第11話

ユーイチはゴワイルと話しながら荷馬車を引きながら、歩いてサルナ村へ帰ってきた。ちなみにオークと馬のナノマシン化処分をお願いして、俺の糧となって貰った。


 村の高見台には、数時間前に挨拶した門番のオッサンが立っていたので、手を振ってみる。すると驚いた顔をされたが、すぐに破顔して振り返して門を開けてくれた。


「さて、ゴワイル。遺族に連絡を取ってくれるか?彼らを包む布を忘れないように伝えてくれ。家族に遺体を返却したら飯にしよう。」


「あぁ。村長の家の前が広いから、そこに荷馬車を運んで居てくれ。遺族達には俺から伝える。村長の家の前に行くようにと。」


 ゴワイルは門に居た1人に声をかけ、オークが倒して戻った事を伝えるように伝言を頼むと、近くの家に入っていった。俺は1人で広場へと向かう。


(ユーイチさん。面倒事の村長や、荷馬車の持ち主は簡単にナノマシン化処分したらどうですか?トラブルになるのが予想されます。)


(まぁ甘いと思うんだけど、俺が先に手を下したって気持ちだけでも嫌だからね。勿論、襲いかかって来たら別だけどさ。小心者なんだよ。俺は。)


 マモリちゃんと話しながら、荷馬車の持ち主には荷物オークの首を見せれば解決するかな?なんて考えながら荷馬車を引いてあるく。するとクリミアちゃんが現れた。


「ユーイチさんお帰りなさい。どうしたの?忘れ物?」


「いや、夕飯までに戻るつもりだったんだけど、さっさとオークを倒して戻ってきた。

 村人達の亡骸もだいぶ食われてしまっていたが、取り戻せる物は取り戻してきた。今はゴワイルが遺族に話しをしに行っている所だ。クリミアさん。もし近くに遺族がいるなら、声をかけてあげてくれるかな?

 必ず、死んだ家族を包む布を持ってきてくれ。頭や手足、遺品しかない。とも。」


「...わかりました。ありがとうございます。彼らを連れ帰ってくれて。」


 知らない俺が言うより、村人が言った方が良いだろう。


(マモリちゃん。ナノ君。遺体の血や泥の汚れを取れるかな?)


(泥や汚れは可能です。)


 荷馬車の荷物を下ろしてから、中が周りに見えない様にする。そして、彼らの遺体や遺品を綺麗に並べる。

 俺は彼らを知らない。だが、供養はしてやりたいと思った。彼らは俺になれなかった人達だ。オークに殺された青年の身体を使っている俺との縁がある。


 少し経つと1人。また1人と遺族が迎えに来る。泣き叫ぶ人。泣きながらお礼を言ってくる人。俺がもっと早く来てくれれば。と罵声を浴びせる人。だが全員が彼らを連れて帰った。


 いつの間にかグイフ君や集まっていた村人達は、少し離れた所から俺の事を見つめていた。悲しい気持ちになりながらも、村人達に荷物を渡していると、荷馬車の元の持ち主の1人がそんな人達の間を割って入って、何か言ってきた。


 俺は荷馬車に積んだオークの首を投げ付けて言う。


「遺族と家族との再会が先だ。今すぐ消えないと、こいつを殴り殺してきた俺が相手になるぞ?」


 荷馬車の元の持ち主は村長の家に逃げて行った。そして亡くなった人達は、全員家族に連れられて家に帰った。

 荷馬車にはまだ、名前の判らない彼ら死者がいる。この遺骨に関しては、村に帰る前にゴワイルに話して、埋葬をして貰える様に頼んである。


 俺は荷物を荷馬車に積み直してから、近くにいたゴワイル、クリミアちゃん、グイフ君に声をかけて飯屋に行く事にする。小さい村なので、少し歩くと飯屋に着いた。

 クリミアちゃんが店の中に入ると、8歳くらいの女の子を連れて店の外に出てくる。


「どうしました?クリミアさん。」


「店の人にお願いして、荷物番を頼みました。大荷物ですからね。」


 聞くと飯屋の娘さんらしく、金髪のおさげが可愛らしい。この店は、村で唯一の食堂兼宿屋らしい。二階建てを作る技術がないのか、平屋建てだ。ファンタジーのイメージは二階建てなんだけどなぁ。


 店番を頼んでユーイチは店の中に入ると、予想通りのファンタジーな食堂であった。見た感じガラスなど無い。木製の椅子にテーブルが並んでいる。


 席に着くと、奥から30手前位の金髪の男が、大皿に大きめのパンの山。そして肉や野菜らしき物の入ったシチュー。辛そうな匂いをさせている赤い大きなつ肉の塊を頼まないうちに出してきてくれた。


「町だとメニューも多いんですが、この村は亭主のルークさんが出すオススメの一品メニューだけなんです。

 だけど美味しいもんだから、誰も文句が出ない不思議なお店です。残念ながらジル婆のキリキル漬けは夕方には出来るらしいので、今は間に合わなかったですけどね。」


「それは期待できますね。」


(マモリちゃん。一杯だけお酒を飲むから、味覚は共有しない方が良いかも。甘くないからさ。)


(了解しました。終わったら声をかけてください。)


「ゴワイルさん。俺の国に伝わる死者の送り方をしても良いかな?」


「あぁ。頼む。」


 店の亭主に理由を説明して、キャンプに持参したウィスキーをマモリちゃんに作ってもらい、リュックの中に出してもらう。

 ユーイチはそれを取り出すと、その場にいる全員にお酒を渡す。


「強い酒です。無理なら残して構いません。」


 ウィスキーを注いだコップを空に捧げる。


「彼らは勇敢でした。村を守る為、家族を守る為、自分の身を顧みず闘い、家族を、仲間を守ったのです。

 彼らのお陰で村の平和は守られました。そして今日。彼らの仇を取りました。

 そして今日。彼らは家族の元へ帰りました。勇敢な彼らに安らぎが訪れますように。彼らの家族の心に平穏が訪れますように。」


 ユーイチは酒を飲み干した。普段飲まないからアルコールはキツい。だが、彼らに捧げた酒だ。

 俺になった遺体彼の仲間への盃だ。


「皆さん、付き合って頂きありがとうございました。さて食べますか。」


 笑顔で伝えると彼らも笑顔で答えてくれた。


(マモリちゃん。お待たせ。食べてみようか。)


(構いません。ユーイチさんのこれからの栄養素ですから、確認の為、調べさせて頂きます。)


 まずはパンを掴んでみる。うん。千切れるけど、多分、人間の頃だと硬いと言うか堅いレベルだな。

 まずはパンだけ食べてみる。うん。パサパサだな。でも食べ応えはある。


(栄養素に関しては、普段食べているパンの方が多く含まれていますので、普段のパンを推奨します。)


 マモリちゃんも、普段食べているパンがお気に入りのようだね。まぁパン屋で焼きたてを買っていたのを登録されてるから、あのレベルは中々難しいかもしれない。


 次はシチューに似たやつを食べてみた。普段食べているのはカレーだから、シチューはマモリちゃん初挑戦である。


 風味は動物の乳を使っているけど、牛とは少し違う気がする。マモリちゃんと融合してから、味覚が鋭敏になったのか?美味しく感じる。

 シチューは野菜を刻んで長く煮込んでいるのか、風味が良い。塩気はちょっと少ない気もするが、よく煮込まれていて、野菜同士の甘み?も出てるようだ。

 肉を食べると、ホロホロと口の中で溶けるし、美味い。


(この味は今まで経験の無い味ですね。栄養素も多く含まれており、初めての戦闘で肉体的、精神的な疲労が見られる為、多くの摂取を推奨します。)


 マモリちゃん。肉体はナノマシンで出来てるから、疲労は無いんだよ?気に入ったって事だね。

 さて、次はメインのこの肉の塊だけど、なんか辛そうな匂いを感じるんだよね。


(マモリちゃん。この肉は辛そうな感じがするから、まずは味覚を切っていた方がいいかも。)


(いえ、ユーイチさんの摂取する食物に関して、私はサポートをする為の知識を得なければなりません。今後の課題として経験を行う事を推奨します。)


(それじゃ少しにしておこう。それと、自動攻撃オートアタックだっけ?アレをオフにしておこうか。間違っても壊したくないからね。)


(了解しました。自動攻撃オートアタックを一時停止。ユーイチさん判断により復帰する為のコマンドコードとして『オートアタック』と発言してくだされば復帰します。)


 うん。そこまでして食べてみたいと。でも、ヤバいと思う。匂いからして辛そうだもん。見た目も赤いし。

 まぁ最初は小さめに食べてみて、ダメならシチューを飲むかな。そんな事を考えながら、肉の塊を取り分けてから、小さく食べてみる。


 うん。やはり辛い。かなりスパイシーと言うか、1種類の辛さがガツンとくる感じだ。酒飲みには受ける味だろう。なんだろう?唐辛子とかあっち系な辛さといえばいいのか?でも唐辛子は見えない。

 あれ?急にマモリちゃんの気配がない。口の中をシチューで洗い流しながら声をかけてみる。


(マモリちゃん?大丈夫?)


 シチューを飲みながら待っていると、目の前に文字が浮かぶ。


 《マモリ。ちゃん。今。疎通。無理。変わり。話す。ナノ君。です。》


(ナノ君なの?喋れるんだね。いつも勝手に喋っていたけど、話せて嬉しいよ。)


 《ナノ君。マモリ。ちゃん。一部。いつも。聞いてる。ナノ君。代わり。マモリ。ちゃん。話す。》


(そうだよね。マモリちゃんもナノ君なんだもんね。でも喋れて嬉しいよ。)


 《わかった。ナノ君。しゃべる。マモリ。ちゃん。刺激。弱い。ナノ君。好き。》


 そんな初めてのナノ君と会話をしながら、食事を楽しむ。

 ゴワイルは酒が気になるらしく、チラチラ見ていたので無言で注いであげた。クリミアちゃんやその場に居た村人達に、村の脅威だったオークとどう対峙したのか。そんな武勇伝を語ってみせた。


 日本に居た頃は『モンスターを倒した』なんて武勇伝を語る日が来るとは考えた事も無かったが、異世界に来てから初めての、賑やかな大勢の食事をするのであった。



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