TSしました 2
またチャイムが鳴った。自分の下着なんか観察している場合じゃない。急がないと玲於奈の奴が怒り狂っちまう。
俺は着慣れないセーラー服とスカートを四苦八苦しながら身に付ける。いざ着てみるとしっくりくるのが不思議だ。
机の脇に置いておいた鞄を掴みあげ、部屋から駆け出る。乱暴な足取りで階段を飛び降り、鍵を握り玄関を飛び出しそうになって、ふと気付く。今の俺って女だよな。じゃあ、やっぱり身嗜みとかにも気を遣った方がいいのか? いや、今からではそんな時間は無い。必要なら登校中か学校ですればいいか。
数センチ小さくなっていた靴を履き、俺は扉に手をかけた。今の俺の姿を見たら、玲於奈の奴なんて言うだろう。あの時一緒にいたとはいっても、流石に驚くはずだ。
心を浮かせながら扉を開く。朝の光が眩しい。
「遅い」
……はい?
玲於奈の奴を驚かすつもりが、逆にこっちが不意を突かれてしまった。びっくり箱から飛び出したパンチを食らった時の心境に似ている。すまん例えが悪かった。
とにかく、そこにいるはずの見慣れた玲於奈の姿は無く、見覚えのない少女がぶすっとした面持ちで玄関先に立っているだけだった。
同年代にしては長身で、大人びた雰囲気のある少女だ。軽くウェーブのかかった髪は方の辺りで揃えられており、はっきりした目鼻立ちはかわいいというより美人という表現がふさわしい。
誰だよ。
「さっさと行くよ。遅刻したらのあんたのせいだからね」
俺と同じセーラー服を着た女は、鞄を肩に担ぎやおら走り出す。俺は離れていくその背中を呆然と見るしか出来なかった。
いや、ホントに誰だよあいつ。襟元に見えた徽章は俺の学年の物だった。しかし、クラスでも見たことないし、そもそも同じ学年にあんな奴がいたかどうかも怪しげだ。
大体、頼みもしないのに毎朝迎えに来る玲於奈はどこに行った? いつもならここ待っているか、もしくは我が家の如く俺の部屋に突入してくるかのどちらかなのに。
これは思い付きだけど、俺が女になったのと同じ様に、玲於奈の奴も女になった、とか。
もしそうなら今頃、あいつはパニックに陥って街の家という家のチャイムを鳴らしまくっているだろう。あの様子を見る限りその可能性は無さそうだが。
いや……本当にそうだろうか? あれが変わっちまった玲於奈でないとしたら、当の玲於奈がいないのは何故だ。
「何やってるのみぃや! ホントに遅刻になっちゃうよ!」
遠くから響いた叫びに、俺は思考から切り離される。やべぇ。
俺は家の鍵を閉め、即刻駆け出した。取りあえず考えるのは後だ。全力を出せばまだ間に合う、今は遅刻を回避することだけに集中しよう。思考に耽るなら授業中がおあつらええ向きだしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます