TSしました

 まさか。


 いや、本当にまさかだったね。俺としては無いものねだりをしたつもりだったのだが、本当に叶っちまうとは夢にも思わなかった。

 変わり果てた自分の姿を鏡越しに眺め、ただただ感動するばかりだ。

 昨日まで正真正銘の男の子だった俺は、今やどこからどう見ても女になっていた。


 痛んでいた短い髪は、腰まで伸びた艶のある麗しい緑の黒髪に姿を変えていた。身長は縮んでいる。その分体が軽く感じるのは錯覚ではないだろう。顔立ちに至っては昨日までの面影など皆無に等しく、自分でも惚れてしまいそうな程の美少女に進化していた。

 確認してみれば、男の象徴であるはずのアレは無く、代わりに結構な態度で自己主張をする双丘が胸に付いている。


 パジャマ姿の我が身と見つめ合い、得心。

 こりゃマジだ。夢じゃなく現実なんだ。


「あー」


 なんだこの声。いつもより高いぞ。


「あーあーあー」


 自分の声じゃないみたいだ。

 物珍しく一人で顔をつねったり髪をいじったりして遊んでいると、不意に家のチャイムが鳴った。柄にも無く驚いてしまう。毎朝の如く、幼馴染みの玲於奈が来たようだ。

 部屋の隅にある時計を見た。


「やべっ」


 かなりの間あべこべの世界とにらめっこをしていたらしい。いつもならとっくに出発する時間になっていた。残念ながらまだパジャマである。

 俺は急ぎクローゼットを開く。一瞬戸惑った。そこに見慣れた詰め襟学生服は無く、一生着ないと思っていたセーラー服がハンガーに掛けられていたからだ。

 無意識に唾を飲んでしまう。


「これ……着るのか?」


 時間が無いと言うのに、俺は貴重な間を逡巡に使ってしまった。

 またチャイムが鳴る。

 ああくそ、躊躇ってる余裕はねぇ!

 俺は覚悟を決め、丁寧にアイロンの掛けられたセーラー服を手に取った。焦りつつもパジャマを脱ぎ捨て、そこでまた驚くべき事実が発覚する。


「…………」


 女物の下着だった。

 そこで思考は停止。やけに柔らかそうな自分の体を凝視し、硬直状態に陥ってしまう。

 いや、待て。落ち着いて考えてみよう。今の俺は女なのだから何らおかしいところはないはずだ。これがいつものトランクスだったらまた違う意味で驚いていただろう。つまりこれでいい。これが当たり前なのだ。ただ慣れていない事態に困惑しただけで、これが普通……なんだよな。何か複雑な気分だ……。

しっかしなぁ、青と白の縞々模様とは。しかもブラもお揃い。誰の嫌がらせだ、これは。

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