魔女っ子あらわる 2

 二の句が次げなかった。

 それを言われると、正直返答に困る。俺には理解の及ばない現象だった。何かの間違いだったんじゃないか。

 雨で視界が悪くて、近付くまで気付かなかっただけだ。そうだ、そうに違いない。そもそも常識で考えてあんな事は有り得ない。全くもって不健全はなはだしい。


「理解できない現実から逃避するのはいただけません。あなたはご自身の目で、実際に見たのでしょう?」


「何をだ」


「空間の亀裂を、です」


 少女はあくまで淡々とした態度。年上相手に一歩も退かない。大したものだ。


「見間違いだ」


 俺は毅然と言い放つ。


「なぜそう思われるのですか?」


「あんな現実離れしたもの、ある訳ないだろ」


 少女は笑った。上品な笑いであったが、明らかに嘲りの含まれたものだった。


「年下の私が言うのも何ですが」


 嘲笑が止まり、冷たい声色に変化する。不覚にも、少しだけ不安感を抱いてしまった。


「その言い分はとても滑稽です。ただの高校生でしかないあなたが、世界の理を知り尽くしたとでも思っているのですか?」


 それは、少女には不似合いな厳とした口調だった。

 流石にカチンときたね。こんなガキにそんな説教じみた事をどうこう言われる筋合は無い。


 何なんだ。いきなり現れるなり願いを叶えるだの魔女っ娘だのと。挙げ句の果てに理だ? 理の意味解って言ってるのかよ。

 今思えば少し大人げなかったかもしれない。だが、小学生の子供相手に言われっぱなしでは、やはり気が済まなかった。


「馬鹿にしてるのか?」


 ドスの利いた声を出したつもりだが、少女の雰囲気に変化は無かった。いいえと首を振り、マントの中から手を伸ばす。


「あなたの無知さに呆れているだけです」


 少女は華奢な腕を振る。棒切れを持っているのは、杖のつもりだろうか。


「瞬きを」


 その声に釣られ、反射的に瞬いてしまう。

 そして、


「……は?」


 絶句した。


 最初は何が起きたか理解出来なかった。気が付けば、周囲の風景が変わっている。ここは、玲於奈の家の前だ。

 目の前に佇む魔女っ娘の姿はそのまま。どうなってるんだ、こりゃ。


「解って頂けましたか?」


 いや、さっぱり。


「俗に言う、テレポーテーションというものです」


 なんだって? テレポーテーション? そんな馬鹿な。

 辺りを見回す。間違いなく玲於奈の家の前だ。今の今まで立っていた我が家への道のりではない。

 玲於奈の家は俺の家の裏側に位置しており、辿り着くには住宅街をぐるりと迂回しなければならず、歩けばそれなりの時間がかかるのだ。それを、一瞬で。


 本当にテレポートをしたのだろうか。ありえない、そんな事。俺の頭がおかしくなったのか?

 夕の雨が傘を打つ。俺はしばらく言葉を失っていた。

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