御厨暮太の病状

 雨は上がっていた。

 たたんだ傘を杖代わりに、俺は玲於奈と共に病院を後にする。濡れたアスファルトから雨のにおいが漂っていた。


「お見舞い、どうだった?」


「うん、元気そうだった。今回はやばいかもって聞いてたから。ちょっと安心した」


 御厨は高校に入学してからも頻繁に短期間の入院を繰り返してきた。ちょっと学校を休んだと思ったら、一両日経ってひょっこり現れたり、長くても一週間ほど欠席する程度だった。

だが、ここ数ヶ月、俺は御厨の姿を目にしていない。


「やばいって?」


「ん……ちょっとね」


 俺の問いに、玲於奈は応答に躊躇っているようだった。


「みぃや、知りたい? 暮太のこと」


「興味がないといったら嘘になるけど……デリケートな話だろ?」


 玲於奈は神妙な面持ちだ。


「まあでも、玲於奈が教えてくれるっていうんなら」


 言ってしまってから思った。軽率な言葉だったかもしれない。病状というものは個人情報だ。医者にも守秘義務があるし、誰だって知られていい気分はしないだろう。ただのクラスメイトでしかない俺が、知っていいことではないのだ。

 玲於奈が黙ったので、気を害してしまったのかと疑ったが、どうやら違うらしい。何か考えるような複雑な表情で歩を進めている。


「いい。聞いちゃいけないことだった」


 フォローを入れる俺を一瞥して、


「……ううん」


 玲於奈は立ち止まった。


「やっぱり、みぃやにも知っておいてもらいたいかな」


 あまりにも真剣な様子だったので何事かと訝しんだが、俺は事情を察して真面目に話を聞くことにした。道で立ち話では、いつ雨が降り出すかもわからない。俺達は自宅から程近いファミレスに入った。

 この時間、客はそう多くない。窓際の席に腰を下ろす。

 対面の玲於奈が、ウェイトレスが運んできた水を一口含む。


「暮太が病弱なのは知ってるよね」


「それくらいは」


「じゃあ、暮太が入院する時は、決まって血を吐くような発作を起こすってことは知ってる?」


 ぞっとした。想像するだけで恐ろしい。


「いや……それは、初耳だ」


 吐血しているところなど見たことがない。そんな心中が、玲於奈にも伝わったのだろう。


「正確に言うと、あいつは病気になりやすい体質なんかじゃないの。だから、貧血で倒れたりもしないし、激しい運動で咳込んだりもない。免疫力だって、人並に機能してるって」


 だが、そうなると。


「御厨はどうして入退院を繰り返してるんだ?」


 玲於奈はテーブルに肘をついて手を組んだ。


「あいつには、持病があるの。原因不明という最悪のおまけ付きで」


 返す言葉がなかった。なんて言ってやればいいのか解らない。俺はグラスの水を見つめるだけ。テーブルを挟んで、無言が通過する。

 玲於奈の溜息が聞こえ、


「おまけなんて、ラムネだけで十分よね」


 力ない笑みを漏らす。

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