TSしました 3

 走り、先を行く少女の背中を追う。

 いつものスピードが出ない。何故――と思いかけてすぐ気付いた。今の俺は女だ。それに準じて身体能力が低下しているのだ。

 これで間に合うのか。長くなった髪を風になびかせながら、いつもの道を駆け抜ける。少女はこちらを気にしながら走っているが、スピードを緩めるつもりは無いらしい。薄情者め、まるで玲於奈だ。


 ……やっぱりあいつは玲於奈なのか?

 答えの見付からない疑問を浮かべた時、昨日聞いた言葉が脳裏によぎった。

 

 ――色々変わっていて戸惑うことはあると思いますけど、あなたがいつも通りの生活をすることに何の支障もありません。

 

 つまり玲於奈が男から女になっていたとしても、変化したのはただそれだけで、それを除けば俺や玲於奈にとって今までと何ら変わりのない人生だと、そういう事なのか?

 本人が言うように本当にあの娘が魔女なら、ありえない話ではないだろう。現に俺は女になっている。

 ただ、自ら願った俺ならまだしも、玲於奈は女になりたいなど一言も口にしていない。その玲於奈までが性別を変えているのは一体どういう事だ。


 いや、考えたところで正解が出るとは思えない。本人に聞くのが一番手っ取り早いな。

 やっとあの玲於奈的薄情者に追い付いてきた所だ。走りながら隣に並び、荒れた息で声を出す。


「なぁ」


 癪なことに少女はあまり息を切らせていない。


「なに」


「お前、誰なんだ?」


 言われた相手は片眉を吊り上げ、馬鹿を見るような目で俺に視線を向ける。


「まだ寝惚けてるの。こんだけ走ってるんだからいい加減目覚ましな」


 軽い焦燥に駆られる俺に返ってきたのは、呆れた口調のそんな言葉だった。

 それはまさしく玲於奈だった。玲於奈を女にしたらこんな感じだろう、というイメージにそっくりそのまま当てはまる。

 本当に、玲於奈なのか。


「悪いけど、まだ夢の中にいるみたいなんだ。名前を聞いたらきっと目が覚める」


 これは半分事実だった。朝起きたら女になってたって全く現実味が無い。また女言葉になっている。

 まあ最終確認だ。こいつの口から聞かなければ確信は持てない。

 玲於奈らしき少女は走りながら溜息を吐くと渋々といった感じで口を開いた。


「玲於奈。親愛すべき幼馴染みの京見玲於奈!」


 ようやく確信が持てた。

 こいつは玲於奈だ。本人が言っているんだから間違い無い。


「おっけ。目が覚めた。完璧」


 玲於奈は鼻で笑いやがった。我慢我慢。


「で、ついでに聞きたいことがもう一つ」


「なに」


「何で女になってるんだ?」


「……あんたね」


 苛立っているのは玲於奈も同じらしい。走るのを止め、いきなり叫びをあげた。


「全っ然目ぇ覚めてないじゃないの!」


 声がでかい。

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