第25話

え?ファンタジーなのに魔法が出てこない?とりあえず物理(ナノマシン)でなんとかしていくユーイチ達です(笑)

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『戻りますよ?進化は。』


 感情が無くなりそうだったので、マモリに相談すると、呆気なく言われた。


『今回の変化のポイントは、人間への憎しみと言う感情に左右されたと予想されます。その前の基本感情データをアップロードすれば良いだけなので。』


 そんな、機械みたいに言って。あ、俺は機械だったわ。


『では、戻しますか?』


「お願い。マモリちゃん。」


 何かが戻った感覚がする。あ、さっき胸ぐら掴んで持ち上げたおっさん。いや、ゴワイルがこっちに来た。相変わらず厳ついな。


「ユーイチ。どうだったんだ?」


「あぁ。大丈夫。1ヶ月しないうちに1人で外を歩いたりする事は出来る様になるぞ。農作業とか重い物を持ったりとかは無理だけどな。」


 ゴワイルが抱きついてくる。むさ苦しい。おっさん臭い。マモリちゃんが臭がってるだろ!


「ありがとう。本当にありがとう。」


「臭いわ!離れろ!男に抱き付かれて喜ぶ趣味はない!」


 お礼を言われる筋合いはない。俺の目的の為に動いてるだけだ。



 ※「ゴワイルさんがユーイチさんに抱きついたぞ!」「ゴワイルさんが抱き抱えられて、宿屋に連れ込まれたって本当だったのか?」「現に今は抱きついてるぞ?」と遠くで話している村人達が居たが、マモリちゃん達は報告しなかった。普通の会話であると判断して。


 ゴワイルはユーイチに尋ねる。


「必要な物を教えてくれれば揃える。何が必要だ。」


「最優先として、そこいらに生えている木を乾燥させた物。それを3本。太さはゴワイルのお腹の一回り小さいヤツ。長さはゴワイルの朝から腰までの長さ。

 お勧めの堅い木があるなら、高くないならそっちが欲しい。

 あと、人の肌に触れても痒くなったり、痛くならない皮が欲しい。ゴワイルの足と腰合わせた長さ。太さは手のひらサイズ位で。

 木を削ったりする木工職人が使っているようなナイフとか半月は借りたい。または欲しい。

 そうだ。加工した物が水に濡れても腐らないようにするのも有ったら欲しいな。優先順位は木が1番!

 追加で木材を頼む事になるから。」


 ゴワイルはポカンとした顔をしている。最近よく見る顔だ。


「お前は何をするんだ?リッケルドは木工細工じゃないぞ?」


「あぁ。ほぼ正解。リッケルドは、木工人間になるんだ。」


 また襲いかかってきた。解せぬ。人の話しを最後まで聞かない人が多くて困る。

 怪我の無いように回り込んで、後ろから膝カックン。倒れ込むのを気を付けながら、後ろから捕縛して落ち着かせる。



 ※「今度はユーイチさんが、ゴワイルさんを抱きしめているわ!」「本当だ!だけど、ゴワイルさんの奥さんってメチャクチャ怖い人じゃなかったか?大丈夫なのか?」「大丈夫な訳ないじゃない!きっと荒れるわよ。」と、遠くで嵐に怯える村人達。

 マモリちゃんはやはり報告しない。普通の会話なので。



 落ち着かせたゴワイルに、話し合いをしていたグイフ君達も慌てて駆け寄ってきた。


「何やってるんだよ!人の家の前で!ユーイチは親父が治るかもしれないって言ってたけど、そんな事出来るのか?」


「間違えてるぞ?治すなんて言ってない。俺は助けられるかもしれない。と言ったんだ。」


「何が違うんだ?」


「わかりやすく体験してもらうか。グイフ君。地面に寝転がれ。そして起き上がれ。」


「やったぞ。これで良いのか?」


「それじゃもう一度。今度は左手と右足を使わないで立ち上がれ。」


 グイフ君は地面をバタバタしてる。


「無理だよ!こんなの!」


「よし、それなら、左手と右足を使わないで、右手を俺に捕まって立ち上がってみな。」


 手を差し伸べて、手に捕まると、グイフ君は力を込めて立ち上がる。


「ほら立てた。なんで立てたんだ?」


 グイフ君は当然のように答える。


「そりゃ、ユーイチの手があったから、立てたんじゃないか。」


「そうだな。手があったら便利だったろ?その便利を増やすんだ。家の中に。」


 みんなはキョトンとしている。


「例えば、カップ。なんで取手が付いてるんだ?持ちやすいからだろ?それを壁に取り付けたりすると、今立ち上がった時みたいに力を入れやすいんだ。それをベット。トイレ。使う所に設置する。」


「だけど、それじゃ、前より少しマシになった程度だよ?」


「追加で、グイフ君の親父さんには新しい手足を取り付ける。使いこなせれば1人で立って歩いたり出来る様になる。食器も使いやすいのを用意すれば、1人で食べたりも出来る。

 親父さんは前みたいに戦ったり、肉体労働は無理だと思うが、相談に乗ったり、普通に生活出来る様になる。俺に出来るのは、その手伝いだ。

 ゴワイル。この村に鉄の加工が出来たり、馬車の車輪とか作れる人はいるか?」


「いる事にはいるが。」


「その人を今度紹介してくれ。追加で作りたい物がある。日にちは、うん。今は判らない。優先度が低いからな。」


「わかった。聞いておく。」


 介護用品を考えていたのに、何故が頭に浮かんだのはフック船長が出て来た。解せぬ。

 そんな事を話していると、家からメルビアさんが出て来た。家から出てきたメルビアさんの髪には艶があって見違えた。まぁ何もした事がない人がオリーブオイルとか塗ったら艶が出るよね。

 本人も嬉しそうな顔で来た。そんな姿を見たグイフ君は走って近寄る。


「母さんどうしたの?その髪。急に綺麗になって!」


 メルビアさんは笑いながら伝える。


「ユーイチさんからお借りした物を使ったら、綺麗になったのよ。ユーイチさん。ありがとうございます。主人の髪も綺麗になって驚きました。あんなにカッコよかったなんて。」


 ご馳走様です。奥さん。



 ※「メルビアさんの髪が違うわ!」「ホントに!今、ユーイチさんから借りたって言っていたわよね?」「ユーイチさんってオークを倒してくれた人でしょ?」

 ユーイチを見る主婦達の目が野獣の如く輝いていた。

 危険度が低い為、マモリちゃんはユーイチに報告しなかった。



「ちなみに今は、リッケルドさんが居ませんので伝えておきます。彼は最初、私が誰かから頼まれて嘘をつきに来たと言っているくらい、気持ちが落ち込んで疑っていました。なので、本気で脅しておきました。

 その為、いつか『ユーイチを村から出そう。ユーイチを殺そう。』など言ってくるかもしれません。

 もし危害を加えられたら、私は容赦なく反撃しますから、くれぐれも早まった行動はしないでくださいね?」


 皆が呆れた顔をしている。


「ユーイチ。親父になんて脅したんだよ。」


「単に衰えて死ぬとか言っていたんで、流石に俺もイラッとしたんです。なので、『お宅の息子のアホな行動のせいで村人達が死んで、残された子供達が飢えていた状態だったのに、それを気にしないで衰えて死ぬなんてよく言えるよね。』と言う事を、優しく目を見て言っただけです。

 いや、目はもしかしたら1番怖い目をしていたかもしれません。」


 ゴワイルはため息をつきながら、皆に伝える。


「わかったか?これがユーイチだ。ミリィとレオンに関して、愛情を持って接している良いヤツだ。だが、怒らせるとこれだ。

 俺がさっき、本気で殴ったのにびくともしない男だ。」


「そういえばゴワイル。手は大丈夫ですか?今、ジルさんを呼んでもらっているので、ついでに治してもらうのも良いかもしれませんよ?」


「何故ジル婆を呼んだんだ?」


「あぁ、言ってませんでしたね。リッケルドさん。まだ初期症状でしたが、あのまま放っておいたら死ぬ所だったんで、今のうちに治療して貰おうかと。」


 メルビアさんは慌てて俺に掴みかかる。


「どう言う事ですか!死ぬって!」


「大丈夫ですよ。そこまで悪化してないので、ジルさんの回復魔法でも治ると思います。普通に薬をつけたり、対応しても治るんですが、早い方が良いでしょ?それに体調を壊してしまうのも困りますから。」


 その事についても家族で集まって話しをします。グイフ君。君もリッケルドさんの所に来て貰って良いですか?


「わかった。」


 では、ゴワイル。少し話しをして来ますので。


 グイフ君とメルビアさんと共に、リッケルドさんの部屋へ向かう。


「お待たせしました。髪もサッパリしましたね。」


 部屋に戻って顔を見ると、金の混ざった茶髪だったようだ。厳つくてイケメンとか滅びれば良いのに。


「さて、言える事を話しますね。まずリッケルドさんの身体を洗った理由をわかりやすく説明します。顔に汚れが付いていたとして、それは自分で見えますか?はい。グイフ君。」


 いきなり呼ばれて、ビクッと身体を震わすグイフ君。


「いや、気がつかないぞ?」


「そう。その通り。続いて問題です。メルビアさん。正解すると、なんとこの石鹸。オリーブオイルなどのセットをあげましょう。

 問題!土や泥、ホコリなどがグイフ君の顔についていたら貴方はどうしますか?取る。取らない。そしてその理由を答えよ。」


 メルビアさんもビクッとした。でも目を輝かせている。オリーブオイルが気に入ったかな?


「取、取ります。理由は、汚れているから?」


「正解!では、今日使ったセットは贈呈しましょう。あ、オリーブオイルの瓶とか使い終わったら容器は返してくださいね。別の事で使うので。」


 喜ぶメルビアさん。そして真面目な顔でリッケルドさんに向きます。


「さて、リッケルドさん。質問です。戦場で傷ついた人が、傷が腐り落ちたりするのは知っていますか?それと同じ事が、貴方のお尻に起きていましたよ。原因は傷ついたまま放置して、汚れなどがあった為、腐敗が始まってます。

 ジルさんには来て貰うよう頼んだので、回復魔法を使って貰います。もし治らなかった場合、私が治療をします。

 その際は腐りそうな部分を刃物で抉り取るので、痛みがあります。」


 その場が静まり返る。


「私は貴方に言いましたよね?絶対に指示に従えと。約束しましたよね?教えろって。貴方は私の事を舐めてるんですか?」


 続けてユーイチは伝える。


「さて、答えてください。他に我慢している事。なんでも良いです。言いなさい。さもなくば、子供達の前で先程、奥さんに伝える予定の事を話させますよ?ゴワイルの前が良いですか?」


「...腰が痛い。寝返りが自分で出来ないんだ。」


「そうです。グイフ君。先ほど外で言いましたよね?便利な物が有ればいいと。それも作りますので、それまでの間、家族の協力が必要です。この対応に必要な物は1枚のシーツとタオルです。クッションでも良いですよ?」


 そこから、ユーイチの介護実習が始まった。寝返りが出来ない人への手伝い方。背中にクッションを入れたり、時間で交代させた方が良い事。それでリッケルドさんは泣き始めた。


「いいですか?今は自分の事が出来なくて悔しくて泣いているのは判ります。今の状態だと、これくらいのサポートが必要なんです。

 ですが、これを自分で出来るように色々と私が準備をします。気持ちも辛いでしょう。1ヶ月耐えなさい。私は約束したからには守る男ですから。」


 緊急に必要な物として、手すり付きの椅子を1つ壊させてもらった。尻部分を便座のようにくり抜いて、座れるようにしておいた。

 スライムはお願いして、部屋に持って来てもらった。そしてベットの横に置いた。リッケルドさんを抱き抱えて、トイレに座る方法も教えた。


「良いですか?改めて伝えますが、これから貴方が一人で立ち上がって道具を使って歩いたり出来る様に色々と作ります。

 貴方一人でトイレに入ったり、食事を自分で食べたり出来るようになるはずです。ですが、道具を作るのにも時間がかかるので、1ヶ月と言っています。予定では、道具を使えば、あなたが1人で歩くのに1週間もかかりません。

 貴方は1人じゃない。家族があるんです。」


 臭いセリフを熱弁してしまった。話し終わって振り向くと、メルシアちゃんとジルさんが立っていた。


「呼ばれて来たんじゃが、お邪魔かの?」


 マモリちゃん、来てるなら教えてよ。恥ずかしいじゃん。




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