第30話

読んでくださりありがとうございます。


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 ゴワイルと村に帰ると、子供達や皆に明日、町へ行き、特許の手続きを取る事を伝える。


「町に行くんですか?明日?え?」


「やったぁ!まちにいくんだ!」


 困惑するミリィちゃん。そして喜ぶレオン君。そこにバルが残念そうな顔で伝えてくる。


「ユーイチさん。町に行くのは可能ですが、馬も居ない。食料など集めてない状態では出発する事が出来ません。」


 あれ?コイツらに言ってなかったっけ?


「そういえば、俺は食料とか外にあるテントって、皆にどんな説明をしていた?」


「いえ、特に説明は受けていません。ユーイチさんの財産だと思っています。」


 そこにレオン君が手をあげて答える。


「ぼくしってるよ?」


 ユーイチはニヤニヤしながら、レオン君に答える。


「あれ?美味しいの食べれなくなっちゃう約束しなかったっけ?」


「あ!僕はしらないよ!!」


 言ったら食べれなくなる事を慌てて思い出したレオン君。可愛らしく手で口を押さえる。


「ちなみに村長が決まった時は君達は広場に居た?」


「アニキ。俺達はその時は村長の家にいたぞ?前の村長が『家にいて下さい』と言ってたから、皆で部屋で休んでいたんだ。」


 あーそのせいか。色々と知らなかったり俺に夜中に絡んで来れたのは。


「さて、驚く事を色々と説明するから、まずは荷馬車に行こうか。」


 行商人達を外に連れ出して、荷馬車を持ち上げてみせる。驚かせるのは2回目だから、新鮮味が薄れたユーイチである。


「こんな事知ってたらアニキに突っ掛からず、奴隷にもなってなかったぞ!ちくしょー!!」


 うん。そうだろうね。でもやっちゃったもんは仕方がない。


「さて今度は室内ね。もっと驚く事だから。ちなみにこれは秘密だから、1人でも喋ったり匂わせるような事を言ったら残念だけど、コレね。奴隷の規約違反にもなるから。」


 説明しながら、子供達に見えないようにしながら、首を掻き切るよう手で見せる。そして室内でナノ君。マモリちゃんの説明をして物を目の前で出したりすると、みんなが壊れた。


『コレで私達はお金持ちよ!!』と騒ぐメリッサ。


『姉貴!しっかりするんだ!姉貴!金持ちだよ姉貴!』と騒ぐバル。


『やべぇッス!やっぱりアニキはやべぇッス!!』と騒ぐグレッグ。


 そして黙って浮いているパスタやら卵を見つめるバル。あれ?気絶してる?


 浮いているメニューを見ると、ナノ君の今日の夕飯のリクエストはパスタかな?後で、辛い素材を入れたパスタでも作りますか。

 とりあえず全員にデコピンをして黙るように伝える。


「お前達。俺は大量生産する奴隷になるつもりはないの。だからこれは秘密にするし、大量に売り出したりしません。あくまで個人で楽しむ物です。」


 デコピンで悶えて聞いてないな。コイツら。落ち着いた時に改めて説明した。


「さて、それじゃ明日の朝から出発ね。荷馬車は俺が引っ張るから。今日は早めに寝ましょう!」


 多少の違う食材をみんなで買いに行って、夕食はもちろんパスタで済ませると、隣の家の人に街へ行く事。その間の畑の水やりをお願いした。挨拶回りとして、チーズとチョコレートを渡した。


 行商人のメンバーに確認したが、調味料は何気に高級な事が判明した。せっかく渡すんだから驚いて貰いたいし、美味しい2つをチョイスしたわけだ。


 ミリィちゃんにお隣さんの話しを聞くと、隣の家の家族は、ウォル君が亡くなった後、ミリィちゃんとレオン君の世話をしていたらしい。必要のないアルバイトをさせて、食事を渡していたとか。

 人の優しさは本当にありがたい事だ。この家族はユーイチの守ろうリストに入れる事にする。何故だろう。異世界に来て、2週間で守る必要のある人達が増えて来ているのが困る。



 異世界生活15日目


 今日は朝から、ナノ君の作った木彫りや荷物を積み込んで町まで出かける事にした。村の材料を買うお金も無いので、ナノ君に頼んで、チャチャっと木材の加工などをお願いして作って貰った。


 荷馬車に6人は狭いので、木剣は置いていく事にした。町まで馬で4日ほどらしいが、今回は俺が轢くので時間は不明である。


 ユーイチは、村の人達に声をかけながら子供達を荷馬車に乗せると、荷馬車を引いて村から出る。

 何故か行商人のメンバーは荷馬車を押そうとしたりしていたので、邪魔だから乗るように伝えるが、荷馬車を後ろから押したり、走って追いかけて来る。

 だが、10分ほど続けているとメンバーの足がだんだん遅くなってきた。俺は荷馬車を停める。


「時間がかかるから、頼むから乗ってくれない?」


 全員がゼハゼハ言って何を言ってるか判らない。そんな時にミリィちゃんが教えてくれる。


「荷馬車を引くのがユーイチさんだから、その負担になりたくないから走ってるんじゃないですか?奴隷の身分なんで。」


それを聞いて、ユーイチは4人に伝える。


「お前達なぁ。変に真面目だよな。いいから、早く水分を取って休憩しなさい。ナノ君。タオルと飲み物とバナナでも出してやって。」


あ、ヤバい!忘れてた!


(ナノ君。お願いがあるんだ。義手とか義足のサンプルを作っておいてくれる?)


《作って、おいたよ。》


(もう作ってあるの?ありがとう!!すっかり忘れてた。)


《僕。偉い。?。》


(偉い!さすがナノ君!!助かりました!)


 そんな会話をしながら、ユーイチは安心して走り始める。やっとちゃんと走れるわ。あ、ナノ君。道を平らにしてくれてありがとね。

 走りやすいと思ったら、目の前の土が磨かれたように平面になっている。凸凹をナノマシンで平にしてくれていた。


 荷馬車の中は暇そうなので、出来るか判らないけど、マモリちゃんに色々とお願いしてみた。

 そして荷馬車の壁には、スマホが大量に荷馬車の壁に敷き詰められて貼られており、スマホに入っていた映画を上映している。

 キャンプで暇な時に見ようと有料サイトからダウンロードしていたのだ。言語は文字で変換して、字幕版で流している。子供や大人も喜んで観ているようだ。

 レオン君、ミリィちゃんは文字が読めなくても雰囲気で楽しんでいる。


 荷馬車を引いている俺はと言うと、身体をマモリちゃんに動かして貰って、仮想空間でノンビリしたり、食堂の料理の練習をしたり、この世界の食材を勉強したりしている。


 少し経つと狼達が襲いかかってきたので、自動運転をオフ。胡椒をナノ君に出して貰って、噴霧してみた。

 殺すより良いだろう。キャンキャン言って逃げて行った。無駄な殺傷をしなくて済んで良かった。


 だが、その話をしたらメリッサに怒られた。胡椒は銀貨で交換する物らしくて、狼なんか殺せばいい!お金になるんだから!と言われた。


 詳しく聞くと、行商人メンバーは全員冒険者ギルドに登録しているとの事。そこで牙と交換出来るんだと。獣を狩った地域貢献の金額らしいが。本当は皮は剥ぎ取ると売れるらしい。だが荷馬車には鞣す道具がないとの事。


 そんな話しから、世界の危機感の勉強の話になった。ミリィちゃんはゴブリンなどの恐怖は経験済み。レオン君はまだとの事なので、見つけたら殺して勉強させた方が良いとミリィちゃん達が言う。

 俺も勉強しなきゃな。


 そんな感じで田舎道を走ったり、ご飯を食べたり、休憩を取ったり、野宿したり、平和な移動の中、村から出て2日目の午前中。マモリちゃんから、ゴブリン達がこのままだと接敵する可能性があると言われた。


 巣も把握済み。歩いてきているのは7匹。偶然こっちに向かってきているとの事。お勉強の時間になっちゃったね。


 荷馬車を止めて、皆に報告する。そしてレオン君に伝える。


「レオン君。ゴブリンって怖いと思う?」


「みんなこわいって。でもぼくはへいきだよ?」


「そうか。おじさんはゴブリンは怖いな。人間を食べようとして襲いかかってくるんだよ?ミリィちゃんとレオン君は食べられちゃうよ?」


「ぼくたべられるのいやだよ!」


「それならゴブリンをやっつけたり、逃げられる様にならないと。今からゴブリンが襲いかかってくるから、おじさんはみんなを守る為に戦います。殺します。レオン君も大人になったら、戦う。逃げるの両方が出来る様に見ておくんだよ?怖いと思う。でもおじさんが必ず守るからね。」


 そして皆の顔を見て伝える。


「俺にはマモリちゃん。ナノ君の加護がかかっているから、切られても殴られても死なないんだ。間違ってもモンスターじゃないから、安心するように。

 さて、ゴブリンは俺が相手をするから皆は2人を守ってあげていてね。」


「ア、アニキ、武器は要らないんですか?」


「あぁ。オークまでは殴り殺せたからゴブリンは平気かな。」


 少しするとゴブリン達が草むらから出て来て、襲いかかってきた。ある程度近くに来るまで待ってから、先頭のゴブリンが棍棒を振りかぶった瞬間に近づき、首に一撃。骨が折れた。流れるように次を殴り、蹴り、すぐ7体の死体が出来た。


 レオン君には怯えられて、俺はショックを受けた。でも勉強だもんな。

 おいコラ!行商人メンバーよ!何故お前達まで怯えてるんだ!ん?ゴブリンじゃなくて、俺に怯えてる?『素手でやるとは思わなかった』だと?道具なんて置いてきてるに決まってるだろ。載せられないし。


 草むらにゴブリンを投げ捨ててから、ナノ君に頼んで、死んだゴブリン。そして巣穴に残ってるゴブリンごとナノマシン化処分して貰った。


 異世界生活17日目。


 村から出て3日目。大きい町に着いた。俺は馬より速い事が証明された。レオン君からお褒めの言葉を貰った。


 外まで話しかけてくれていたのがマモリちゃん、ナノ君だけだから、何故か寂しかった。帰りは馬がいると嬉しいな。荷馬車の中が恋しい。


 今見えているのは、石造りの壁に金属製の落ちる門と木材で出来た門。高さは4メートル位かな?結構広いよね。壁の上に歩いている人達が見えるから、あそこから弓とか撃つんだろうなぁ。


(この規模でしたら、今のナノマシン総数から計算して、18分16秒でナノマシン出来ます。)


(マモリちゃん?まだそんな計算したりしてるの?それより新しい食材や教えて貰った店の確認をした方がいいんじゃない?)


(そちらは既に完了しています。索敵範囲に入った時点で、多くの情報収集を開始しています。一部入れない場所がありました事も報告します。最重要であった、ルークさんの料理を超える店は発見出来ませんでした。)


(まぁ旨いからね。ルークさんの店は。)


「そういえば、この町の名前を聞いてなかったんだけど、なんて名前なの?」


「アニキ、この町の名前を知らないで向かってたんですか?」


 グレッグが呆れながら言う。俺は町の名前なんて興味無いし。ミリィちゃんが教えてくれる。


「この町の名前は、バーミリオンと言うんです。領主様であり、貴族様であるバーミリオン家から取っているとの事です。」


「バーミリオンって言う名前なんだね。」


 はぁ。貴族様ね。ピンと来ない。それより気になるのが、門に並んでる人達の行列。俺達も並んでいるが。


「なんでこんなに並んでるの?」


 次はメリッサが教えてくれる。


「それは近い村から食材が運ばれて売られているからです。この町が巨大な市場みたいな形になっています。」


 そんな話しをしながら門に近づき、ギルドカードのない人は銀貨1枚を入場料として支払った。カードを作ると返してくれるらしい。門番に『奴隷も大変だよな。頑張れよ。』と言われた。俺は違うし!


 中は人で賑わっており、荷馬車の通るルートが出来ているから、道や安全の配慮はされているらしい。


「さて、ここに来るまでの話し通り、二手に分かれてさっさと用事を済ませよう。ゴロス、バル、グレッグは宿を確保してから、置き物の販売な。マモリちゃんも準備は良いかな?」


「はい。大丈夫です。」


 すると、ゴロスからマモリちゃんの声が聞こえた。


「マモリちゃん?その声でゴロスは変だから、もう変えていいからね。」


「わかった。まかせておけ。」


 普段喋らないゴロスにフードを被せて、口元を隠してもらい、ナノ君経由でマモリちゃんが話したり、相手の心拍数や嘘を発見しつつ、買い叩かれないようにするらしい。逞しく育った2人だ。


「俺、メリッサ、ミリィちゃん。レオン君は商業ギルドと教会に行ってくるから。合流はマモリちゃんの指示で集まろう。」


「任せてくださいアニキ!必ず高く売ってみせます!」


「あぁ。任せたぞ。」


 そして俺たちは分かれて用事を済ませる事にした。バーミリオン。どんな町かな?

そんな事を呑気に考えるユーイチなのであった。


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やっとユーイチは自分の意思でモンスターと戦いました。長かったです(笑)作者は4話位で戦いを始める予定だったのに、何故か村に居つく気満々に見えます(笑)

やっと新たな町バーミリオンに到着です。

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