第14話

 マモリちゃんから、あと少しでルークさん達が帰ってくる事を教えてもらう。


「さて、ナノ君。今日も片付けをお願いします。」


 そう言うと、子供達の目の前で溶けるように消えていくフライパン達。驚いて見ている。


(マモリちゃん。ナノ君。確認出来る範囲で、子供達に何かあったら優先的に助けてあげて貰っていいかな?)


(分りました。)


《了解。ミリィ。レオン。助ける。》


(ありがとね。)


 悪い大人であるユーイチは楽しみにしていた『ある一言』をニヤニヤしながら子供達に伝える。


「さぁ。約束通り、衣食住の面倒は俺がするからね。今日はここで夕飯を食べて泊まろう。明日の仕事の話しもしたいからね。

 勿論、おじさんがお金を出すから、ミリィちゃんもレオン君も気にせず食べていってくれ。」


 子供達の「え?今から夕飯食べるの?もぅお腹一杯だよ?」と言う表情。1度やってみたかったんだ。悪い大人だなぁ。俺は。


 まぁあれだけ泣かれた後に、抱きながらお腹を鳴らしていたのを聞いてしまった俺が耐えられなかっただけだ。俺の勝手な理由だ。そんな事を考えていると、ルークさん達が帰って来た。


「ユーイチさん。お待たせしました。今から店を開けますので。」


「いえ。こちらが早く着いていただけですので。それとすみませんが、少しお話しが。」


 そう言って子供達から離れる。


「実は、この2人の世話をこれからして行こうと思っています。2人には俺の手伝いをする報酬として、生活を面倒みると伝えているのですが。

 そして、今日のオーク討伐の際に荷馬車を拾っているんですが、元の持ち主達の印象が悪くて、もしかしたら襲われるかもしれません。私達が泊まると迷惑をかけてしまうかもしれません。」


 するとルークさんは笑いながら言う。


「ええ。村の子なので現状は知っていました。私達に金銭的な余裕がなく、助ける事が出来ませんでしたが、その協力でしたら私にも出来るので手伝わせてください。

 納屋に荷馬車が入りますし、夜は鍵を閉めます。村の為に動いてくれている人を追い出すなんて出来ませんよ。」


 事情を説明しても泊めてくれるのはありがたい事だ。


「では、納屋の方は案内します。荷馬車を入れたら、すぐ鍵をしますね。」


 ユーイチは荷馬車を運び始めると、ある事を思いついた。映画やドラマであるけど、実際にあるのだろうか?と。


(ナノ君。頼みがあるんだけど、この荷馬車に板が外れたりして、その中に隠してるような物があるか調べてくれる?見えない所に銀貨とか宝石とか。)


 《コレ。?。何か。あった。》


(あるんだ。取り出せる?ありがとう。助かったよ。ナノ君。また板は戻しておいてくれる?)


 本当にあるんだなぁ〜。荷馬車に隠し財産って。


「荷馬車に積んでいる私の荷物を持ちますので、少し待っていてください。」


 荷馬車に乗り込むと、リュックに隠されていた袋を詰め込む。その上に取り出していたキャンプ用品などを詰め込む。

 そうだ。短剣も2本持って行こう。木剣は宿の中では狭いから、荷馬車の横に置いておく。


 早急に金の価値や、生活の知識などを聞く必要が出てきた。物の価値が判らないと、判断のつかない物が多すぎる。羊皮紙の契約書も何枚か欲しい。


 そんな事を考えながら、ユーイチは荷馬車から飛び降りて納屋から出ると、ルークさんが納屋に鍵をかける。


「ルークさん。子供達の前で言えなかった事がもう一つ。死んだ兄の事を思い出したらしく、ルークさんが来るまでの間、泣き続けていたので、夕飯前ですが少し食べさせてしまったんです。

 なので子供達の食事は残してしまうかもしれませんが、残した分は、私が責任を持って美味しく食べますので。」


 ルークさんは苦笑いをした後に「今度からは程々にお願いしますね。」と言われた。すまない。


 店内は蝋燭で明るくなっているが、日本に比べて薄暗い。そこにルークさんが呪文を唱えている。


「光明(こうみょう)よ。我らを照らせ。温かな光の祝福を。『ライト』」


 うん。めっちゃ日本文化のような呪文詠唱だな。やっぱり目の前で見ると驚く。ナノ君経由で見ていたけどね。

 子供達はテーブルに着くと、夕食が来るのを楽しみ(?)にしているようだ。


 レオン君はユーイチに聞いてくる。


「おじちゃん。マモリちゃんはご飯食べないの?」


「マモリちゃんは、おじちゃんの身体の中にいる妖精さんに似た感じだから、おじちゃんが食べた味を楽しんでるんだよ?」


「それなら僕の分をマモリちゃんにあげる〜。」


 子供ながらに考えた知恵だな。まぁ小さい子にパン一枚とか食べさせたら、お腹一杯になるよな。ただでさえ痩せていて、胃も小さいだろうから。


「レオン君が先に食べて、残ったらレオン君の分を貰うから、まずはレオン君が食べようか。ここのご飯も凄い美味しいんだよ?」


 慌てるレオン君が可愛いな。と思いつつ見てる。


「所で、クリミアさんとミリィちゃんは知り合いなんですか?」


「はい。小さい村ですし、年の近いミリィとは小さい頃から遊んでました。私は狩人の勉強もありましたから、最近は会ってませんでしたが。」


 まぁ村の大きさからして知り合いだよな。そんな会話をしていると、店の扉が開く。すると、布を羽織ったお婆さんが籠を持ちながら店に入ってきた。


「お邪魔するよ。ここにクリミアはいるかい?」


 クリミアちゃんは椅子から立ち上がると、お婆さんの所に駆け寄る。


「ジル婆!ありがとう!来てくれたんだね。ジル婆にも紹介したいんだ。ユーイチさん。この人が話していたジルさん。みんなからはジル婆って呼ばれています。」


 この人がジル婆か。ユーイチは不思議に思いつつ、その姿を見つめる。まぁ今は聞かないでおこう。

 そんなの事を考えつつ、ユーイチは椅子から立ち上がり、笑顔で挨拶をする。


「初めまして。ユーイチと言います。本日は私の勝手な願いを聞いてくださりありがとうございます。ジルさんとお呼びしてもいいですか?」


 ジル婆は笑いながら答える。


「初めまして。村の若者からはジル婆と呼ばれている何処にでもいるババァさ。だから呼ぶ時はジル婆でいいんだよ?」


「親近感の湧く呼び名ですが、年上は敬うよう厳しく言われた身としては、ジルさんと呼ばせて頂く事をお許し願いませんでしょうか?」


 ジル婆は笑いながら答える。


「普通に話してくれるならジルさんで良いよ。アンタは真面目な家柄なんだねぇ。」


「いえ、ごくごく普通の家庭ですね。そんな家から風来坊が出てしまったのです。」


「だけど、その風来坊のお陰で村が救われたんじゃよ?ありがたい風来坊じゃ。」


「宜しければ、村の話しを聞かせてもらえませんか?ご一緒に食事でも。初めて会えた縁ですし。」


「なら御相伴に預かろうかねぇ。」


 ジルさんより先に歩き、椅子を引いて誘導する。


「こんな田舎村に、紳士が居たもんだ。」


 と笑いながら籠をユーイチに差し出すので、ありがたく受け取り、それをテーブルに置く。そして椅子に座るジルさん。


 するとパンやスープを運んできてくれたルークさんは、ジル婆さんにも挨拶をしてから、こう伝える。


「ジル婆さんがキリキル漬けを持ってきてくれると話していたので、それにあったメニューを作らせて頂きました。皆さん今日だけですからね。

 明日からはいつもの一押しメニューに戻ります。」


 キリキル漬け。どんな物だろう。と期待していると、籠から出て来たのは巨大な葉に包まれた一つの塊。

 その葉な包まれているのを何枚も開けていくと、不思議な香りが一面を漂う。そして中から出て来たのは緑色のソースのかかった柔らかそうな肉の塊。


(ユーイチさんに報告します。新たな機能を自覚した事を報告します。人間で言う嗅覚、触覚、第6感と推察されます。)


(マモリちゃん、急に自覚したの?嗅覚、触覚はわかるけど、第六感って?)


(人で言う『食べたら幸福感に包まれる』のを予測出来ます。)


(うん。それは『美味しそう』と感じたんだね。)


(訂正致します。美味しそう。と感じています。厨房奥にある肉の塊に関しては、私には危険だと予測されます。)


「さぁさぁ。みんなで食べましょう。いまジル婆が切り分けてあげるからね。」


 ジルさんはナイフとフォークを使い肉を切り始める。肉は『ぷるん』と弾けるように切れた。薄い緑色のソースと刻んだ葉と漬け込まれた肉という感じだ。


 切り分けられた肉は、ユーイチ達の前に置かれた。ジルさんは自分の分も置くと、目を瞑り、左手を胸に当て、右手を額に当てる。


「『大地と森の祝福に感謝を。新たな縁と今日の恵みに感謝を。』」


 ジルさんが目を開けると、「さて、いただこうかねぇ。」と言い食べ始める。


 ユーイチも「いただきます。」と言ってから、フォークで肉を刺してみる。肉は柔らかく、プルンとしか感触がフォークから伝わる。ナイフで切ろうとするか、殆ど切る事もなく、ナイフの重さで肉が離れた。

 期待しながらその肉を口の中へと入るユーイチ。


 《美味い!!!》


 なんだこの肉は・・・・・・・!?食べた感触もある。歯応えもある。だがこんなにプリッとした柔らかさの肉なんて初めて食べた。


 この緑色のソースが、肉の旨味を引き出しているのがわかる。この1番の主役は風味だ。バジルなどの香草の匂いがするが、嗅いだことのない香りがする。口に入れて飲み込んだ後にも残る芳香。

 ソースもこの香草で作られているのか、肉に香りが染み込んでいる。味も美味い。だが、これは香りを食べる料理だ。


 見るとお腹の膨れていた子供達も、バクバク食べている。マモリちゃんからも次を食べるように勝手に腕を動かし始めた。待って!自分で食べるから!

 スープはスッキリとした味付けで、鼻の中の香りを洗い流してくれる。そしてパンにソースをつけたり、肉を楽しんで風味を新たな気持ちで楽しませてくれる。


 気が付いたら食事は食べ切っていた。


 ミリィちゃんやクリミアちゃんも満足そうで、レオン君はお腹をまん丸にしている。


(ユーイチさん。食事は素晴らしい文化です。私は、味覚、嗅覚、触覚の機能に優位性を確認しました。散布したナノマシンから、この料理の製造工程のデータを確認。残念ながら一部しか保管されていません。

 後日、改めてこの料理の製造依頼をする事を『ユーイチさんに相談』致します。必ず製造手順のデータを入手、確保してみせます。)


 ナノ君からもメッセージが。


 《マモリ。ちゃん。ナノ君。共有。幸せ。》


 ユーイチは異世界に来て初めて良かったと思った瞬間であった。




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