第24話

予定だと旅に出るはずだったのに、村で何やっているユーイチ。と思いつつユーイチの生活を書いている作者です。



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 部屋には、俺、リッケルドさん。メルビアさんの3人になる。


「まだメルビアさんに頼む事は無いので、座っていてください。メルビアさんの体調が悪そうなので、これを全て食べて下さい。」



 (ナノ君。バナナとスポーツ飲料をよろしく。)


 リュックの中にリクエストした物を作ってくれるナノ君。最高である。リュックから取り出して、メラビアさんに渡す。もちろん食べ方のレクチャーをする。

 ここはさっきまで村人達が相談していたので、椅子があるので、俺も椅子に座りながらリッケルドさんの触れるくらい近くに行く。


「まずは貴方のことを教えて下さい。正確に。」


 そしてリッケルドさんは語る。モンスターに襲われて、ゴワイルを庇って足を折られた事。

 モンスターの毒が周り、切断するしか生き残る術が無かった事。

 今は痛みは無い。寒い日は痛い。無くなった足があるような感覚があると言う事。


 ユーイチが見ると、無くなった腕も足も関節が残っている。これはありがたい。無くなった手足が痛むのは、『幻肢痛(げんしつう)』だろう。脳味噌があるはずの足がない。切れている。痛いと錯覚する事がある。


「リッケルドさん。メルビアさん。正直に伝えますね。貴方は大丈夫です。前みたいに走ったりなどは出来ませんが、日常生活はなんとか送れるようになります。

 これから1ヶ月の間、俺の指示に絶対に従ってください。」


 2人は驚いた表情でユーイチを見つめる。


「まずは身体を触ります。足や腕も触りますからね。」


 (マモリちゃん。リッケルドさんの身体のデータを取ってくれる?身長、座高、足の太さ、腕の太さ、重さ。とか色々。)


 ユーイチは2人にも判る様に長さを測ったりしてるフリをしつつ、メモ帳に色々と書き込んでいく。

 うん。これで木材と皮やら布が有れば、義手と義足は作れる。松葉杖も必要だね。


「さて。リッケルドさん。現在の貴方の生活で困っている事を聞かせてください。」


 トイレや食事も手伝って貰っているとの事。


「では、リッケルドさん。メルビアさん。もう1度言います。貴方達は、これからの私の指示に必ず従ってください。従わない場合、助ける価値が無いと判断します。」


「あぁ。従おう。」


「わかりました。」


「まずは、奥さんであるメルビアさんに感謝の言葉を言いなさい。」


 2人ともキョトンとしてるよ。まぁ重い空気を作ったのは俺だけどね。


「リッケルドさんは、メルビアさんの偉大さ。ありがたさ。素晴らしさに感謝しなければならない。

 貴方が今も生きていられるのは、メルビアさんの優しさがあってこそだ。私も結婚出来るようなら奥さんのような優しい人と結婚したい。」


「ウチの妻を口説くな。感謝はしている。」


「いいえ。貴方はわかっていない。ちゃんと言葉で表していますか?貴方は態度で伝わっているはずだと思っているでしょうが、人は当たり前の事でも言葉にしないといけないのです。大切な奥さんでしょう?

 私の指示に従うと言ったのは貴方だ。私が居なくなった後で構わないので、恥ずかしがらず、ちゃんと伝えるように。」


 ガタイの大きい大人を、道具も無しに身体を支えて、トイレに行かせるって重労働だぞ?


「メルビアさん。貴方は素晴らしい女性だ。貴方が居たからこそ、彼が生きていられるのです。貴方は彼にとっての太陽だ。」


「すみません。私には夫がいます。」


 うん。普通に断られた。熱々だね。別に口説いてないし。


「それでは、メルビアさん。今からお湯を沸かして貰えますか?出来るだけ多めに。沸いたら声をかけてください。あと水も必要になるので、桶を貸してくれれば、井戸まで水を取りに行ってきます。」


 メルビアさんにお湯を頼んでいる間に、俺はリッケルドさんの寝ているベットの寸法を測る。マモリちゃん。測定をお願いします。

 リッケルドさんを無視して、寸法を測るフリを始めるユーイチ。

 2人っきりの部屋で無言が続く。


「...誰に頼まれたんだ?」


 リッケルドさんが呟く。


「何がですか?」


「誰に頼まれて、こんな茶番をしているんだ?2人きりだから、良いだろう。誰にも話さん。言え。」


「誰にも頼まれてませんよ。私の意思でここに来て、説明して、ゴワイルに殴られて、仕事を始めたんです。」


「結局、対価の説明もしないでか?」



 あぁ。これが進化の感覚か。


 ユーイチは笑い出す。そして寸法を測るフリをやめて立ち上がり、笑いながらリッケルドを見下ろして、見つめる。


「あぁ。あまりに可笑しくて笑ってしまいました。貴方の息子さんが犯した騙しや盗みより笑えますね。

 対価ですか。勿論請求しますよ?これから乾燥した木を1本買います。あと布と皮を少々。これを買うのに、ある程度の現金を頂きます。

 貴方の残りの人生について私が求める対価は、貴方が生きている限り、ミリィちゃん。レオン君の生活が困窮した際に手を差し伸べる保護者になる事です。

 知っていますか?貴方の息子さんの馬鹿な出来事をしたせいで、死ななくて良い村人達が大勢死んだ事を。あの2人が唯一頼れるウォルお兄ちゃんを亡くして。飢えていた事を。

 それを行った馬鹿が生きていて、その親がベットの上で寝ながら『衰えて死ぬ』だと?笑せますね。」


 ユーイチは笑みを消して話し続ける。


「私は我儘なんです。息子さんにも言いましたが、貴方には会ったのが初めてだから改めて言っておきますね?」


 顔を近づけて、鼻がつくほど近くで見つめ、伝える。


「私を利用するな。騙そうとするな。敵対するなら容赦しません。私が求めているのは、あの2人の子供達の幸せです。」


 うん。マモリちゃんやナノ君は、感情表現が人間に近くなった。俺は機械に近くなった事を自覚した。

 俺に復讐心はない。俺(ユーイチ)にあるのは、のんびり暮らしたい。俺(ウォル)にあるのは、遺された2人が幸せに生きて欲しい。と言う気持ちだ。俺にあるのは、危害を加えようとした者への処理する気持ちだ。


 さて、ちゃんと俺の要望も伝えたし、今度は扉やトイレの確認だな。笑顔に戻り尋ねる。


「さて、リッケルドさん。トイレを見たいのですが、どこでしょう。」


 ユーイチは部屋から出て行った。緊張して身体が強張っていたリッケルドはため息をついた。今までにない恐怖を感じていた。

 ユーイチの目を見たからだ。見下ろされた時、彼の目は人を人とも思っていない目をした。あの瞬間、ゴワイルから聞いていた人物には到底思えなかった。


 そんな事を考えられているとは知らないユーイチだが、実はユーイチはこの世界のトイレを知らない。

 ナノマシンになってから、食べたりしてもナノマシンに吸収されるから、トイレに行かなくなった。

 トイレと教わった扉を開けると、大きいツボがあった。壺の中を覗くと、水色のブニョブニョが蠢いていた。


(...マモリちゃん。スライムを見かけたって報告がなかったけど、居たんだね。目がないから可愛くないよ。)


(はい。動きが遅く、ある程度増えると、火で炙られて減る生物の為、危険度が非常に低い為、報告しませんでした。)


 うん。可愛い生き物をまだ見てないな。異世界来てるのに、オークにしか会えてないよ?

 そういえばエルフが居たな。まぁきっとババァだし、ノーカンで。


 洋式トイレ製作にも着手しよう。手すりなども設置する事を決めたユーイチ。

 そんな事を考えていると、メルビアさんとメルビアさんに似た女の子が鍋に一杯のお湯と水を持ってトイレに現れた。名前はメルシアちゃんと言うらしい。


「どうかしましたか?お湯の準備が出来ました。」


「ありがとうございます。それではリッケルドさんの所に向かいましょう。」


 ユーイチは、2人と一緒にリッケルドさんの所へ向かう。そして部屋に入ると、メルビアさん達に伝える。


「2人にはこれから、簡単なお手伝いをお願いします。今からリッケルドさんの髪を切って、頭を洗って、身体を洗います。小さい桶を2つ。同じサイズの桶か樽をもう1つありますか?」


 用意してもらってる間、ビニールシートを2枚、包丁、タオルを5枚、石鹸、オリーブオイルをナノ君に用意して貰う。


 背もたれのある椅子の下にビニールシートを引いて、リッケルドさんを座らせる。

 3人に説明しながら、首にタオルを巻いてから、その上にちょうど良い長さに切ったビニールシートを巻いて、リッケルドさんの股の間に、大きめの桶を置く。


「これで室内でも髪を切ったり、頭を洗えます。」


 ちょうど良い温度になるようにお湯を水で薄めて頭にかける。垂れたお湯は、ビニールシートを伝わり桶に入る。普段から髪を切るのは奥さんらしいので、かなり短めにお願いする。


「今回、私がやらずに2人にお願いしたのは、私じゃなくても出来る。お子さんでも出来ると言う事を実証する為です。」


 だいぶ髪がサッパリしたので、少しお湯をかけて流してから、今度はメルシアちゃんにアドバイスをして、石鹸で頭を洗って貰う。


「リッケルドさん。石鹸は目に入れると沁みますから、必ず目を瞑ってください。頭を洗う専用の石鹸ではないので、毎日使うと髪に良くないです。

 最低でも3日は日にちを開けてください。失敗するとハゲます。」


 ちょっと脅しておこう。髪には良くないはずだし。次は顔に石鹸をつけて、本人に髭剃りをしてもらう。介護の本質は『出来ない事を手伝う』事だ。

 自分で出来る事を奪う必要は無い。もう一度頭を洗ってからお湯で濯ぐ。綺麗に髪を拭いてから、次はオリーブオイルをメルシアちゃんの手に出して、頭と髪に揉み込んで貰う。

 ドライヤーも無いし、タオルで頭を巻いておこう。次は身体を洗うので、容赦なく素っ裸にしたユーイチ。タオルで前を隠してやっているのに文句を言うリッケルドさん。


「リッケルドさん。お尋ねしますが、貴方が他人のおっさんの裸を見て楽しいと思いますか?これは仕事です。」


 多分、この世界に来て1番冷めた目で言った気がする。目が合わないぞ?今度は体の下に引いたシートごと本人を桶の中に入って貰う。


「さて。2人に予言を聞かせましょう。」


 小さい声で、リッケルドさんに聞こえないようにある事を伝える。


 ユーイチは、タオルに石鹸をつけてリッケルドさんに渡して、自分で洗って貰う。


「全部洗えたぞ。」


「どうです?予言は当たるでしょ?」


「ほんとだ。お父さん。こっち側とか洗えてないよ?」


 2人には、『洗えてないのに、洗えたと言うはず。良く見てあげてください。』と伝えていた。


「リッケルドさん。片手だと、どうしても無理な部分が有るんです。そこは人に頼りましょう。」


 タオルをメルシアちゃんに渡すと、洗えていない部分を洗い始める。そして身体をお湯で流してから、身体を出来る部分は本人に。難しい所は家族にしてもらう。


 さて。寝たきりだから、尻の所に傷が出来ていた。寝返りをちゃんと出来ないと傷が出来る。


「メルシアちゃん。ジルさんを呼んで来て欲しいんだけど、お願い出来る?」


「いいですよ。」


「それじゃジルさんに、ユーイチが村長の家で来て欲しいって伝えてくれる?」


「わかりました。呼んできます。」


 さて、今のうちにリッケルドさんの身体を拭いて服を着てもらう。ん?お湯がだいぶ余ったな。


「メルビアさん。ちょうどお湯が余っているので、頭と顔だけでも洗ってみてください。これは旦那さんがどんな事をしているか知る為に必要な事です。髪が長いから、よく濯いでくださいね。

 リッケルドさんも、自分がどんな感じになっていたのか見るのも大切です。ちなみに私は席を外します。終わったら家の外にいますので、メルビアさんは声をかけてください。」


 返事も聞かないで外に出ている。もう限界だ。外に出て空を眺めながら深呼吸をする。

 さっきの進化のせいか、あの2人を傷つけて見捨てていた村の住人すべてを処分(皆殺し)したくなって来た。



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進化って聞こえはいいけど、デメリットも増えますよね。そんな事を思っている作者。

え?急に殺伐になるなって?そこは機械と融合しての合理的な判断と人間の不合理な判断でこんな形になりました。

ハートなど貰えるとチャールスJは喜びます。よろしくお願いします。

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