第19話

 異世界生活11日目


『ユーイチさん。朝になりました。朝食を食べにいきましょう。』


 身体がプルプル揺れている。震える目覚まし機能付き主人公ユーイチ。


「おはよう。マモリちゃん。ナノ君。」


『おはようございます。ユーイチさん。』


 《おはよう。ユーイチ。》


「さて、今日は晴れるかな?絶好の商売日和だと良いんだけど。」


 さて、布団から出て飯でも食べに行きますか。横で腹を出して寝てるエルフを起こすか。


「ジルさん。ジルさん。朝ですよ?ルークさんが朝食を作ってくれてます。食べに行きますよ?」


 肩を揺すっても、揺れないジルさん。女性には揺れる人と揺れない人がいるのです。ちょっと可哀想だな。そんな事を考えつつ、揺れないジルさんを起こしていると、『んーー!』と言いながら伸びをして起きるジルさん。


 カッと目を開けると俺を見つめる。振り上げられる右手。パチン!と叩かれる頬。だけど俺は痛くない。悪い事をしてないから。痛がるジルさん。


「ジルさん?朝起こしてあげた人に対してビンタは無いでしょう。ビンタは。」


 うん。この人に礼儀正しく喋るのは周りに人がいる時だけでいいと思い始めて、雑に話してる。ジルさんは右手を抑えながら涙目になっている。そりゃ金属をビンタしたら痛いよね。失敗したら骨折だ。


「んんーーーー!あんたの頬は何で出来てるのよ!痛いじゃないの!」


『金属製ナノマシン集合体ですか?』


 ジルさんの耳にナノマシンを取り付けて、マモリちゃんはジルさんと話しをするようになった。忘れてたんだろうね。『ビク!』っとしてから、キョロキョロしてる。


「あのね。マモリちゃん。そこは頬を柔らかくしないとダメよ。私が痛いじゃない。」


 ユーイチは呆れながら止める。


「おい。うちの可愛いマモリちゃんに変な事を教えるな。さて、目が覚めただろうし、朝食に俺は行くぞ?」


 ジルさんはブツブツと唱えながら、自分の右手に魔法をかける。昨日聞いた話しだが、この世界には魔法があり、どの種族も勉強すれば魔法を覚えられる。ある程度のレベルまで。

 そこから自分に合った特性の魔法を調べて勉強すると、そこの部分が伸びるらしい。

 ジルさんは幻影魔法と回復魔法に特化しているらしい。しかも呪文は録画してるが、エルフの言語だから何言ってるか今の所わからない。マモリちゃんも言語のデータ不足との事。


「ナノ君。今日もよろしく。」


 ナノ君の複製により、ベットの上に鍋が置かれて、ペットボトルの蓋をナノ君が開けてくれて、その中に水が入る。俺はその水で顔や手を石鹸で洗ってからタオルで拭く。そしてナノ君はそれらを分解する。


「あんたそれズルいわよね。ナノ君。そんなに甘やかすとダメ人間になるわよ?」


 ユーイチの目の中にメッセージが浮かぶ。


 《ユーイチ。ダメ。なる。?。ナノ君。世話。楽しい。ユーイチ。話し。かけて。くれる。》


 なんていい子や!最初は俺も思ったさ。荷物もまとめて出して貰って、リュックに背負っておこうと思ったんだよ。

 だが、ナノ君から1個づつ出して欲しい。と言われた。理由を尋ねると《いっぱい。話し。かけて。貰え。るから。》って理由だぞ!止められる訳がない。


「いいか。ジルさん。この行動は俺。マモリちゃん。ナノ君のコミュニケーションであり、家族愛なんだ。ダメ人間にならないように気をつければ良いのさ。」


『マモリちゃんも同様の意見です。』


「まぁ、あんた達がそれで良いなら構わないけどね。あと、くれぐれも部屋から出たらジル婆さんになるんだから、話し方も変えるのよ。」


「あぁ。わかっているさ。ジルさん。」


 ジルさんは支度をささっと済ませると、先に部屋から出て行く。俺もリュックを持って、部屋を出る。隣の部屋をノックすると、少ししてから『はい。どちら様ですか?』とミリィちゃんの声が聞こえる。


「ミリィちゃん。おはよう。ユーイチだ。下で朝食を食べようと思うんだが、2人は来れるかな?」と伝える。


『今行きます!』と言う声のほかに『レオン。起きなさい!朝ごはんが食べれるわよ。レオン。レオン!』と言う声も聞こえる。

 扉の前で待っていると、2人とも寝癖がついたまま飛び起きた感じである。


「はい。2人とも部屋に戻る。」


 そのまま部屋に戻してから、ナノ君にさっきの洗顔セットを2つ頼む。


「はい。これで顔洗うよ。水だから冷たいけどね。はい。これ石鹸。」


 ミリィちゃんは焦った感じで答える。


「石鹸なんて高い物使った事ありません。私達で使って良いんですか?」


「これはね。マモリちゃんとナノ君が出してくれたんだよ。2人ともお礼を言っておこうね。」


「「マモリちゃん。ナノ君。ありがとうございます。」」


 タオルが浮いて左右に揺れる。ナイスな返事の仕方だね。


「はい。こうやって顔を濡らしてから、石鹸を水につけて泡立てます。そうそう。それで石鹸を持っているから顔を優しく洗ってみよう。

 目を開けちゃダメだからね。触る感じはこんな感じで優しくね。」


 ユーイチは、2人の頭を撫でる。


「そうしたら、水で顔についた石鹸を洗い流す。ヌメヌメが無くなるまでね。」


 2人とも初めてのせいか、耳周りに泡が着いている。まぁ初めてにしては上出来だね。タオルを借りて拭いてあげる。


「後でこの石鹸はあげるからね。毎日顔をこの石鹸で洗うのは良くないから、2日に1回とかにしよう。」


「それじゃナノ君。これありがとね。いったん石鹸も片付けてくれるかな?」


 子供達の持っていたタオルも、消えて無くなる。


「いいかい?この二人の事は内緒だよ?話しちゃうともう2人に使えなくなっちゃうからね?」


 と軽く言い含める。昨日のおやつの時に口止めするの忘れてた。あ、ガンガン首を縦に振ってるよ。この子達。


「さて、ご飯を食べに行こう。今日の食事は何かな?」


 2人を連れて部屋を出て食堂へ向かう。


 食堂は朝から何人か村人達が来ており、ゴワイル親子とジルさんが同じテーブルに居る。席も空いているし、そこに行こう。

 名前を覚えていないが、村人達に挨拶をしながら席へと向かう。そして3人に声をかける。


「おはようございます。ここ、お邪魔していいですか?」


「邪魔じゃないぞ?3人を待っていたんだからな。」


 子供達は、ちゃんと村人達や3人にも朝の挨拶をして偉い。そして空いている席に着くユーイチ達。

 すると遠くから見ていたのか、ルークさんとアリアちゃんが朝食を運んでくる。メニューは野菜の入ったスープに、見た目はマッシュドポテト。そして分厚い黄色い中身の見えたパイだ。

 俺が知らないのを知っているからか、ジルさんがメニューを教えてくれる。


「おや、今日のメニューは、パンにスープ。クラッシュポトト。それに中身はあんたの奥さんの作ったブッシュボアのキリキルパイだね。美味しそうだ。」


 このパイの中身もキリキルなのか?今度は黄色い。ジルさんのは緑だったんだけどな。


「さて温かいうちに頂こうかの。『大地と森の祝福に感謝を。新たな縁と今日の恵みに感謝を。』」


 ジルさんだけ相変わらず同じ言葉を言ってから食べ始める。俺も食べよう。


「いただきます。」


 さて、まずはスープかな。うん。野菜の甘みが優しいスープだ。朝から体調を労られてる気がする。

 具材も名前は知らないが柔らかくホクホクして美味い。パンは昨日と変わらずだが、スープにつけると柔らかくなって美味しい。


(本日も素晴らしい味です。現在、ナノマシンによる探索範囲にて、群生している食用植物を調べさせたり、他の家の料理の情報を収集しております。確認された中で、スープの味付けはこの宿屋の味付けが1番だと判断します。)


(マモリちゃん?ナノ君と2人で、他所の人の家のスープを飲み比べてるの?)


(これはユーイチさんの健康管理の為の調査です。各家庭の材料。作る工程、味の評価を全てデータとして保管しています。

 ユーイチさんの精神面での負担の軽減。緩和には満足する食事を摂取した時の幸福感が今後も必要と判断しました。)


(自分の為では無いと?)


(はい。その通りです。融合している私にも、ユーイチさんと同様の幸福感を得るのは否定しません。)


 うん。ぶっちゃけ始めたな。マモリちゃん。まぁ人に迷惑かけてないし、成長は良い事さ。

 さて、ポトトか?ポテトもどきかな?と食べてみると、芋だな。だがポテトの中に調味料が入っており、多少だがパンチがあって美味い。個人的にポテトが好きなので、深皿でガッツリ食べたい。


 《ナノ君。パンチ。?。好き》


(私には少し刺激が強すぎますね。ですが、先日の教訓を生かし、味覚に関しての性能向上を目的に、自己進化を行いました。その結果をユーイチさんに報告させて頂きます。)


(進化したの?あのAI的な感じで?)


(私はこの量でしたら、刺激に幸福感を感じるように進化したのです。)


 うん。小さい子供が親の真似して食べて、『僕辛いの食べれるんだよ!』って言ってるようにしか見えないのは俺だけだろうか。と思いながら、ポトトは口をサッパリしてからだな。と心に止める。

 ちなみにそんなに辛くない。カレーで言う中辛と甘口の中間のパンチだな。


 そして謎のキリキル。肉のパイだよな。でも中身は黄色。

 取り分けてカブッと食べてみると、サクッとしたパイ生地の食感。そして中のソースはミートソースに似てるのか?小さい塊である肉を噛むと、酸味とともに肉の味がする。


 美味い。この酸味は何だろう?日本で言うと酸味は梅干し、野菜ではレモンや甘くないトマトやみかんが浮かぶ。どちらかと言うとトマトとみかんの酸っぱさに似てる?だが、嫌な酸っぱさではない。美味いからガツガツ食べている。


 《ユーイチ。マモリちゃん。また。停止。》


(また停止したの!?なんで?辛さはないよ?)


 《多分。酸味。?。が。原因。》


 酸味もダメか。覚えておこう。


(ナノ君は大丈夫?)


 《ナノ君。平気。辛み。酸味。お酒。好き》


 ん?なんか変な事聞いたぞ?


(ナノ君。お酒の味も平気なの?いつ試したの?)


 《最初。から。献杯。の。時。》


 本当か。確かにマモリちゃんには味を停止した方がいいよ。って言ったけど、ナノ君には言ってなかった。しかも美味しく感じてる。ナノ君は辛党だわ。


(まぁそのうちマモリちゃん復活するだろうし、食事をしてようか。)


 8人(?)でワイワイ喋りながら食べる、楽しい食事であった。ちなみにマモリちゃんが復活したのは、2時間後である。彼女の自己進化の先は長いようだ。




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後書き


マモリちゃんの調査の名目で、とうとう摘み食いを始めました。ちなみにユーイチの口から食べてないので、味覚の数値としての記録の為、幸福感を独り占めしておりません。

主人公は、ユーイチ、マモリちゃん、ナノ君、ウォル君の4人が融合したユーイチですので、今後も『ユーイチ』は自分(4人)の考えた行動で動いて行きます。

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