第8話
2人が門の前に立っていると、物見台の上から元気そうな男の子が飛び降りて来た。茶髪で10代前半の子だ。
「クリミアねーちゃんおかえり。あんたが話しに出てたユーイチって人かい?」
「俺がユーイチだが、そんな名前を聞いてくれた人は、どんな名前なのかな?」
「俺の名前はグイフ。昨日、ユーイチにビビった村長の弟だよ。」
グイフと名乗った男の子は、将来は女の子に好かれそうな笑顔で答える。うん。あの村長よりマシな気がするな。
そんな事を考えていると、グイフは門の中に向かって『開けていいぞー。』と声をかけている。すると門が外側に向かって開いていく。
映画でしか見たことのない丸太で作られた門や、石造りの家とかを見ていると心が熱くなるよね。日本では見られない風景だ。
そんな気持ちで村の中を見ながら、クリミアちゃんの後ろを歩いて着いていく。
「そういえばクリミアさん。この村の名前を聞いていませんでした。なんと言う名前なんですか?」
するとクリミアは笑いながら答える。
「サルナ村と言います。まぁ辺境の村なんで、平凡な村ですね。」
そんな会話をしていると、後ろからグイフが走ってきているのをマモリちゃんが教えてくれる。目の中にレーダーがあったり、自分の後ろの姿を見る事が出来るのは便利だ。
「兄貴のところに行くんだよな?俺も一緒に行く!!」
「でも、門番の仕事は平気なの?」
「大丈夫!2人が来るまでって約束で、高見台に登っていたから。ユーイチ。よろしく!」
2人は仲良く喋っている。子供同士の会話って感じだな。それとグイフ君とは初対面なのに、やたら好印象に思われてるようだ。
(マモリちゃん。なんでフレンドリーなのか知ってる?)
(先日の村長とユーイチさんの会談の後、村人達が集まって、話し合いの結果を説明していました。その際に村長がユーイチさんを騙そうとしたのに、仕事を引き受けてくれた。とゴワイルが伝えてました。
その為、好意的に捉えてくれている様子です。)
(ゴワイルは『まとも』な人みたいだね。)
(この後のユーイチさんの行動として、食料の確保や武装など必需品を確保する事を推奨致します。
この後に会う村長の言動には、信用に値する人物ではないと判断。警戒を行います。)
(そうだね。用心するよ。今のうちに、バナナを渡して『キリキル漬け』ってのを交換して貰えるか確認しておこうか。
またバナナを2房作っておいてくれるかな?マモリちゃん。)
リュックの中でカサカサ言い始めた。仕事の早いマモリちゃんだ。
前を歩いている2人の子供達の会話を聞きながら、ユーイチはマモリちゃんお手製の《ステータス画面》を改めて表示して貰う。ステータスやら色々と声に出したりしても何も見えなかったので、マモリちゃんに、作ってもらった。
名前:ユーイチ
所持スキル
・融合(キャンプ用品、バイク、食料、マモリちゃん、ナノ君、謎の現地人)
※融合体となった為、身体がナノマシン集合体として変異。ナノマシンは自分での操作は不可。筋力や反射神経など多くが強化。
その他未確認
マモリちゃん
所持スキル
・融合
・ナノマシン制御(ナノマシン集合体である主人格である。ナノマシン制御を行う副人格の命令権を持つ。)
・肉体強化(宿主の肉体・神経系統の強化、肉体操作(弱)、マルチタスクサポート、メンタルケア、
・プログラム作成
・仮想空間作成
※変異の為、副人格がマモリちゃんから剥離したのを確認。通称ナノ君。
現在、自身への自己分析を行っても、自分の事を全て把握する事がほぼ不可能。
他者からの指摘や行動でないと把握出来ないという不可解な状況も確認。
その他未確認
NEW!!
ナノ君
所持スキル
・ナノマシン制御(ナノマシン集合体である副人格。マモリより完全に剥離した人格。増殖、宿主の融合体の複製、操作など行う)
※この世界に来てから、ナノマシンの個数操作権限、移動範囲に制限を確認
これを見ると、やはり思う。俺は転移してきたんだから、魔法を使わせてくれても良いんじゃないかな?
幾ら唱えたり念じても無理だったので、ユーイチは諦めた。
そしてユーイチは、マモリちゃんとナノ君にあだ名をつけてたら、何故か進化したらしい。俺の中にマモリちゃん。ナノ君。の2人が居る事になった。
また自然と色々な事が出来るようになるのがチートなのかな?と思いながら歩いていると、グイフ君から声をかけられる。
「そう言えばユーイチはどこから来たんだ?旅してる強い人とか、便利な人としか聞いてないんだけど。それと、なんか変な服着てるし。」
「ん?旅してフラフラしてる男に故郷なんてないさ。山の中で生活したり、変なヤツから依頼を受けたり、人助けをしていたら、御礼に不思議な物を貰ったり。そんな波乱万丈な生活さ。」
そんな事を語りながら、リュックからバナナを2房取り出してクリミアちゃんに差し出す。
「クリミアさん。この後に話し合いや装備品を選ぶのに時間がかかりそうなので、ジルさんに料理をお願いする事は可能ですか?
クリミアさんをお使い立てしてしまう事から、1房はクリミアさんにプレゼントです。もう1房はジルさんに依頼する報酬のバナナです。」
リュックから取り出すと、甘い匂いがする。クリミアちゃんは目を輝かせているね。バナナ美味しいもんね。
グイフ君も横で、美味しそうな匂いのするバナナを見て、目をキラキラさせている。
「はい。わかりました!ジル婆さんには私からお願いして来ます。グイフ。ユーイチさんの案内をお願いね。」
「え〜?そのバナナってやつ?それを食べさせてくれたら俺も案内を頑張るんだけどなぁ。確か村長の所まで案内しろって言われたのは、クリミアねーちゃんだよね?」
「もう!わかったわよ。ちゃんとお父さんにも説明してくれるなら1つあげるわ。」
「3つ!」
「2つ!!」
「乗った!!」
うん。仲の良い子供らしい交渉だね。そんな事を考えて見ていると、
「ユーイチさん。また後でね。」
と言って走っていくクリミアさん。やはり子どもに好かれるのは甘い物に限る。
「ユーイチ。早く村長の家まで行こう。俺は案内したらクリミアねーちゃんの所に行かなくっちゃ!!」
「あぁ。村長の家まで案内をよろしくな。」
村の中をグイフ君と共に歩く。村の家は30軒ほどであるが、たまに見かける村人の表情は暗く、オークに若者が何人も死んだ事からの悲しみのせいか、それとも次に襲われる心配をしているのか判らない。
少し歩くと、村の中央ほどにある少し大きめの石で出来た家に辿り着く。扉は風通しの為か開いており、馬屋には馬が2頭いる。うん。くちゃい。本物の馬を見るのは小学生ぶりではないだろうか。
「ここがウチだよ。...俺は6男だし、ガキだから村の相談とか混ざった事がないけど、ユーイチがいれば村を守れるんだよな?オークと戦って死んじゃった、兄貴の仇を取ってくれるんだよな?」
急に真面目な顔になり、そのうち、泣き出してしまう。子供を泣かすのは大人のやる事じゃない。ガシガシと雑に頭を撫でながらユーイチは、笑顔でカッコつけてみる事にした。
「おう!任せておけ!!ちゃんと兄貴の仇も取ってやるし、夕飯には戻るから、一緒に飯でも食おう。」
泣いてるグイフ君を置いて、入口に木剣を邪魔にならない所に置くと「お邪魔する。」と伝えてから扉を開けて中に入る。
内装は映画やアニメでしか見た事のないような洋風な建築であり、見慣れない風景である。室内では村長のカリウスとゴワイルが椅子から立ち上がって迎え入れてくれた。
「先日ぶりです。先ほど、グイフ君と夕飯を一緒に食べる約束をさせて貰ったので、早速ですが装備の受け渡しと、仕事の話しをしましょう。直ぐにでもオークを狩りに行きます。」
早速、武装のある場所へ案内を促す。早く終わらせて飯を食べるんだ。そんな事を考えていると思っていないゴワイルは、このオークの事を教えてくれる。
「朝早くに確認してきたが、オーク達は移動しておらず、森の洞窟付近にまだ居るようだ。」
場所はここから2時間程歩いた森の中との事。
(マモリちゃん。ナノ君。方向は判ったから調査をお願いね。)
(了解しました。)
「話せる程度でいいから、現場の立地条件を教えてくれ。」
オークの住んでいる立地や距離などの説明を受けながら、ユーイチは別の部屋へ通される。その部屋には棍棒や剣、弓などが置かれており、防具も何の素材がわからない皮やら金属がある。
(マモリちゃん。防具とか素材は俺が見ても判らないから、適当な革鎧でいいかな?)
(はい。森の中を進んだりするので革鎧を推奨します。金属音などスニーキングには非推奨かと。ちなみに、革鎧を着ますが効果はありません。ユーイチさんの肉体に打撃、斬撃は効きませんので。)
とりあえず、マモリちゃんお勧めの革鎧と短剣、槍、ハルバードと呼ばれてそうな斧を2本づつ持っていく事にする。折れない剣とか欲しいよね。
早速行こうとすると、村長のカリウスはテーブルに羊皮紙を広げている。なになに?見慣れない文字だけど、何故か読める。
(マモリちゃんのシステムで読めるようになったの?)
(いいえ。私は何もしていません。)
うん。謎の調節の一環かな?なになに?あ〜約束事を書面に残してるのね。で、村長のサインと俺のサインをする。すると羊皮紙が1人でに燃え上がり、煙となって俺と村長の手首に纏わり付いて、アザみたいな色が付いた。
うん。知らない事が多すぎるわ。ナニコレ?
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