第13話

ゴワイルに役職を押し付けてきた。これでゴワイルは村八分にならないだろう。そしてユーイチは、演説している間泣きそうな感覚に陥っていた理由である2人の子供の所へ向かう。


 1人は中学生位の少女。もう1人は宿屋のアリアちゃん位の男の子。2人とも赤茶色の髪をしており、他の人達より汚い格好をしている。


 毎日服を洗ったりする余裕も無いんだろう。2人の子供の前に立つと、小さい男の子は女の子に抱き付きながらも、俺の前に立ち塞がった。小さいながらも姉を守っているようだ。


 俺はしゃがみ込んで笑顔で尋ねる。


「こんにちわ。俺の名前はユーイチと言います。これから少しの間ですがこの村に住む事になりました。2人のお名前を聞いても良いですか?」


「わ、わたしの名前はミリィです。あと、弟のレオンです。」


 うん。声を聞くだけで胸が締め付けられるね。原因はわかった。マモリちゃん達にも後で話さないと。


「初めまして。ミリィちゃん。レオン君。ちょうど子供に頼みたい仕事があるんだ。両親は居たりするかい?」


「両親は居ません。兄もこの前、オークに殺されました。」


 2人は泣き出してしまう。胸が締め付けられる。落ち着け。俺。ちゃんと助けるから。


「では2人で生活をしているなら、仕事を頼みたいのですが、どうですか?報酬は俺が村にいる間、君達の衣食住の面倒を見ます。あと賃金も少しですが払います。」


 ミリィちゃんは泣き出してしまった。つられてレオン君も泣き出す。どうしよう。胸が痛い。周りの視線も痛い。俺は悪い男じゃないよ?周りの村人達に聞かせるように2人の子供達に伝える。


「何人かこちらを気にしてくれているので、追加で話しておきますね。

 私は荷馬車の荷物を全て売りに出します。金額は村の人達が適正だと思う金額から1割引いた値段で売る事とします。なので、買いたい人はちゃんと金額を決める為に話し合ってもらいます。

 売り上げは俺と、死んでいった若者達の人数で均等にわけて、若者達の家族に渡します。これはゴワイルも承知の事です。」


 幾らになるか知らないが、これで子供達にも金を渡す事が出来る。驚く村人達。

 この世界では死んだ人に金を渡す事はなさそうだな。まぁいいさ。この子達にお金を渡す口実として、今浮かんだ事だからな。


「子供達には明日以降の販売の手伝いを頼みます。賃金も私が出します。子供達が落ち着いたら仕事の話をするので、私達は荷馬車に居ますね。」


 泣きじゃくる子供達を自然と抱き抱えた。うん。俺は誘拐犯じゃない。それに、抱き抱えるつもりは無かったぞ。

 身体が勝手に動いた気がする。子供達は俺に抱き付くと、抱きついたまま泣いている。俺が泣きたい。とりあえず荷馬車へと戻る。


「ユーイチさん。何やってるんですか?村の子供を泣かして。」


 クリミアちゃんがジト目で見てくる。俺が泣きたいんですよ。


「彼らには、俺が村にいる間の手伝いを頼みました。衣食住の世話と賃金を払います。あと、クリミアさんにも仕事の依頼をしたいんです。

 後日、この荷馬車の荷物を売りに出そうと思うので、手伝ってくれませんか?

 それと、荷物の中に美味しい食べ物とか有るようなら教えて下さい。自分でも買うので。」


「ユーイチさんの持ち物を、自分で買うんですか?」


 変な顔で見られてる。売った金を亡くなった村人達と分ける事にした。と伝えたらもっと変な顔をされた。『お人好しですね』とクリミアちゃんに言われた。解せぬ。


 クリミアちゃんと話してる間も、ミリィちゃんとレオン君は離れない。荷馬車に座りながら背中をポンポン叩きつつ落ち着かせる。

 肩が涙と鼻水に濡れてる気がする。少しするとナノ君からのメッセージが届く。


 《ユーイチ。報告。子供達。寝た。》


(本当ですか?ナノ君。しょうがない。少しこのままでいましょう。)


 とりあえずクリミアさんと、たわいもない話しをしながら、ナノ君にはカリウスと行商人の監視を頼み、ノンビリしてる。 

 あー。クッキーとか食べながらお茶したい。精神的に疲れた。この世界にクッキーはあるのだろうか?子供の相手は、オークと戦うより疲れた。


 話し合いが終わるまで待ってる間、何人か村人達が挨拶に来てくれた。抱きついている子供が寝てる事を説明すると、明日改めて挨拶に来ると声をかけて戻っていった。


 日が沈みかけ、空に星が少しずつ見えて来た頃に歓声が上がった。新しい村長グイフ君の誕生だ。

 ミリィちゃんがビクッとして起きた。そして抱きついていた俺に向かって「ウォルお兄ちゃん!?」と言った。ごめんよ。多分、33%だけきっとお兄ちゃんなんだ。ユーイチに抱き着いている事に気がつくと、慌てて離れながら赤面するミリィちゃん。


「おはようございます。ミリィちゃん。夕飯も近いですし、良ければ夕飯を食べながら明日の話しをしましょうか。奢りますので。」


 ミリィちゃんは顔を真っ赤にしたまま離れて行った。寝ぼけて学校の先生を「お母さん」とか言って間違えるのと似たような感覚だろう。恥ずかしいよね。俺も覚えがあります。


「ミリィちゃん。このまま荷馬車に乗って、レオン君を抱き抱えてもらって良いですか?そのまま移動しますので。さぁ。レオン君。ミリィちゃんの方へ行きますよ。...あれ?離れないぞ。」


 寝ながらガッツリ掴んで離れないレオン君。無理やり剥がすわけにもいかない。


「まぁいいか。それじゃミリィちゃんとクリミアさんは荷馬車に乗っていて良いですよ?宿の方へ戻りますので。」


 片手でレオン君を抱きながら、返事を聞かずに歩き出すユーイチ。さて、夕飯は...あれ?宿屋の亭主も話し合いに行ってたから、今から作るのだろうか?それともさっきと同じ飯か?まぁ美味かったからいいけどね。


 《ナノ君。食事。好き。》


 気に入ったのね。ナノ君。そんな会話をしつつ、荷馬車の中ではミリィちゃんとクリミアさんが話している。女の子同士の話しは聞かないようにナノ君に伝えて聞こえないようにした。

 ウォルお兄ちゃんと同じ匂いがした。とか聞いちゃいけない話しだ。


 宿に着くと、まだルークさん達は戻って来ておらず、辺りは暗くなってきている。うん。住む事を決定してるんだし、多少は見せよう。そして誤魔化そう。


 この子達は俺の関係者だし。俺は荷馬車の中に入りながら声をかける。


「さて。淑女のお2人さん。これから見せるのは、ユーイチの摩訶不思議な旅で手に入れた道具の数々。

 これらは意志を持ち、持ち主を選び、俺から離れると消えてしまう。そんな俺に付き従いし仲間を紹介しよう。」


 そんな事を言って、俺はリュックの中身を出して、2人に中を確認してもらってから、子供達にリュックを持たせて、その中にランプやらパンやら食材を作ってもらう。


 いきなりリュックが重くなって中を開けると見慣れない道具や食べ物が入っているのに2人は驚く。


「ちょっと貸してね。ここをこうやってと。」


 ランプをつけると、荷馬車の中が明るく光る。そしてレオン君を抱きしめながら、簡単な物を作る事にする。悪い大人は夕飯前にオヤツを子供達に与えるのである。


 ガスコンロを設置してフライパンを加熱。クリミアちゃんに補助を頼みながら、鞄から取り出したバナナを薄く切ってから砂糖をまぶして蓋をする。

 フライパンを布の上に置いて、蒸らしながら熱を入れていく。次はガスコンロの上に小さい鍋を置いてチョコレートを投入。チョコが溶けたら、パンをクリミアちゃんに切ってもらい、お皿を用意する。


 ユーイチはパンの上に焼いたバナナを乗せる。勿論焼けたバナナを2人の口に入れる事も忘れない。摘み食いは甘い誘惑だ。顔が蕩けそうな2人。

 そして溶かしたチョコレートをパンにかけて、半分に折って完成。飲み物はペットボトルの水があるから、それを出してコップへと入れて渡す。


「さぁ。クリミアさん。ミリィちゃん。食べて感想を聞かせてくれるかな?簡単なオヤツだけどね。」


 クリミアちゃんの目のキラキラが凄い。美味しいバナナと美味しいチョコレートの味を知っているクリミアちゃん。パンを切った時の柔らかさに驚いた表情。期待度が凄いはずだ。ミリィちゃんは遠慮しているので、2人同時に勧める。


「ぼくもたべる〜。」


 あ、抱きついていたレオン君が起きた。美味しい匂いがしたら起きるのは子供の特技だよね。


(再起動致しました。ユーイチさんの判断を疑い、失敗した事を、謝罪致します。

 ただ今、ナノ君より情報共有を行い、現在の状態を確認。ユーイチさんには精神的ストレスが多かった為、糖分補給を推奨致します。)


 うん。マモリちゃんもナイスタイミングで起きたね。って言うか、再起動って事は、シャットダウンしてたの?


(おはよう。マモリちゃん。大丈夫?今、糖分補給の準備をするから待っていてね。)


 レオン君とマモリちゃんの分も作り始める。目の前ではミリィちゃんが半分に分けたパンをレオン君にあげて食べている。


 ほっぺたを抑えて食べてるレオン君。目がキラキラしてる。同じくらいに「美味しいね。」と言いながら食べているクリミアちゃん。ミリィちゃんを眺めている。


(ユーイチさんの疲労度を考え、早急に摂取を推奨致します。)


(今、チョコレート溶かしてるから待ってて。)


 《ナノ君。楽しみ。》


 そんなマモリちゃんをあやしながら、子供達を眺めるユーイチ。そして3人が食べてるのを眺めながら伝える。


(マモリちゃん。ナノ君。聞いてくれるかい?マモリちゃんの知らない融合の方法で、俺とマモリちゃん。ナノ君は融合させられた。そして多分、遺体になっていたのは、この2人の兄弟のウォル君だと思う。

 ウォル君は魂がない状態で融合したのかもしれない。意識は感じないからね。意志の疎通も取れないし。

 だけど、この世界の言葉や文字が読める事。この2人を見ていると心が締め付けられる程の悲しみが湧くんだ。)


 そんな事を2人に語りながら俺は気がついた事がある。オークとかを殺す事なんて、『地球人で日本人の俺』では意識として無理なんだよ。


 マモリちゃんが食べ物に興味を持つようになった事。ナノ君が喋ったり独立した思考を持っている事。俺がオークを殴り殺せる事。みんな、何かしらの影響を受けている。


(俺達は一心同体だ。家族のようなもんだ。いや。家族だ。この身体のベースになったウォル君の、家族を想う気持ちも尊重したい。みんなでなんとか暮らして行けたらと思う。どうかな?


(私はユーイチさんのサポートとして、結論に従います。食べ物に関しては、以前より興味があるのも確認しています。味覚の感じ方も。

 現在の私の希望として、食事の際の感覚共有を期待している事を提言します。)


 マモリちゃんの賛成してくれる声が響く。そして長い文章が目に浮かぶ。


 《マモリ。ちゃん。堅い。ナノ君。了解。家族。了解。守る。家族。辛い。物。楽しみ。》


 マモリちゃんとナノ君は、食べ物の味覚について語り出し始めた。そして気がつくと、3人は急に静かになり、3人が何かを見つめている。

 残った鍋に入っているチョコレートをジッと眺めていた。


 ユーイチは鍋を持つと、悪い笑顔を子供達に見せる。そんな悪い大人は3人の前で、溶けたチョコレートを指ですくって舐めてみる。驚いた表情の3人。

 いや、マモリちゃんは喜んでるから、驚いたのは4人だね。

 3人の前に鍋を差し出して悪魔の囁きを伝える。『舐めていいよ。』と。

 皆で仲良く鍋を3人が舐めているので、語り始める。


「さて。今食べた、素敵な食べ物の話しをしよう。」


 ユーイチは、偶然旅の途中で出会った不思議な意志を持つ仲間であり家族である「マモリちゃん」「ナノ君」がここにおり、これは気に入った人にくれるご褒美だと。そんな冒険のお話しは、ルークさんが帰ってくるまで続いたのである。




読んでくれてありがとうございます。感想や星など頂けるとやる気に繋がるので、よろしくお願いします。

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