第12話
食事も食べ終わって、皆でデザートに出された干したラプラと言う食べ物を食べている。生は酸っぱいらしい。だが、干すと甘酸っぱい味になり、この地域は群生してる事が多く、食卓に上がる。
(マモリちゃん?大丈夫?まだダウンしてる?)
マモリちゃんからの反応は未だに無い。そしてナノ君からはメッセージが届く。
《マモリ。ちゃん。復帰。まだ。夜。可能。》
と言われてる。うん。辛いのは本当に辞めておこう。そんなに辛くないマスタードを握り潰し、これも制限をかけてなかったらヤバかっただろう。
店の亭主には、俺が辛い物が基本食べれないので、手がつけれない事を謝罪しておく。酒も基本飲めないとも。
ゴワイルは食器を片付けて貰うと、テーブルの上に羊皮紙を並べる。それを見たクリミアちゃんはゴワイルに尋ねる。
「父さん。契約をするの?」
「あぁ。ユーイチとの約束でな。これから約1年の契約だ。『2人での秘密の契約』だから、向こうを向いていなさい。」
聞こえていた周りの村人達も、テーブルから背を向けている。契約書を書く時は見ないのが普通なのかな?まぁ読ませてもらおう。
ゴワイルが書いた契約書を読み始めるが、騙すような穴のない。ちゃんとした契約であった。そして目の中に言葉が書かれる。
《マモリ。ちゃん、無理、判断、ユーイチ。さん。》
うん。食べてから30分ほど経つけど、まだダメージがあると。新しく味覚を感じ始めてから、まだ10日しか経っていないので、味覚が鋭敏なのかもしれない。
(ナノ君ありがとね。マモリちゃんは聞いてるか判らないけど、お大事に。
ナノ君はもしかして呼び辛そうだから、ユーイチって呼ぶのでも良いからね。)
《わかった。ユーイチ。》
ゴワイルとの契約書にサインをする事にした。すると用紙は燃え上がり、また謎物質がユーイチの手に着いて、アザっぽく見える。
「これからよろしくお願いします。ゴワイル。」
「ユーイチ。よろしくな。」
男同士で握手を交わす。ゴワイルは周りを見渡しながら大声で伝える。
「これから村の緊急会議を開く!全ての村人は村長の家の前に集まれ!議題は『村長の交代』だ!』
その場にいて聞いた村人達は、驚く事もなく席を立ち、村長の家へ向かう。横で食事をしていたクリミアちゃんとグイフ君も席を立つ。グイフ君の表情は暗い。この後の事を分かっている様子だ。
俺は食事の金額を聞いてお金を出そうとすると、亭主であるルークさんが笑いながら答える。
「村を救ってくれた人から金は貰えないさ。」
そして厨房の方へ向かうと「村長の家に行くぞ!火の始末だけして出よう!」と言って厨房の奥へと消えていった。
ユーイチは食堂を出ると、食堂の娘さんが『偉いでしょ?荷馬車を見ていたの!』と見えない尻尾を振っているような表情をして、荷馬車の上からユーイチを眺めている。
「ありがとね。馬車を見ていてくれて。名前はなんで言うんだい?」
パッと笑顔になりながら、小さい指をモジモジさせると、両手を前に突き出す。
「わたし、アリア!ろくさい!」
うん。指の数は8本になってるアリアちゃん6歳。可愛いな。鼻息が『フスーー』と出そうな位、やり切った顔をしている。
そんな子供に対して、俺は悪い大人になろうかな。そんな事を考えると、ナノ君にチョコレートを頼んで、それをリュックに出して貰う。
「よく言えました。アリアちゃん。馬車ありがとうね。そんなアリアちゃんにご褒美です。」
板チョコを半分に折ってから、三等分にしてアリアちゃん。グイフ君。クリミアさんに差し出す。
「食べてごらん?甘いから。」
アリアちゃんは勢い良く。グイフ君はしげしげと見つめながら。クリミアさんは目をキラキラさせながら。
「んーーーー♪」と叫びながらモグモグして荷馬車の上中でピョンピョン跳ねているアリアちゃん。
「凄く甘いよ。」と美味しそうに食べているグイフ君。すぐ食べてしまったのか、幸せな余韻から悲しみの表情に変わるクリミアさん。
日本だと、知らないおじさんが食べ物を渡す通報案件だ。だが、ここは日本では無い!ファンタジーだから通報されない!と思ったユーイチであった。
「さて、俺達も村長の家に向かいますか。アリアちゃん。お父さん達の所に戻って平気だからね。」
ピョンと荷馬車から飛び降りると、「バイバーイ」と言いながら手を振って店へと戻って行った。そして荷馬車を轢いて歩き始めるユーイチ。
遠くの物見台から金属の音で「カーーン。カーーン。」と同じリズムで音が響く。村長の家の前に辿り着く頃には人が50人ほど居る。そして続々と集まってくる。
「荷馬車は邪魔にならない場所に置きましょう。クリミアさん。もしかしたら、荷馬車の荷物番をお願いするかもしれません。」
「お父さんから聞いています。荷物はしっかり見ておきます。」
村長のカリウスは理由を村人達に尋ねているが、皆が「知らない。」としか答えていない。村人達の顔に笑顔が無い。そんな中、ゴワイルさんが村長の近くに歩いて行くのが見えた。
「ゴワイル。これはどう言う事ですか?だれが招集をかけたか知っていますか?私に断りも無く。」
「緊急招集をかけたのは俺だ!!議題は『村長の交代』についてだ!!」
カリウスは慌てた表情でゴワイルに詰め寄る。
「何を言ってるんですがゴワイル!私の交代だって?」
ゴワイルはカリウスを無視し、大声で村人達に伝える。
「先代村長から村長を補佐してくれ。と頼まれて補佐を続けてきた。だが、村長の役目である『村を守る』事を怠った村長の行動により、先代村長から貰った権限により緊急招集をかけた。
これより判断に至った理由と、村長の選出を行う。」
ゴワイルは語る。オークが出た事を村長に伝え、村の戦力では敵わない事。町まで行って傭兵を雇おうと提案するが村長は断り、皆に黙って村の若者達にオーク討伐を依頼した事。そして失敗した。
次の対策として、通りかかったユーイチに仕事を依頼する際、村人達と話し合った金額を支払わず契約しようとした事。生贄として考えており、最初はオーク1体だと説明した事。今回の討伐でユーイチが死んだ時に金の回収するよう俺に言った事。
「私は村の為を思って行動しているのです。ゴワイルには判らないのですか!!」
「では聞くが、ユーイチが戻ってきて若者達の亡骸を家族に返している時、お前は何をしていた?
家族が泣き叫んで、若者達の亡骸を抱きしめていた時。村の若者を運んで来てくれたユーイチは、家族に泣きながら文句を言われていた。その時、お前は何をしていた?
その悲しみの言葉を受け止めるのは、村長であるお前の仕事だろう。ここはお前の治める村の家族なんじゃないのか?」
カリウスは顔を真っ青にしながら震えている。ゴワイルは改めて大声で語る。村長の指示で若者達がオークに挑んだ事。理由は町の傭兵を雇う金を惜しんだ為だ。そしてカリウスは今頃気が付いたのだろう。村人達からの視線に憎しみが見えているのを。
「先代からの約束は『村を守る事。』『家族を守る事』だ。お前では家族を守れん。決をとる。交代に賛成の者は声を上げよ!」
広場で一斉に大声があがる。子供が。若者が。年寄りが。家族を守れる長が欲しいと。
「見廻りの男達で非番の者達は悪いが、カリウスと行商人の方々を見張っておいてくれ。村の財産を持っていかれるわけにはいかん。」
筋肉質な男達が数人。カリウスや行商人達の方は近づいて動きを見ている。
「村長の候補として残っているのはグイフだ。彼はあと少しで青年となる。それまで村の人達で支えていけば、村も守れる筈だ。
ここにいるユーイチとも契約をした。グイフが青年になるまで村に残り力を貸してくれると。オークを素手で倒せる英傑だ。今まで以上に村は守る力は備えた。」
ゴワイルが俺を指差して村人達も俺を見る。さて、デモンストレーションも必要だよな。
「クリミアさん。荷馬車から落ちないように捕まっていてくれるかい?」
返事を聞かずに荷馬車の下に潜り込むと、バランスをとりながら荷馬車を持ち上げて見せる。周りから驚きの声が上がる。
ヤバい!カッコつけすぎて腰が痛い気がする。だが我慢だ。そんな事を考えていると急に軽くなる。ナノ君がナノマシン強化筋肉増強をしてくれたようだ。
(補助をありがとね。)
《ユーイチ。身体。痛覚。無い。人間。》
そうだよね。そういえば痛覚とか無くなってた。ゆっくりと荷馬車を下ろして下から出ると、涙目のクリミアさんが睨んできた。ゴメンよ。
「今日をもって村長の補佐を俺は外れる。村長を正しく導けなかった俺の力不足だ。すまん。」
うん。このままだと、ゴワイルさんも村八分になるな。頭を下げているゴワイルの近くまで近づくと、村人達の視線が集まる。
「俺の名前はユーイチと言います。今回、オーク退治をしてきた者です。まず言っておきます。俺は自分勝手な人間です。人に利用されるのも嫌いだし、利用するのも嫌いだ。」
村人達は俺の言葉に騒めく。そして見つけてしまった。俺を見つめる2人の子供達に。胸が苦しい。張り裂けそうだ。だが俺は言葉を出し続ける。
「だが、頑張っている奴らを手伝うのは好きだ。だから新たな村長が成人するまでの間だが、力を貸す事にした。
俺への報酬は、住む場所と生活できるほどの賃金を払う事。そして、俺が村から旅立つまでの間、話し相手を務めるのが、この厳ついオッサンの仕事だ。
俺の仕事内容は、荷物の乗った荷馬車を持ち上げられる力持ちがする村の拡張や畑仕事。
モンスター退治もするぞ。当分はゴワイルの家近くにテントを張って寝る予定だ。後は狩人の手伝いでもするかもしれない。
ちなみに俺を利用する奴らには、今まで必ず痛い目を見せている。先ほど絡んできた行商人の方も居たので、ここに宣言しておきます。
俺に危害を加えるなら、『オークと同じ目にあわせてるからな。』さて、村のみんなは俺の取り扱いについてはオッサンに聞いてくれ。
村長の補佐がなくなったが、俺の取り扱い係として新しい村長と共に村の発展の為、頑張ってくれ。ゴワイル。」
にこやかに笑って締め括る。ゴワイルに仕事を押し付けてやったぜ。
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