第15話
幸せな夕食を終えると、レオン君は椅子の上で寝てしまい、ミリィちゃんもウトウトしていた。
オッサン正直このまま寝たい。だが、やる事が残っているので頑張ろう。
ルークさんに子供達の部屋を頼むと、アリアちゃんがランプを二つ持ちながら案内をしてくれるらしい。
人差し指で『しー』とやると、アリアちゃんも笑いながら『しー』とやってくれた。異世界でも通じるらしい。
「ジルさん。少し席を外します。」
「私に気にせず、子供達を寝かせておやり。」
ユーイチは席を立つと、レオン君を抱き抱える。その姿に驚いて目をちゃんと開けて起きたミリィちゃんに『2人の部屋を用意したから休みなさい。』と伝える。
すると『ありがとうございます。』と言い、また泣きながら部屋まで着いてきた。
オジサンの胸が痛むから泣かないでおくれ。ユーイチはアリアちゃんの案内で部屋まで着いていくと、部屋は簡単なベットが2つ置いているだけの狭い部屋だった。窓っぽい木製の板がある。
「いつもは1つのベッドで一緒に寝てるから、ユーイチさんも寝ますか?」
と言っているので、レオン君をベッドの上に寝かせると靴を脱がせる。
「オジサンは隣の部屋を借りるから、何かあったら声をかけてくれるかい?まだ下で話しをしていると思うけどね。」
ミリィちゃんは泣き虫だね。
「わかりました。本当にありがとうございます。」
ユーイチは、ミリィちゃんの頭をワシャワシャと撫でてから、アリアちゃんと食堂へ向かう。アリアちゃんがユーイチを見上げながら聞く。
「おじちゃんは2人の家族なの?」
「オジサンは、2人の家族になれたらいいなと思うかな。」
「アリアは、いいと思う。」
にこやかに笑いながら見上げてくるアリアちゃん。その姿を見て俺も笑う。2人で食堂へ戻ると、ゴワイルが宿に来ていた。ユーイチはゴワイルに声をかける。
「ゴワイル。お疲れ様。大変だったな。」
ゴワイルは相変わらず渋い顔のまま、献杯に使ったウィスキーを飲みながら答える。
「誰のせいだ。俺は責任を取って補佐を降りるつもりだったんだが、ユーイチのせいでまた補佐になってしまった。」
「責任の取り方は辞めるなり、次を支えるなり色々とあるんじゃないか?それが今回、次も支えるって事になっただけだ。」
うん。騙された感じするんだろうね。俺もやられたらそう思う。
「しかも、ジル婆さんのキリキル漬けまで綺麗に無くなっているし。ジル婆さんは、本当に自分が作る気にならないと作らない頑固な婆さんだから、俺も久しく食べてないんだぞ。」
それは悪い事をした。だが、1番食べてたのはお前の娘さんだぞ?ゴワイルから顔を背けてるし。横を見るんだ!気が付け!ゴワイル。
そんな事を考えつつ、ユーイチは席に着く。
「それで、話してた通り、荷馬車の荷物を少し安くして売る事について伝わってるか?」
「あぁ。変な甘ちゃんが住み着く事になるな。と言う意見を村人が言っていたので、『確かに甘いが、利用すると村が滅ぶぞ?俺でも勝てん。あいつは利用される事を嫌う。頭も回る』と言って脅しておいた。」
うん。素直に教えてくれるんだよね。ナノ君からの報告も同じ事を聞いた。
「さっき聞いたが、何故村人達に金を配ろうとする?普通はそんな事をしないだろう。」
ゴワイルが聞いてくるが、どちらかと言うとジルさんに聞かせる感じかな?
「あぁ。少しの間、村に居るんだから話しておくか。俺もオークに襲われる以上の抗えない不幸に見舞われた事がある。
今思っても、生きてるのが不思議だ。だからその幸運のお裾分けをしてるだけだ。後、2人の子供達にそっくりな妹と弟が居たからな。もう会えない遠い所に行ってしまったが。」
嘘は言わない。正確な事を言わないだけ。
「だから、ミリィちゃんらレオン君には幸せに生きて欲しいと思う。だから約束通り、手伝いや村の発展に協力はするが、優先度はあの2人が上でだな。
1年後に旅に出るだろうが、あの2人が今後の生活していくのが無理だと判断したら、2人を連れて旅に出るかもな。」
残りたいウォル君の気持ちもあるが、縛られるつもりもない。もちろん2人を大切にするさ。
「ゴワイル。この後に時間を取れるか?少し聞きたい事があるんだ。契約について。」
「ああ。大丈夫だ。」
「ジルさん。キリキル漬けの代金はいくらになりますか?ジルさんのお陰で、私も子供達も幸せな夕食を食べる事が出来ました。」
あまりに美味い物だ。バナナでは足りない。するとジルさんは笑いながら答える。
「美味しい変わった物も頂いたし、ユーイチさんの村へ来た記念だ。お代は要らないよ。」
遠慮するのも失礼か。
(マモリちゃん。ウィスキーを出してくれる?)
(了解です。)
リュックにウィスキーを出すマモリちゃん。
「では、これはお近づきの印に。ここを回せば蓋が開きます。度数の強い酒ですので、水で薄めて楽しんでください。」
ジルさんの目が少し開いた。ゴワイルが抱えて飲んでるのもジッと見ていたみたいだし。それを一本くれるって言うんだから。残り少ないゴワイルの手元の酒を握りながら、ゴワイルもそちらを見ている。
「こんな高そうな物を貰って良いのかい?値段に釣り合わないよ。」
「私がこの村で1番美味しいと思えた料理に出会えたんです。こちらこそ釣り合わないと思っています。またジルさんが料理を振る舞う時には是非とも御相伴させて下さい。それ位、ジルさんのファンになりました。」
あの料理は美味すぎる。材料や調味料が是非とも知りたい。マモリちゃんとの約束だ。逃さないぜ。そんな事を考えつつ、笑顔で食事のお礼を伝える。
ジルさんが席から立ち上がるので、俺も立ち上がる。
「そろそろ夜も遅いし、帰るとするよ。」
「女性の夜道は危険ですので、近くまでお送りします。」
「こんな婆さんは、モンスターでも襲いやしないよ。」
そのジルさんの言葉に酒が回ったのか、ゴワイルが酔っ払って笑っている。笑顔が怖い。
「ゴワイル。女性に対して失礼だぞ。女子供を守るのは男の誇りだ。」
アニメで観たようなセリフを言ってみる。
「それじゃ、護衛を頼もうかね。騎士様。」
ジルさんは笑いながら伝えてくる。
「ありがたき幸せ。姫様。」
と笑いながら片目を瞑って礼をしてみる。リュックからランタンを取り出すと、灯りをつけてから店の扉を開ける。
夜の寒さが肌に触れる。今は日本の10月位なのかな?
(現在の外気温は16.7度です。温度調節を致しますか?)
(大丈夫だよ。マモリちゃん。ありがとね。)
「不思議なランプだねぇ。魔道具かい?」
魔道具?これもゴワイルに聞く事になるな。
「似たような物です。あまりこの辺では見かけませんが。」
夜道を歩きながら、ジルさんと話しをする。
「まぁ魔道具は高いからねぇ。昔見た魔道具も、金貨8枚と目が飛び出たのを覚えているよ。」
村のやりとりをマモリちゃんが調べており、日本円換算で計算すると、
銀貨:1万
銅貨:1000円
鉄貨:100円
屑貨:10円
となっているようだ。金貨なんか調べて貰った時に使っているのを見た事無いから、良い値段だろう。
「そんなに高いと確かに目が飛び出ますね。」
「だから、外でそんな高そうな物は見せたらいけないよ。婆も忘れてあげるから。」
「ありがとうございます。不躾ながら、お願いをもう一つしてもいいですか?」
民家の間の夜道を2人で歩く。
「なんだい?ちなみにキリキル漬けのレシピは門外不出さ。」
「残念。ではもう一つの疑問を。『なぜ老婆の格好に化けているんですか?美しいレディ?』」
ジルさんは一瞬でユーイチから離れると、門のない塀へ向かい走り続ける。そして堀を飛び越えると森の中は一目散へと走り去っていく。
(マモリちゃん。ナノ君。ジルさんは早いね。ゴワイルさんより早くない?)
(比較対象。ゴワイルに比べて3.8倍ほどスピードが出ています。追いますか?)
(うん。驚かすつもりはなかったんだけど、あのままだと村に戻りそうにないから追いかけよう。)
(では、狐狩りの要領でジルさんを追い詰めましょう。)
そんな事とは知らず、ジルは森の中を走り抜けているが、走る方向からユーイチの声が聞こえる。
「ジルさん。話しを聞いてください。ただ疑問に思って聞いただけです。貴方を害するつもりも人に話す気もありません。」
ジルさんは走る方向を変えて逃げるが、その度に前方からユーイチの声が聞こえ続けていた。
ナノ君が、俺の声を遠くまで飛ばしてジルさんに声が届くように放送している。ナイスな仕事ぶりは尊敬に値する。
追われているジルさんは、耳元で囁かれる恐怖を感じながら、全速力で20分ほど逃げ回り続けたが、そのうち諦めて森の中で立ち止まる。
ユーイチは、ジルさんの場所まで歩いていくと声をかける。
「やっと会えた。ジルさん。貴方を害するつもりはありません。話しを聞いてくれませんか?」
マモリちゃんやナノ君にはお婆さんに見える。だけど、何故かユーイチには耳の長い金髪美女にしか見えない。
耳のとんがったスレンダー体型。うん。この世界初のエルフだ。異世界に来て初のエルフだから興奮はする。だが、漫画で見ていた人が目の前にいるなぁ。位にしか感じない。
暗い夜の森をオッサンが金髪美女を追い詰める。日本で言う犯罪行ったら、100%犯罪である。そんな事件に気が付かず、ユーイチは話しを始めるのであった。
読んで頂きありがとうございます。投稿時間を理想は毎日18時に投稿していきたいと思います。そのお知らせの為、少し早いですがこちらも投稿しました。星の評価や感想、レビューなど楽しく読ませて頂いています。正直やる気に繋がるので、頂けるとチャールスJは喜んで踊ります(笑)
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