第9話
何故か変なアザが出来た。ファンタジーな世界なんだから、きっと契約の証とかそんな感じだろう。って気楽に思いたい。なんだよこれ?
まさか書いてから『なんですかこれ?』とは聞けない。早急に、この世界の一般常識を学ぶ必要がある。だがまずはオーク退治だ。
(マモリちゃん。ナノ君。余裕があったら今後も情報収集お願いします。)
(謎の組織の付着を確認。ナノマシンで分解が可能です。)
(あ、分解できるのね。でも、カリウスさんにも同様のやつが出来てるから、今はこのまま放置しておこう。生命に問題があると判断をしたら、消しちゃおう。)
(ナノ君。敵の位置を補足したら、敵の人数、罠の有無。相手側の戦力や立地条件を調べてくれる?)
マモリちゃんとナノ君は、こんな感じの肉弾戦という野蛮な戦い方はデータとして持っていないから、こんな時の指揮官は俺になる。
相変わらず2人からは『ナノマシンで処理しませんか?』と言われるが、異端な方法ばかりの戦闘だと、今後がまずい事になる。
「ゴワイルさん。とりあえず先に行って退治をしてくるので、後から追いかけて村人の遺体回収の手伝いをお願いします。」
カリウスから金を受け取って、とりあえずリュックの中にあるコンビニのビニール袋に入れておく。普通の財布に硬貨を何十枚も入れられない。皮のお洒落な袋を買おうと思う。
「道案内は必要だ。俺も一緒に行く。」
渋い声で渋いオッサンが語る。俺も渋いオッサンなりたい。なんで俺は色白の日本人なんだろう。転移しても肌の色は変わらないようだ。
「残念ながら、私は足も早いので先にたどり着いて戦闘を始めると思います。それにオークを倒す殺しの手札は、人に見せない主義ですので。」
初めての戦いは人に見られたくないからね。失敗したらナノ君に依頼するつもりだし。
「ではカリウスさん。夕方には戻りますので。」
「よろしくお願いします。無事にお帰りをお待ちしています。」
いやいや!俺の事を生贄みたいにしか考えてないの知ってるからな!と思いつつ、顔に出さないのが大人な俺なのです。
とりあえず持って行く武装は紐で一括りにして、家から出て木剣を持つと、息を切らしたクリミアちゃんが立っていた。
「間に合った!ジル婆は作ってくれるって!まだ作り始めたから時間がかかるって言ってたけど。」
(ユーイチさん。料理は作り立てが美味しいと学びました。出発は延期と致しましょう。)
(マモリちゃん?俺はグイフ君と約束しちゃったから、夕飯でキリキル漬けを食べようか。)
少しマモリちゃんの返事が遅くなった。
(...わかりました。オークと言う生物を殲滅して、早急に戻りましょう。)
「クリミアさん。夕飯には戻るので、食事と宿の予約をお願いしてもいいですか?」
リュックから銀貨を5枚ほど取り出して渡しておく。これくらいで足りるかな?するとクリミアさんは慌てた様子で銀貨を4枚返してくる。
「この村にそんな高級な宿はないですよ!1枚でも十分にお釣りが来ます。」
「では、グイフ君と夕食を食べる約束をしたので、クリミアさんとゴワイルさんも食べれるようなメニューを宿に予約する事は出来ますか?もちろんキリキル漬けを持ち込めればですが。」
「わかりました。宿の人も知っている方なので、伝えておきます。お気をつけて行ってきてください。」
クリミアさんと別れた後、門に近づくと、門番のオッチャンから「頼むぞ!頑張れよ!!」と言われながら、門を開けてもらう。
ユーイチは両手に武器を抱えながら走り出す。時速30キロのペースで目的地である場所へと進む。え?ゴワイル?遥か後ろを走っている様ですが、ゴワイルを置き去りに走り抜けて目的地へと向かう。
(マモリちゃん。戦闘準備を宜しく。)
マモリちゃんに頼むと、服の中の肉体が100%筋肉で出来た姿へと変わる。
『ナノ君から報告で、オーク達の住処を確認しました。オーク達は予定地点より多少ですが移動をしています。近場には人間を確認しています。肉体を自動走行にして、仮想空間で確認しますか?』
「よろしく。」
ユーイチが答えると、ユーイチの意識は走っている風景ではなく、遠くの街道に景色に変わる。
ナノ君から送られる映像を元に作った、仮想空間作成によるリアルタイム映像だ。その場に居るような臨場感がある。
するとそこには、3メートル近いファンタジーの定番である緑色のオークが3体いる。ファンタジーだ。そして荷馬車が襲われており、オークの2匹は荷馬車の馬っぽいのを貪り食っていた。
荷馬車の持ち主であろう男3人と女1人は、荷物を捨てて森の中を走って逃げていた。だがオークの1人が逃げている人間に襲い掛かっているのだが、人間も負けてはいない。
彼等は火の魔法を使って攻撃しながら走っているが、オークに焦げ跡が付く程度で、すぐに回復している。中々すぐに回復するんだね。オークって。
そろそろオークが逃げてる人達を捕まる。俺は間に合うのかな?
「マモリちゃん。周辺に俺を見ている生物とか居る?この距離を『全力』で走ったら見られるかな?」
『私達を観測している生物は発見出来ません。』
「マモリちゃん。ナノ君。全力で投擲をするから力を貸して。」
『了解しました。ナノマシンをユーイチさん。投擲コース。オーク周辺。に集中します。意識を肉体に戻します。』
仮想空間から肉体に意識が戻る。急いで止まると、くくり付けられた武器から槍を取り出し、投擲スタイルになる。
『ナノマシンを肉体に集約し、投擲コース算出。パワー調節等の計算完了。目標着弾可能。実行しますか?』
「よろしく!」
すると、ユーイチの全身が銀色になり、全力で地面を蹴り付け、走り出す。そして身体全体が鞭のようにしなり、槍は恐ろしいスピードで空を切り裂いて射出された。
多分俺達の遠距離最大瞬間攻撃力。マモリちゃんの計算の元、射出された槍の前後左右の微妙な変化は、散布されているナノ君が槍を動かして微調整する。この微調整でナノマシンが槍にぶつかり消滅する事を最初ユーイチは良い気分がしなかった。
だがナノ君に尋ねると、感覚として《髪の毛の長さが1mm変化するのを気にする》らしい。また増やせるから。そんな事をマモリちゃんから聞いた。
投擲物の目標には、現地のナノ君が身体の内部やアキレス腱などに分解を命令しており、本人に蓄積ダメージを与えて動きを鈍らせている。そしてマッハに近い速度の槍をぶつけて、爆散させる事を仮想空間で実証済みである。
ユーイチの身体が人の形になると、俺は続けて2本目の槍を握りしめる。するとマモリちゃんから報告がある。
『着弾を確認。目標のオークは爆散しました。槍も爆散してしまい、回収は不可能。』
うん。人間達もオークが爆散した勢いで少し飛んで転んでるけど、死ぬより良いよね。現地のナノ君が周りの人達にぶつかる肉片やらなんやらを分解して、ちゃんと助けている。さすがナノ君。
俺は置いていた荷物をまとめると、また走り始めた。
「マモリちゃん。ナノ君ありがとね。初めての実践だけど、2人が居ると心強いよ。」
『原始的戦闘は初めてでしたが、何か不思議な感覚があります。』
「うん。俺もこれから自分でやらないといけないけど、ビビるし、吐くかもしれない。でも生きていく為に俺もやります。」
この世界。ファンタジーだけど、殺伐とし過ぎてる。だから俺も殺伐とした世界で生きられるようにならないといけない。
そしてしばらくすると現地にたどり着く。ナノ君は周りをリアルタイムで調べてくれているので、あの4人は森の中、オークにバレないように走って、村に逃げて行った事を確認している。
「さてオーク君達。馬を貪り食ってる最中悪いけど、これから俺がこの世界で生きれるかどうか試させておくれ。」
足が震えるが、マモリちゃんから『アドレナリン増量します。』と言われ興奮して戦う気になっている自分がいる。初めての実戦はビビるに決まっている。だがファンタジー世界では戦うのが普通の様だ。ファンタジー世界に馴染むんだ。俺!!
荷物を放り捨て、木剣や槍などはナノ君が俺の身体にへばりつけてくれて持ってくれている。そして動きの邪魔にならないように適宜移動させてくれる。ありがとうねナノ君。
「シッ!!」
息を吐きながら短剣を2本投げつける。俺はこの世界に来てから、仮想空間でマモリちゃんと練習をした。身体の動きや木剣で戦う際の動き。物を投げる練習は沢山した。その度にマモリちゃんに身体を強制的に補強、修正、登録された。
その為、『登録された行動』を実行しようと考えて動くと、自分でその通りに動いてくれる。
凄い勢いで飛んで行った2本の短剣は、1体のオークの両眼を貫いた。
ユーイチは走って近づくと、怪我をしたオークが無傷のオークの壁になるような位置に近づき、ハルバードを両手で握りしめ、人モードの全力で斬り付け、膝の皿を叩き割る。
膝から力が抜けて崩れ落ちてきた目の潰れたオーク。だいぶ頭が地上へと近づいたので、ユーイチは軽くジャンプをしながらハルバードを全力で振りかぶり、首を叩き落とした。
だが、全力で振り抜いたハルバードが壊れてしまった。ユーイチの手元には柄の部分しか残っていない。それを足元に捨て、残り1体のオークに狙いを定める。
見た感じ3体のオークは再生能力を持ったタフネスタイプの様子。だから、ちまちました攻撃は意味が無いんだろう。だが、それが今回は役に立つ。ユーイチは残ったオークに話しかける。
「さて、オーク君。君には実験台になってもらうよ?これからの戦いは、仮想空間の中でも使われるからさ。」
ユーイチは両手を拳で握り締め、オークに走って近付くと、握り締めた拳を殴り付けると、殴られたオークを荷馬車から弾き飛ばす。
ナノマシンの身体の為、打撃・斬撃の効かない身体。機械の反射神経、反応速度。そして、100%筋肉に変化させ、次第にマモリちゃんによるナノマシン増量による肉体強化で筋肉量を増やしていく。この世界の初めての拳での対戦相手となって貰う事にした。
そして森の中では聞き慣れないけられる打撃音が鳴り響く。そしてオークの悲鳴は街道に響き続けた。
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