をそんなにイラついているのか。

 学校を出てから十分ばかり。もうそろそろ現れてもいい頃合いなんじゃないか。俺の家の前にいる可能性も無きにしも非ずだが、玲於奈を連れていることを知っている以上俺達が道を違える前に出てくるはずだ。つーかその方が都合がいい。


「ねね、せっかくだから遊びに行こっか」


 足を速めて正面に回り込んだ愛がウインクした。後ろ手に鞄を持って腰を折る仕草がなんとも愛らしい。

 早く築山にエンカウントしたいはずの愛にしては異な提案だ。

 俺は答えあぐねる。下校の道筋を変えてしまうとあいつと出会わないのではないかという懸念があった。


「唱子ちゃんは今日会おうって言ったんだよね。ならどこにいても出くわすんじゃないかな?」


 そりゃあ屁理屈だろうよ。いくなんでも人ごみごった返す街中で特定の人物に出会うなんて無理だろ。

 俺が悩んでいると、


「私は賛成」


 嬉しそうに歯を見せる玲於奈が言った。


「久々にゲーセンにでも行きたいとこね」


「おおっ、いいねぇいいねぇ。初心者狩りでもやりますか」


 お前ら本当に築山に会いたいのか。

 もうちょっと歩けばいるかもしれないのにこいつらは諦めが早すぎる。根性が足りないぞ根性が。


「唱子ちゃんがどこにいるか解らないなら、色んな場所に行った方が出会う確率が上がる。これは真理だよ」


 屁理屈だって。


「別にいいんじゃない? 案外ゲーセンで脱衣麻雀やってるかもしれないよ」


 それはそれで笑える光景だが、実際目にしたら一ミリも笑えないだろうな。

 玲於奈と愛は行く気満々だ。というかすでに行く空気になっている。


「ま、いいか」


 言葉に溜息が混ざった。


 街の中心部は人の往来が激しい。年中無休で賑わっている駅前では若者が遊ぶスポットに困ることはなく、俺達のように寄り道をする学生も少なくない。こうして歩いている今もちらほらと制服姿の若者を見る。

 目に入ってくる数え切れない人々の性別が全て変わっているかと思うとそれはとても面白いことに思えた。横に並べて一人一人見比べてみたいくらいだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、道端のベンチに腰かける制服の少女と目が合った。


「築山……」


「こんにちは。今日は一人じゃないのね」


 俺が友達のいない寂しい奴みたいに言うなよ。

 驚いた反面、やっぱりと思う気持ちもあった。どこにいようと神出鬼没なのは変わらないようだ。


「うそうそ! ほんとに会えちゃった!」


 ひゃーひゃー騒ぐ愛は唱子に詰め寄る。溢れんばかりの満面の笑み。


「はじめましてだねっ! 私は沢野愛。みぃやの友達。愛ちゃんって呼んでね。どうぞよろしく!」


 ぺこりと腰を折る愛。

 それに合わせるように立ち上がった築山は僅かな微笑みを浮かべる。


「築山唱子よ。あなたの噂はよく耳にしてる。情報網も何度か活用させてもらったりね。会えて光栄だわ」


「みぃや! 聞いた聞いた? やっぱり愛ちゃんのラブネットワークは人々の役に立ってるんだ。人類の財産だよ」


 だったら国連に保護申請でもしたらどうだ。二秒で却下されるから。

 隣の玲於奈は品定めでもするように築山を目を向けている。

 俺は玲於奈を一瞥し、


「こいつが玲於奈だ。お前に会いたがってた」


「よろしく」


 そう言って築山は手を差し出す。

 玲於奈は怪訝そうにその手と唱子の顔を交互に見てからやっと握手に応えた。


「京見玲於奈。みぃやの幼馴染だよ」


 とっつきにくそうに見えて意外にフランクな対応に、玲於奈は戸惑っているようだった。

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