またファミレス
「では、待ちに待ったインタビューの時間だよ」
高らかに宣言したのは愛。
やってきたのは例のファミレスであった。
今日は朝から曇っていたものの幸い雨が降り出すことはなく傘も不要だった。しかし三日連続で同じファミレスに来ることになるとは。
俺の隣には愛が陣取り、対面に玲於奈と築山。
「ずばりんっと聞きます。みぃやと唱子ちゃんの関係は?」
愛はメモ帳とペンを取り出している。ノートパソコンは使わないんだ。
「知人かしら」
愛と玲於奈が見守る中、築山は事もなげに答えた。
俺はというと、愛のこの質問は容易に予想できたものだったのでまったく驚かなかったしうろたえなかった。
「ほんとに~?」
「それ以外にいい表現がある?」
「しらばっくれても良いことないよ」
「あったらしらばっくれているわ」
あくまで冷静な築山。そりゃそうだ、やましいことなど何もない。
「そこまで言うならこれを見せてあげる」
愛がメモ帳から抜いた一枚の紙をテーブルに叩きつける。写真だった。げ、これって。
「情熱の相合傘。これこそ唱子ちゃんとみぃやがやんごとない仲だという確固たる証拠だよ!」
撮ってやがったのか。
黒い傘の下で身を寄せて歩く少女二人。後ろから撮影しているため表情は見えないが、ふぅむ確かにこれなら若気の至りで付き合った少女同士のカップルに見えないこともない。
「へ~」
何故か玲於奈が興味深そうに写真を見ていた。
築山は写真を取り吐息だけで笑い、
「愛ちゃんだったの」
そう嘯いてから、
「たしかにこれは誤解されそうね。これが愛ちゃんの網に貼られるとなかなか面倒なことになりそう」
微塵も動揺を見せない築山。切り札が空振りに終わった愛は頬を膨らませた。
「こうなった経緯は?」
「この子が強引に私の傘に入ってきたの」
「へ?」
待て。間違っちゃいないがそういう言い方をすると俺が築山に気があるみたいじゃないか。
「おおっとーぅ! ここで衝撃の事実が明らかに!」
案の定食いついた愛。他のお客様のご迷惑となるのでおやめください。
「え、なに。みぃや、ホントにそっちの気があったの?」
玲於奈は苦虫をかみつぶしたような顔で俺を見る。そっちの気はないと否定したいものだが、女の身体で中身が男だから、そうなってしまうのかもしれない。
「それはそうと、京見に聞きたいことがある」
「ん、私?」
そういえば築山も玲於奈に用があると言っていた。世界がらみのことだろうが、玲於奈なんかに聞いて何か意味あるのだろうか。
「御厨花を知ってる?」
その質問に、玲於奈の表情が険しくなった。
「ええ、知ってるけど」
「あなたになにか吹きこんでいるんじゃない? たとえば俺が、有栖川に危害を加え
ようとしているとか」
玲於奈は即答しない。警戒するような目つきで唱子を見ている。沈黙は肯定。言外に唱子の言う通りだと伝えているようなものだ
花ちゃんって、御厨の妹だよな。あの子がそんなことを言うものだろうか。
「そんなことあるのか?」
答えない玲於奈に代わり、俺が尋ねた。
築山は眼鏡を押さえる。
「彼女の様子を見れば、わかることでしょう?」
玲於奈は俯いたまま、口を閉ざしていた。
場は重たい空気に包まれる。
「出ましょうか」
築山の一言で、俺達は会計に向かうことになった。
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