第6話

前回のあらすじ

とりあえず色々と身体を動かしてみた。

とりあえず忍者の様な動きや、記憶にあるアニメや映画俳優の動きを真似したら案外出来た。

近所の村人と遭遇した。


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ゴワイルとクリミアが来てから一晩が経った。そんな異世界生活9日目。


 今日はあいにくの雨模様。テントにぶつかる雨の音は、日常生活では聴き慣れない音だが、雨の音も悪くない。


 そんな事を考えつつ、ユーイチは荷物に入っていたゲーム機をナノマシン君に作ってもらい、遊びながらスマホに入れていた曲を流していた。デブ猫は股を広げながら毛繕いをしている。


 風情がないかもしれないが、暇なんだよなぁ。最近は思考空間を使って、思い付くトレーニングや格闘技を思い出しては動けるようにインプットして貰う。そして練習。アニメのキャラクターの動きを提案しては直ぐ使える様に設定もして貰う。


 だがアニメが好きな俺でも、修行僧じゃないんだ!プロの格闘家や冒険家じゃない!マモリちゃんと融合したお陰か、疲労する事はなくなったが、精神的に疲れる!と言う事で、戦闘などはマモリちゃんチョイスで考えて貰う事にした。


「マモリちゃん。ナノマシン君の事なんだけどさ。なんか味気なくて寂しいから、ナノ君って呼ぶ事にします。」


『それは不要かと。自分の指に名前をつけるような事ですが?』


「人間の癖だね。手伝ってくれたり一緒にいるんだから、名前つけたりして話しかけたい。と思っちゃうのは。ナノ君に愛着を持っちゃいけない理由はないでしょ?」


『はい。ユーイチさんの呼びやすい方法で良いかと。ユーイチさん。2人がそろそろ視線に入ります。』


 今日はゴワイルさんと村長のカリウスが2人で歩いてきた。


 村長のカリウスは20代後半な感じに思える。茶髪の平凡そうな顔つきだな。服は少し良い服を着ている。まぁ平凡な顔は俺も同じだな。そしてマモリちゃんの情報収集の結果、コイツは余り好きじゃない。


 2人は、カッパみたいなゼリーを被ってる。あの素材の名前とか、村では誰も言わないから気になって仕方がない。普段から使ってる物の名前とか説明しないよね。盗み聞きでもわからない弊害だ。


 さて、昨日の話し合いはマモリちゃんを通して聞いていたけど、どうなるかな?


(ナノ君。クッションとコップを2つ、新しく用意してくれる?)


 するとフワッとした意識が伝わってきた。もう出来ているようだ。


(ありがとうね。ナノ君。)


 元の世界に戻れて2人を連れて帰ったら、俺は自堕落な生活になりそうだ。そして雨の中、歩いて来たゴワイルさんと目が合うと、向こうから声をかけてくる。


「ユーイチ。村長を連れてきた。話しを聞いて貰いたいのだが。」


 向こうから、ユーイチと呼ばれたんで、これからはゴワイル呼びだな。そんな事を考えつつ、挨拶をする。


「おはようございます。生憎の雨ですね。狭いテントですが中に入りませんか?入り口で靴を脱いだから入ってください。」


 荷物を詰め込むと考えていたので、1人で使う用だが、大きめのテントを買っていて良かった。テントの入口は、ポールを建てると屋根のようになる便利さ。雨が降ってもそこで小さい焚き火が出来ます。


「ありがたい。だが、身体が大きいのでここで待たせて貰う。」


 うん。誘ったけど、ゴワイルは断る。男3人でテントはキツかったから感謝である。ゴワイルは180cm近くありそうだし、カリウスもそれより低いが、ガタイは良い。

 ユーイチはテントの入口の屋根の下に折り畳みの椅子を置く。


「では、濡れない所でお待ち下さい。これに座れます。」


 入口で沸かしていたケトルを取りながら、ユーイチはテントの中へと入る。そして村長も靴を脱いでから声をかけてくる。


「初めまして。村長を勤めているカリウスと言う。」


 自己紹介をしてから、カリウスはテントの中へと入ってくる。ユーイチが先にクッションの上に座り、相手にクッションを差し出すと、カリウスも座る。


「寒い中ご苦労様です。飲み物は湯ですみませんが、温まってください。」


 コップを3つリュックから取り出して、湯を入れる。相手に3つ差し出すと、カリウスは「おや?」と言った表情を向けてからコップを2つ取って、残りをユーイチが取る。


 まぁ初対面の人だし、毒とか疑われたくないから、これはよくあるファンタジーの定番の作法だよね。と考えつつ湯に口を付ける。それとも金属のコップに驚いたのかな?村には金属のコップとか無かったし。


(ユーイチさん。お湯の栄養素は無い為、栄養素の保有する飲み物を摂取する事を勧めます。)


 (マモリちゃん。後でちゃんとコーヒーを飲むから、味の評価はしなくていいよ?相手にコーヒーとか飲ませたくないだけだから。)


「ユーイチと言います。ゴワイルさんから聞きましたが、仕事をして欲しいと聞きました。その時にも説明しましたが、面倒な事を好みません。そちらは交渉の金額提示は一回だけ。報酬は前払い。再交渉は無しです。

 その条件で話しを聞くとの事を伝えましたが、カリウスさんはその条件を受け入れますか?」


 面倒な話し合いはしたくないので、ハッキリと最初に言っておく。


「ゴワイルから聞いています。ユーイチ殿が力自慢で、魔物退治にも参加されているような方で、なにより面倒事を避けられて旅に出ているとの事も。

 本当は交渉を行いたい所ですが、緊迫した状況なので、手短に伝えます。」


 カリウスはコップの湯を一口飲んでから、こちらの目をみながら語る。


「村の東へ通じる道は山道となっておりますが、そこにオークが住み着いたのです。若者達が10人ほど武器を持ち退治しに行くと乗り込みましたが、戻ったのは1人。その1人も亡くなっております。

 どうかオークを退治してもらえませんでしょうか?報酬は銀貨20枚。村にある武器や防具を使って貰って構いません。お願い出来ませんでしょうか?」


「これは確認ですが、それはオーク1体の首を持ってくれば達成ですか?それとも『オークや他の住み着いていたモンスター達』の首を持ってくれば達成ですか?」


 魔法の使える若者達が集まり、武器を持参して戦いに挑んだ。だけど1人しか戻らないって、どんなオークだよ。見た事ないけど。


 戦闘するにしても、来た人間をほぼ皆殺しになんか出来ないぞ?人間だって、危なくなったら散らばって逃げるだろうし。


 ゴワイルは椅子から立ち上がると、靴を脱がずにテントに入り、カリウスの頭に拳を叩き付ける。人様の家に土足で上がってくるなよ。


「ゴワイルさん。貴方が靴のまま入ってきた事に対して、謝罪を要求します。ここは靴を脱いで入って来いって言ったよな?自分で掃除もしろ!」


 リュックからタオルを取り出すと、ゴワイルに投げ付ける。


「済まなかった。掃除をさせて貰う。タオルがないからこれを借りる事になる。そしてちゃんと昨日、『元村長と村長、住民』で話した内容を伝える。オークが3体は確認されている。

 そして1体につき銀貨20枚で先に60枚を渡す。武器や防具も村にあるのを使ってくれて構わない。モンスターの数は確認出来ていないが、オーク以上の強さのヤツなら、倒したヤツの頭を持ってきてくれたら追加で払いたいと考えている。

 この辺りで確認されていたのはゴブリン、グレートボア、グリーンウルフ、そして最近出たオークだ。」


 うん。マモリちゃんから話し合いを覗いて聞いたから知ってるよ?この村長。村長になってから数ヶ月らしいよね?世襲交代で変わったけど、まだ不安って事で、色々と周りがサポートしてるって事は知ってます。


 でも、村の話し合いの時には1体で銀貨30枚出そうとしてたのを土壇場でコイツがケチったんだよね。


 コイツは少しでもオークを倒せたらラッキー。倒せなくても人間エサを渡してる間は村が襲われない。って村人達と話し合っているのをマモリちゃんは聞いている。


 それを聞いて、ゴワイルや元村長は怒っていたんだけど、こいつだけ性格が卑怯なんだよなぁ。予め準備していた石を、村長の目の前に石を見せてから握りつぶした。


「確認するぞ?この返答は『はい。』か『いいえ』だ。

 仕事内容はオーク3体の処分。前払いで、1体につき銀貨20枚で計銀貨60枚を先渡し。オークを倒せなかったらその分を返却する。

 村にある武装は俺に譲渡。追加のオーク以上のモンスターが居て倒したら、頭を持参して確認。追加で1つ銀貨『40枚』を払うんだな?」


 これ以上の交渉はする気はない。元々、昨日覗いていた話し合いで出ていた金額に近い物だ。道具も貰えればトントンだろう。


 ゴワイルは無言でカリウスの頭を改めて殴り付る。そして返事を促す。あんなガタイの良い人に殴られたら涙目になるよな。カリウスは小さい声で『...はい。』と答えた。デブ猫はカリウスにオシッコを引っかけている。素晴らしき愛らしい猫だなぁ。


 もちろんこの会話は録画している。リュックからメモ帳を取り出して、今の内容を3枚書く。サインを俺、ゴワイル、カリウスを書かせて1人1枚持つ事を提案。改めて、石を握りつぶしてからカリウスに握手をしてテントから追い出す。


 俺は異世界に来てまで、人に舐められて利用なんてされたくない。コイツは俺の事を舐めてたんだよ。


「明日の朝に村に行くから、装備を整えておいてくれ。オーク退治は晴れたら行くから。」


 また深々と頭を下げるゴワイル。うん。今日の面倒ごとは終わり。そして2人は村へと帰っていった。


「マモリちゃん。あんな感じでどうだった?」


『ユーイチさん。彼らは居なくなりましたから、コーヒーを飲んで気分転換などされたらどうですか?』


 うん。ブレないね。彼らより糖分摂取の感覚がお気に入りなマモリちゃん。もうコーヒーとチョコレートも準備してるんだね。まぁどちらにしろオークは俺が倒す気になっていた。


 話しの最中に『思い出した』んだけど、オークに殺された最後の1人って、俺の身体にくっついた人みたいなんだよね。何故かいきなり筋肉ムキムキの豚が頭に浮かんだ。

 とりあえず身体の持ち主の敵討ちはしてあげたいよなぁ。でも戦えるのかな?


 そんな事を考えつつ、雨の音を楽しみながらコーヒーを楽しむユーイチとマモリちゃんであった。


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第6話 やるも後悔。やらぬも後悔。

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