第18話
ユーイチは1人、薄暗い部屋の中、ランタンの光を見つめながら酒を飲んでいる。
ジルさんは結局酔い潰れるまでの間、自分の愚痴だけ話してベットで寝ている。
そんな姿を見てユーイチは思う。やっぱりエルフは長寿なんだろうか?中身はババァなのだろうか。普通に美人さんだからロリババァでは無いんだよな。人の姿はババァだけど。
そんな失礼な事を考えつつ、とりあえず隣でスヤスヤ寝ているので、風邪をひかないように追加でブランケットを出した貰い、かけておいた。
《ユーイチ。5人。来た。》
ナノ君から報告が入る。やっぱり来ちゃったか。マモリちゃんに頼んで身体に残っているアルコールを消してもらい、短剣を持って部屋を出る。
ユーイチはクリミアちゃんの部屋をノックする。あれ?酔い潰れたゴワイルまで起きたわ。さすが狩人達。扉が静かに開く。
「ゴワイル。寝てた所悪いんだが、荷馬車の元の持ち主と元村長が、俺の馬車を盗みに来た。」
ゴワイルはため息をつく。大変だな。村長補佐よ。
「とりあえず全員殴りつけて、気絶でもさせておけばいいか?」
「俺も行こう。カリウスを殴りつけるのは、俺の最後の役目だ。」
「了解。では納屋を壊すまで待つか?それとも荷物を漁るまで?」
「いや、納屋の前に居る時点で構わん。無理に納屋を壊させるわけにもいかん。」
「それじゃ先に、相手から手を出させてから片付けよう。俺の部屋はジル婆さんと酒盛りをして、寝ちまってるんだ。ゴワイルの部屋の窓から外に出ていいか?」
「お前、あの婆さんと酒盛りしてたのか?」
「ん?ああ。酔い潰れて寝ちまってるよ。」
「お前と出会ってから驚く事ばかりだ。それなら、この部屋から行こう。」
ゴワイルに持ってきた短剣を2本渡すと、ユーイチは部屋に入る。クリミアちゃんが起きていたので、自分の指を口に当てて静かにするように伝える。
そっと窓を開くと、星空が見える田舎風景が広がった。窓から吹く風が冷たい。
俺とゴワイルは静かに外に出ると、納屋の方は向かう。5人はキョロキョロと納屋に近づいている最中であり、男達は斧や短剣を持っている。
(マモリちゃん。ナノ君。録画お願いね。あと、筋力を人間だった頃に戻して貰って良いかな?)
(了解しました。録画開始します。)
ユーイチはゴワイルに手で待つように指示をして、ネタとして考えていたホラーな男を演じてみようと考える。
ユーイチは、宿の影からそっと顔を横向きに出して笑顔で言う。
「こんばんわ。良い夜ですね。こんな夜中にどうしたんですか?納屋の前で斧やら短剣やら握りしめて。」
5人は一斉に武器を構えてこちらを向いた。ユーイチは気にせず話し続ける。横向きのまま笑顔で。
「その納屋の中には、私が拾った荷馬車と宿屋の主人の物しか入っていませんよ?あぁ。そうか。貴方達は残念ながら荷馬車を捨てて逃げた方々でしたね。何か用ですか?」
昼間、遺族の間を割って入ってきた男が大声をあげる。
「てめぇが俺らの荷物を奪ったから、取り返そうとしてるだけじゃねぇか!」
「そうなんですか?私はあなた方がオークから逃げている所を助けて、それからオーク2体を倒してから持ち主のない荷馬車を拾ったのですが。」
「その馬車が俺らの物だって言ってるんだ!荷馬車から少し離れて避難している間にお前が持っていったんだろうが!口の上手いお前が村人を騙して村長を陥れたって事は聞いてるんだぞ!」
すると見ていたセミロングの青髪の女性が男を止める。
「やっぱり変だよ。私達だって村まで逃げたじゃない。村長さんの言う通り、あの人が嘘ついているって言うなら、なんで誰にも見つからないように夜中にコソコソしなきゃいけないのよ。」
「うるせぇ!俺はさっさと荷物を取り返して、こんな村からおさらばするんだ!この盗人野郎め!死ねぇ!」
そう言うと、大声を出して話していた男が走って近づいてきて、持っていた斧を振りかぶってきた。
ユーイチは倒れ込むように前に一本出ると、鳩尾に肘鉄を叩き込む。そしてそのまま相手の胸ぐらを掴むと、その場で180度回転して、相手を背負い投げの要領で投げ飛ばす。地面に頭をぶつけないように支えはする。だが受け身の取れていない男は見事に地面に叩き付けられた。
力は人間のまま。反射神経と判断能力は機械のまま。便利だ。学生時代の部活でやった柔道が、カッコよく見える。
多少の遊び心があったから、友人達と格闘技の真似事もした。某格闘ゲーム主人公のテツザンコウ?だっけ?それと投げ技のコンボだ。追加技もあるんだが、まぁ必要無いだろう。硬い土って痛いんだぞ?マジで。
投げ飛ばされた相手は、倒れながらゲロを吐いてる。ピクピクしてるけど、大丈夫だろう。死にはしない。
ユーイチは落ちていた斧を片手で持ち上げて、残った相手に笑顔で話しかける。
「話しているのに襲いかかるなんて失礼な人ですね。そう思いませんか?おや、元村長のカリウスさんもいるじゃないですか?私は貴方に言いましたよね?面倒は嫌いだと。しかもカリウスさん。今の話しだと、私が嘘をついていると?」
(マモリちゃん。人の姿の全力の腕力を出したら、斧の金属の部分って千切れると思う?)
(はい。可能です。)
(それじゃお願いします。)
「唆された行商人。唆した元村長。どちらも悪い人達ですね。
おや、なんでそんな可哀想な私に向かって武器を向けているのですか?何で膝をついて許しを乞わないのですか?そんな人達の首は」
ユーイチは話しながら一歩づつ行商人達に近づく。月明かりで明るい為、ユーイチが何をしているか見えるし、音も明確に聞こえる。
『バキ。』
足元に斧の持ち手の部分が千切られて、4人の足元に放り投げられる。
『ギャリン!』
2つに千切られた金属の斧が、4人の足元に放り投げられる。
「ネジ切っても構いませんよね?残念ながら私はオークの首や斧くらいはネジ切れるんですよ。
さて。あなた方の首はどの位の硬さか試してみましょう。まぁ今日の私は機嫌が良い。膝をついて謝れば許してあげるかもしれませんよ?」
(よし!マモリちゃん!目の眼球をライトアップ!)
(ユーイチさん。そんな機能は付いていません。)
(そうだよね。ごめんね。映画の見過ぎでした。)
あ、行商人の方々やカリウスも武器を捨てて膝をついて土下座してる。オシッコとか漏らさないでください。ここは宿屋の敷地内です。と思いつつゴワイルを呼ぶ。
うん。ゴワイルが呆れてる顔をされているが知らない。1度やって見たかった。後悔はない。後でナノ君に映像でみせてもらいます。カッコよく撮れているか。ゴワイルは大股でカリウスに近づく。
「カリウス!!貴様と言うヤツは、そこまで堕ちたか!!」
ゴツゴツ殴り始めたけど大丈夫かな?まぁ俺は約束を守った。ここの法律は俺知らないし。正当防衛は録画で実証される。
そしてゴメンよ。行商人の人達。そこで伸びてるヤツ以外はまともな人らしいね。ナノ君が調べて、マモリちゃんから報告を受けてました。でもな。今日のお前達には悪いけど、お前達の相手より、ジルさんの相手の方が疲れたんだ。
とりあえず、こいつらのの武装を回収しておくユーイチ。そろそろ死んじゃいそうだし、止めておくか。
「ゴワイル。そろそろお仕舞いにしよう。どこか犯罪者を隔離する場所とかあるのか?』
ゴワイルは両手を血に染めながら答える。
「あぁ。だが、少し距離があるから人を向かわせる。クリミア。今日の当番の所まで行ってきてくれ。捕縛者5名。」
覗いていたクリミアちゃんは、器用に窓から出ると何処かに走って行く。
人に刃物を向けるヤツは嫌いなんだよな。落ちて千切れた斧を拾って、盗人達の前にしゃがんで顔を上げさせる。
唯一の女の子で、まともな事を言った子だ。少々厳つくて、普通より体格は逞しいが、化粧をすれば可愛らしい子だ。目の前で泣きじゃくりながら震えている。
そうだ。今後の彼らの為に説教をしよう。
「投げ飛ばされたアイツみたいな『ギャリ!』平気で人に刃物を『ギャリ!』向ける奴らは『ギャリ!』嫌いなんだよ『ギャリ!』な。
それで『ギャリ!』いざ負けると『ギャリ!』文句言って『ギャリ!』きたりするしさ。」
聞いている彼らの顔には恐怖しか浮かばない。だがユーイチは続ける。
「お前らの罰がどんなヤツになるか知らないけど、ちゃんと反省しないと、次も酷い目に遭うぞ?広場で俺はちゃんとノビてるヤツに言ったぞ?『オークの首と同じ目に合わすぞ』って。
それと悪い事をしたら、まずはちゃんと謝れ。」
つい説教をしながら、壊した斧をちぎって細かくしてしまった。しかもこいつら全員怯えながら泣いていて、何言ってるか判らない言葉を喋っている。
そんな説教をしていると、クリミアちゃんがオッサン達を連れて来た。そっと足元に千切って細かくなった斧のカケラを捨てる。
「それじゃ、お前ら。ちゃんと反省するんだぞ?」
(そろそろ良いですかね?ユーイチさん。気分が落ち込んでいる様でしたので、少しアルコールを抜きませんでした。ストレス発散になりましたでしょうか?)
うん。急に冷静になった。行商人の人達って基本、騙されて付いてきてたから、そこまで悪人じゃないよね?伸びてるやつだけ生意気なバカなだけで。まぁ斧振りかぶっていたし、コイツは有罪だな。
スッキリしたし、ゴワイルに後は任せて寝ようかな?そっと窓へ戻ろうとすると、ゴワイルに肩を掴まれる。
「ユーイチが倒した男を運ぶのを手伝ってくれ。あのデカいのを運ぶのは骨が折れる。」
「みんないるじゃないですか?俺は被害者ですよ?」
「その被害者が脅したせいで、こいつらの腰が抜けてるぞ?だから運ばなきゃならん。クリミアにや俺に人を担いで行けと言う気か?」
(マモリちゃん。力を普段と同じに戻してくれる?)
(了解しました。)
クリミアちゃんと来た当番の人達は村の自警団らしい。今日の当番は、俺より若いオッサンで腹の出たザック。20代で嫁さんを貰ったばかりのゲイリー。あと、門番のダンチらしい。男で来たのが2人。俺とゴワイルを合わせて4人。倒れてるのが5人だ。
結局、ちびってるヤツともう1人を運ぶ羽目になった。ザックとゲイリーは、どっちが女性を抱いて運ぶかジャンケンをしようとしてる。それを冷めた目で見てる俺とクリミアちゃん。
俺に泣いて土下座してた女性に尋ねる。ビビって後退りしなくていいから。俺は男達を指差してこう言った。
「あそこのキモい2人に運ばれるか、あそこに倒れてるヤツと一緒に俺に運ばれるか、好きな方を選んでいいですよ?」
数分後。あのジャンケン2人組を置いて、俺は男を傍に抱えて、女性を肩に乗せて歩いてある。肩が湿ってるが仕方がない。道案内はクリミアちゃんだ。途中で女性が小さい声でユーイチに伝える。
「汚しちゃってごめんなさい。」
まぁ服は濡れるよね。まぁしょうがないと思うし、俺のせいでもある。ので、ユーイチは笑いながら答える。
「戦わずにお前達を捕まえる為とはいえ、怖い思いをさせたのは俺だからな。あまり女性を脅したりするのは心苦しいから大変だったよ。
まぁ明日の昼間になったら村人から話を聞くなり、羊皮紙の契約で話を聞いてみるといい。真実が判るからね。
いやぁ〜怖い男の演技としては満点だっただろ?あんな普段だったら俺だったら逃げ出すね。」
笑いながら言うと、女性は驚いた顔をした後に少し笑いながら答える。
「ホントに怖かったです。」
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少ないフォロワーさんが減ると悲しみがヤバい...けど、脳内溢れたのをガバッと書いたお話しなので、しょうがないかな(笑)と思うチャールスJなのでした。
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