試験結果

 終業のチャイムが鳴った時、俺の机には満点の解答用紙が置かれていた。

 なんだかんだ言ってこの程度の問題なら余裕で解けてしまう。どんとこいだ。


「みぃや。その記憶力を私にも少し分けてよ」


 玲於奈がやってきた。


「分けられるものなら分けてあげたいんだけどね」


 放課後の教室。玲於奈が自らの解答用紙をビリビリと破り捨てる。荒っぽいなぁ。後で掃除しとけよ。


「だぁ! なんでこうも差があるの! 私とみぃやのどこがそんなに違うっての!」


「落ち着けよ。たかが小テストで」


「勉強できる奴に私の気持ちは解らないよ! なんで直前まで単語帳を握っていた私が負けてるの!」


 鬼気迫る雰囲気で玲於奈が叫び、


「その通り!」


 そこに愛が割って入ってきた。玲於奈なんかに同調する必要もないだろうに。


「常に偏差値六十をキープするみぃやに、私達の気持ちは理解できない!」


「やっぱり愛は話が解る!」


 なんだこいつら。

 意気投合する二人に、俺はやれやれと首を振った。まったく何を言っているんだろうね。こいつらは勉強できないんじゃなくてしてないだけだろ。そもそも、玲於奈はともかく、愛はそんなに成績の悪いほうじゃなかったはずだ。


「甘いよみぃや!」


 愛が人差し指を天に掲げ、それから勢いよく俺に向けてくる。


「みぃやはそう言うけどね。当のみぃやは、勉強してない!」


 決定的な言葉。のつもりだろうか。何がそんなに誇らしいのか、愛はどうだと言わんばかりの自信満々な表情で俺を見据えている。そんな愛に、玲於奈も賛同する。


「確かに、みぃやの勉強するところは見たことないわね」


「でしょでしょ? そのくせ試験とかになると当然のように上位にくい込んでるんだから。なんか憎たらしいよね」


 ぬう。俺ってそんなに勉強してないように見えるのか。自分では結構やっているつもりなのだが。よし、近いうちに俺の勉強風景を見せてやるか。

 そんなとりとめのない会話をしばらく続けてから、俺たちは帰宅することにした。三人で学校にいてもやることなど限られている。


 玲於奈と帰路を共にしながら、今日一日の学園生活を思い出してみる。特に変わったことは無かったというのは前述のとおりだが、それ故に興味深くもあった。生徒や教師の性別がどうなっていようと、彼らの人間関係に以前との差異は見られなかったのだ。


 新しい交友関係が知らぬ間に出来上がっていたとか、個人の性格が変わっていたりとか。そんなことはまるでなかった。親しい奴は親しいままであるし、知らない奴は知らないまま。

 文字通り、性別が逆転しただけってわけだ。

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