今夜は終わり
「逃げられたな」
「かまわないわ。あの調子ならまだ大丈夫でしょう」
「何が大丈夫なんだよ」
「色々よ」
俺達は廃病院から程近い公園に来ていた。建物の外面にこそ被害はないがコンクリート崩れ落ちる凄まじい音は近辺に聞こえていただろう。騒ぎを聞きつけて人が集まってくることを考慮してさっさと逃げ出すことにしたのだ。
石製の椅子の上で脚なんかを組んでみる。屋根の柱に背を預ける築山を見て俺はふと思いついた。
「結局、お前の目的って何なんだ?」
「私は〝ソロン〟よ。世界をあるべき姿のまま維持することが目的」
何を今更、といった風に答える。
「なんとなくそんな感じなのは解るけどさ。そうじゃなくて。もっと具体的な手段みたいなの、あるだろ? ほら、俺を元の体に戻すとか」
「最終的にはそうなるわね」
やっぱり。
「男に戻るのはイヤ?」
どうなのかな。まだまだ女としての生活を送ってみたいのは間違いないが、二度と男に戻れないのもなんだか寂しい気がする。
唸る。男の体と女の体を好きな時に交換できれば願ったり叶ったりだ。
「悩まなくていいわ。あくまでも最終的には、だから」
どういうことか。
男だった玲於奈に会えないのは少し残念かもしれん。
そうそう玲於奈で思い出した。
「俺のツレ、玲於奈ってんだけど。そいつお前と会いたいって言ってたぜ」
「京見玲於奈ね」
知ってるのか。こいつのことだから事前に俺の友好関係くらいは調べてきたのかもしれない。
築山は眼鏡を外してレンズを拭いている。
「丁度いいわ。私も一つ聞きたいことがあったの」
それは俺が瞬きをした時だった。
尻に衝撃を感じてそれが尻もちをついたせいだと気付き、まさか石の椅子が壊れるほどの体重があるはずもないと思い辺りを見回すとそこは家の前だった。ちゃっかり自転車もそばにある。
「また明日会いましょう」
築山はすでに背を向けて去っていくところだった。
尻を払いながら立ち上がる。
送ってくれたってことか? 確かに夜の女の一人歩きは物騒だと思うけどな、それにしたってテレポートするなら一言声をかけてくれたっていいんじゃないか?
こっちは一般人だってのに。
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