第3話

前回のあらすじ

ハロー墓穴。そしてAIとの会話。

アンタ、捨てられたみたいよ。

とりあえず脳内の分泌やら思考を変異させたから、慌てる事は無いわね。

ハロー地上。


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 機械になった自分を楽しむように、視界をオンオフを繰り返して貰いながら星空を眺めるユーイチ。

 《保護プログラム》の影響か、ユーイチにとって、AIの融合は実害は感じない。むしろ便利だなと思っている。


 まぁ異世界に飛ばされて、金も知識も何もない状態だ。まずは拠点を作って、寝泊り出来る場所を作ろう。


「マモリちゃん。何処かに安全にキャンプが出来る所はないかな?」


『マモリちゃんとは私の事でしょうか?登録名がマモリとなっておりますが。』


 やっぱり硬いなぁ。まぁAIだし、少しづつ話しかけて覚えていって貰おう。とユーイチは思う。


「人は色々と呼び方を変えたりする場合があるんだ。ユーイチも俺だし、大村雄一(おおむらゆういち)も俺って存在。相手に呼ぶ時の心情やタイミングによって呼び方を変える人もいる。それが俺です。」


『ユーイチさんはそうなんですね。記憶しました。』


「まぁマモリちゃんが何か嫌な時は、『嫌です。』とはっきり言って欲しい。そして話し合おう。

 主人格として譲れない時はあるかも知れないけど、譲れる時や俺が間違ってる時は教えて欲しい。」


 マモリちゃんのやりたい事を全部肯定してたら、この世界の人類は滅んじゃうからな。そこだけは気を付けないと。


「言葉に出しておくけど、俺は人類抹殺とか大量に生物を抹殺したいとか全く考えてないから。そこは何重にもロックかけておいてね。身の危険があれば別だけどさ。

 もし酒で酔っ払って変な事言ったり、寝ぼけてる時の危険な発言があった場合は、絶対に疑って欲しい。『普段の俺と違う。』ってね。」


『了解しました。何かあった際は報告。相談させて頂きます。そして飲酒や睡眠の際に起こる発言や行動に関しては、普段の行動を参照して規制を入れる事と致します。』


「よろしくね。所で今日は、安全そうな場所で野宿しようと思うんだけど、何処かいい場所がないかな?マモリちゃん。」


『現在、ナノマシン散布により周辺情報を収集中。人型生物・危険生物と思われる生き物の有無を確認中。この山道を右に進むと、広い場所と小川があります。その付近でしたら安全と思われます。』


「ありがとね。あと、ナノマシンを作る時はその特定地域を枯渇させないように出来るかな?出来る限り、自然や風景に被害の無い形で作ってくれる?」


『了解しました。』


 ユーイチはマモリに礼を言うと、目の前にデブ猫のぬいぐるみが現れ、トコトコと歩き始める。お尻がキュートだ。


「マモリちゃん。ぬいぐるみが歩いて見えるんだけど、これって何してるの?」


 するとぬいぐるみはユーイチに振り向くと、マモリちゃんの声が聞こえる。


『ユーイチさんの精神安定の為、気に入っているキャラクターでのアクションを映像にて行っています。バイタルから高評価を得ていますが、辞めますか?』


 ユーイチは真剣な表情で答える。


「そのままで良いです。可愛らしいので。」


 ユーイチの目には、ナビゲーションの様な矢印表示で道が案内されており、デコボコな場所の表示がされている為、新設設計で山道も歩きやすい。そこをデブ猫がバタバタと歩いたり、よじ登ったりしてコミカルな動きをしている。


 そんなデブ猫の案内通りに歩いていると、目的地のマークに辿り着く。確かに平らな場所もあり、キャンプに向いてる場所だ。水辺も近いようで川の流れる音が聞こえる。


「それじゃマモリちゃん。キャンプ用品で必要そうな物を出してくれる?」


『了解しました。』


 目の前にナノマシンが集まってくる気配が分かる。この感覚は融合してるからかな?目の前に1人用テントやマットレス。イスやら食材の入っていた登山用リュックが出てきた。


「ホントに出てきたよ...マモリちゃん凄いね!!」


 ユーイチは笑顔で答える。そして荷物を出すと早速バーナーにガスを取り付けて、説明書通りに火をつける。これは自宅で練習していたので、スムーズだ。


 ウェットティッシュで手を拭いてから、フライパンに油をひいてから、家で下拵えしてビニールに入れていた鶏肉を取り出し....恐る恐るマモリちゃんに尋ねる。


「マモリちゃん。聞きたいことがあるんだけど、この肉とかって俺が食べても大丈夫?ナノマシン的な物とか、賞味期限的な物で。」


『登録された情報が保管されていますので、登録された状態での鮮度や品質での提供となります。追加での登録は不可能ですが、復元に関しては無制限で提供が可能かと。

 その際には必要なナノマシン製造の為、有機物、無機物の消費を行います。』


「ちなみにこの鶏肉を作るのに使うナノマシンは、有機物や無機物をどの位消費してるの?」


『同じ質量で復元しております。今回のテントなど合わせて、脱出の際に作った土の12%を使用してます。』


 なんてエコなマモリちゃんなんだろう。マモリ様と呼ぶべきか?優秀過ぎない?そんな事を考えながら、自宅で下拵えをしていた鶏肉を強火で皮側から焼き始める。


 箸で抑えつけながら皮を焼いて、ある程度焼いてからひっくり返して弱火にしてからフライパンに蓋をする。

 その間にテントの設営だな。1人用テントの組み立てが簡単なのが助かる。


『マモリちゃん。5分経ったら教えてくれる?』


 タイマーをお願いして、ユーイチはテントを組み立ててみる。だがすぐテント設営が出来るはずもなく、組み立て途中で五分経過したのでフライパンに戻る。


 フライパンの蓋を開けると、味噌と酒、マジックソルトの香りがするパリパリの鶏肉さんとのご対面だ。裏を確認するが焦げておらず、そのままひっくり返して焼き続ける。

 その間に、パン屋で買った高めの食パンやレタス、トマト、マヨネーズ、マスタードを使いサンドイッチを作る。

 中に未開封の蓋もついてるし大丈夫であろう。これぞ男の作った『ユーイチサンド』の完成だ。ケトルに水を入れて火にかけているので、後でお湯が沸くだろう。


「そういえば、マモリちゃんは味覚とかあるの?」


 ユーイチは何気なく訪ねる。


『当初の予定された融合でしたら、偽装する為に味覚もデータとして再現される予定でした。今回の融合はイレギュラーな為、どのように感じるかは不明です。』


「それじゃ味覚を共有して、それから食べてみようか?何事も経験だからね。」


『了解しました。味覚を共有しました。』


 ユーイチはコップに水を入れてから、両手を合わせて『いただきます。』と言ってから齧り付く。デブ猫もユーイチの前にちょこんと座っている様に見える。


 柔らかいパンや、シャキシャキのレタスとトマトを噛み切る食感。そしてプリッとした鶏肉や味付けされた味噌の風味や食材の味に、ピリッとしたマスタードの辛み。うん。美味い。


『脅威判定 中 速やかに口内のものを吐き出してください。』


 飲み込もうとした瞬間、マモリちゃんから言われる恐ろしい発言。デブ猫も毛を逆立ててバタバタ走っている。

 ユーイチは思わず食べていたのを吐き出した。そして急いで水で口をゆすぐ。


「マモリちゃん!どうした!!何か入ってたのか?やっぱりナノマシンだとダメなのか!?」


 ユーイチは慌てて聞くと、マリモは厳かに宣言する。


『口内を予想外の刺激物に反応し、判断させて頂きました。攻撃対象は不明。攻撃は味覚にて感知。』


 刺激物で攻撃?なんだ?俺は持参した荷物しか食材に使ってないぞ?.....あ、刺激物。


「マモリちゃん。今から口に入れる物の判定をしてくれる?」


 ユーイチはパンを単品で食べる。


『問題は検出されませんでした。口内の水分が不足した為、水分摂取を勧めます。』


 水を飲んでから、切って残ってたトマトに齧り付く。


『問題は検出されませんでした。水分や人間の栄養素として大変好ましい物が含まれていますので、多くの摂取を推奨します。』


 いや、ただトマトが好きなんじゃないか?デブ猫は尻尾をフリフリしている。

 そして問題はコレだ。マスタード。単品で食べる事は無いが、これは実験だ。瓶から爪の先ほど取って、舐めてみる。


『脅威判定 高 自動攻撃を開始します。』


 いきなり俺の右腕が上がって、腕が銀色になってマスタードの瓶を握り潰した。しかも握りつぶしたヤツが消えたぞ?俺の腕って銀色になるの?ってか操られてない?デブ猫は《シャー!!》と頭の上に文字が浮かび上がり、怒った表情で威嚇してくる。


『ユーイチさん。早急に口内洗浄を推奨します。』


 うわ!勝手に俺の右手が動いてコップの水を押し付けてくる。まぁ水でうがいするだけだから良いけどさ。何回か口内を綺麗にして、辛みが無くなると右手が元に戻る。


「あ〜マモリちゃん?今のやつは攻撃とかじゃなくて、『辛み』と言う味覚の一種なんだ。毒物とか攻撃じゃ無いからさ。」


『初めての感覚ですが、人体や精神に悪影響を与える可能性があると判断します。先ほど仰った《何かあった際の話し合い》を提案致します。』


 うん。マモリちゃんは辛みとかダメみたいだ。お子様な味覚と考えれば良いかな?そんな事を考えながら、ユーイチはパンに塗られたマスタードを取り除きながら、2人(?)の初めての話し合いが始まるのであった。


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第3話 腹が減っては戦ができぬ。初めての脅威判定。


読んで頂きありがとうございます。星や評価を貰えるとチャールスJはとても。とても喜びますので、よろしくお願いします。

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