第16話
前回の話し
「へっへっへ。待つんだ婆さん。俺から逃げられると思うなよ。」
「キャーー」
な姿に一般人は見えており、婆さんを森の中追いかけているユーイチです。
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ユーイチは気がついてしまった。暗い森の中、女性を追いかけ回してしまった事に。
「ジルさん!すみませんでした!こんな夜に追いかけ回してしまい、本当に申し訳ありません。」
ちゃんと頭を下げて謝罪する。失敗したら通報される。あれ?どこに通報されるんだろう?と頭によぎる。
(現在、警察などの機関は確認されておりません。)
《ユーイチ。平気。》
マモリちゃんに心を読まれるようになった。そして2人とも。平気じゃない事を平気と言っているのに気が付いているのだろうか?
そんな事を考えていると、ジルさんは腰を落とし、両腕を前に出し、いつでも戦闘に動ける体制を取りながら問い質す。
「私の幻影はバレないはずよ!何が目的なの!?」
うん。隠れてたのは確定だが、なんで隠れていたのか知らないんだよな。それに見えちゃったし。
まぁここまで来ちゃったんだから、仕方がない。ぶっちゃけよう。
「素直に話しますね。ジルさん。貴方の正体が人間のお婆さんでも、エルフの若作りなお婆さんでも関係ないんです。私にとって貴方は『ただのジルさんです。』
私があの村で興味があるのは、宿屋の食事と貴方の料理。そして1番は子供達だけです。手伝いの約束はあるんで、あの村に居ますが、契約通り一年後には村から私はちゃんと出て行きます。
今、貴方に村から逃げられてしまうと、あの村の人達や私は悲しむでしょう。
質問したのも、純粋な興味からなのです。気になさるなら、貴方が隠れてる理由も尋ねません。どうでしょうか?貴方が信用ならないなら契約でも交わしましょう。貴方の正体を私は他人に話さない。と。」
ジルさんがポカンとした顔で見つめてくる。美人だよな。エルフって。
マモリちゃん。ナノ君。大丈夫。ちゃんとジルさんに戻って貰うから。またあの料理が食べれるように説得するから!
真面目に話している間、マモリちゃんからは『ジルさんを確保する事が、この世界に過ごす上での最優先事項です!』と言われ続けている。
「貴方は何を言ってるの?私はエルフよ?しかも耳長の。それをわかって言ってるの?」
エルフは耳が長いのは知ってます!それよりヒートアップしないで2人とも。
脳内に流れるマモリちゃんの応援。目の前には《ユーイチ。頑張って。》と大きな文字が見える。
「そうですね。エルフですね。誰にも話しません。」
「嘘よ!人間はみんな嘘つきだから、私は幻影をかけてまで辺境で暮らしてるんじゃない!」
相当な人間不信だな。どうしよう。まぁこんな時は秘密の共有とインパクトをぶつければ大抵は何とかなる。
「貴方だけが秘密を抱えてると思ってるのですか!私だって平和に暮らしたいと思ってあるんですよ!
ですが、『力があるんだから片付けろ!』や『お前が便利すぎるからいけないんだ!』とか言われる気持ちが分かりますか?
テメェらが勝手に頼ってきてるんじゃねぇか!俺のせいにするなよ!そんな奴らのせいで旅に出てる人の気持ちがお前にわかるか!俺をそこら辺にいる屑ども一緒にするんじゃねぇ!!」
逆ギレである。ユーイチの日本の看護助手時代の記憶が出てくる。男性スタッフで働いていると、女性達は徒党を組む。
『男だから力仕事をお願い。』と、仕事が減らされずに追加で仕事が来る。そして『仕事が遅いんだから。』と文句を言う。
押し付けた仕事が減った時間、ナースステーションの裏でお茶して、タバコを吸ってるの知ってるんだぞ?院内禁煙ってなっているのに、隠れているスタッフ達。
そんな記憶と共に逆ギレしたユーイチである。ジルさんは驚いた顔をしてるな。よし。感情を入れて畳み掛けるぞ!!
「お前がエルフで美人だから逃げてるんだろ?そりゃジルさんは金髪の可愛いより美人さんなタイプさ。俺だって街中で居たら2度見。いや3度見はするね!
そりゃ綺麗なものを見かけたら見るのは当然だろ!そして、悪い奴やエロい人にバレたら、どうせ捕まって売られて慰め物になったりするから逃げてるんだろう?お前だけ不幸だと思うなよ!
俺はただ『あ、美人さんだなぁ。』と目の保養をする位で、捕まえる気は無いの!」
俺だってモテる男に産まれたかった!だが、そんな気持ちも伝わっていないのか、ジルさんはムカっとした表情で怒鳴り返してくる。
「貴方にこの気持ちがわかる訳ないじゃない!変な脂ぎった貴族から『妾になれ!』とか、『第三婦人にしてやろう!』とか、気持ち悪いことばかり言われる気持ちが!」
なんかイラっとした。
「【ばーーか!】そんなん美人に産まれたエリート様の持つ者の妬みです!じゃあ貴方は俺の気持ちはわかるんだすか?カッコ悪い、モテない男の気持ちが!!
バレンタインなんて家族からしか貰わないんだぞ!職場の人から「今日は何個もらったの?」とか聞かれる度に、イラっとする気持ちがお前にわかるか?異性として見られないんだぞ!」
「知らないわよそんな事!何よ!【ばーーか!】って意味わからない言葉使わないでよ!なんか腹立つ言葉ね!!それに知らないわよ!バレンタインなんて!!」
バレンタインを知らないだと?マモリちゃん!チョコレートを作成!急いで!!リュックじゃなくて良い。梱包無しのまま掌に載せて!
「これがバレンタインに送るチョコレートだ!食らえ!」
瞬時にジルさんの近くに寄り、頭を抑え込んだから口の中にチョコレートを捻じ込む。バタバタするな!暴れるな!こら逃げるな!
「いいか?これがチョコレートだ!バレンタインに好きな相手にチョコレートをあげる。それがバレンタインだ!!
それを貰えない人は悲しみに暮れて家に篭り、世の中のカップルを呪う日なんだ!バレンタインなんてチョコレート会社の策略だ!踊らせやがって世の中の人間どもは!!」
(ユーイチさん。落ち着いてください。ジルさんがチョコレートに襲われて気絶しかかっています。)
は。冷静になれ。これはジルさんの説得だ。逆ギレし過ぎた。とりあえず押さえつけていたジルさんを話す。ジルさんの顔はチョコレートでベトベトだ。
「いいか。ジルさん。俺は他の人達と違う。一緒にしないでくれ。わかって貰えたかな?」
「わかったけど、苦しいわよ!バカ!!」
ビンタされた。あれ、マモリちゃん。ナノ君。叩かれた頬が痛いんだけど。どうしてかな?
(今のはユーイチさんが悪いと判断致しました。ナノ君も同様の判断をした為、人間の痛みを再現して衝撃として与えました。
外傷の確率は0%でしたので。このような場合が次あった際は、同様の衝撃を与える事を推奨します。宜しいですか?)
脳内にナノ君から送られた映像が流れてる。暗い森の中、金髪美女に襲いかかり、口の中に無理やりチョコレートを押し付けるオッサン。ジルさんは一生懸命、何回も短剣で俺のお腹を刺している。俺、人生で初めて刺された。
ユーイチはチョコレートを口にねじ込んでる最中に気がつかなかったが、マモリちゃんとナノ君は一生懸命止めていた。
(...今後、似た事があった際は同様の衝撃を与えてください。お願いします。)
しかし、この世界に来て初めての痛みを伴う攻撃が、ビンタとは。
「所でアンタ、なんで短剣でお腹を刺されてるのに傷すらつかないのよ。」
「自分、頑丈なんで。」
「なんで服すら破れてないのよ。」
「...自分の服、頑丈なんで。」
「....私、無理やり襲われたんだけど。」
気がつくと、ユーイチは土下座をしながらお願いをする。
「すみません。契約でも宜しいでしょうか?内容は、『秘密をお互い話すので、他の人に話さない。』でどうでしょうか?」
「...まぁいいわ。さっさと村に戻って契約するわよ。」
ユーイチから一定距離を取ったまま歩いているジルさん。村の全てを把握しているユーイチ達は安全に堀を飛び越えて村へと戻る。
「ジルさん。すみませんが、羊皮紙の契約に使うのは持っていますでしょうか?持っていたら一つ頂きたいのですが。勿論お金は支払います。」
ジルさんはイラっとした顔で答える。
「銀貨1枚よ。安くしないわよ。」
「わかりました。宿に戻ったら支払わせて頂きます。どうしましょう。私はここにいた方が良いですか?それとも宿で待っていた方が良いでしょうか?」
「家まで来て欲しくないから、宿にいてください。ついて来ないでください。」
そうだよな。当然だ。怒らせてしまったんだから。
「わかりました。宿にいます。とりあえず子供達の隣の部屋を取る約束なので、そこに部屋を取っています。」
元の荷馬車の持ち主などどうでも良い。この問題を解決しなければ。と考えながら1人歩くユーイチなのであった。
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