13. 暗転

「パー……ティ……」


「そうよ。あんたと私でパーティを組むの。今回は二人でクエストを受けたけど、パーティじゃないと受けれないクエストとかもあるの。そういうクエストは報酬も多いし、全体的に見ればプラスになるわ。ねえ、良いでしょ?」


『お前とパーティ組むとプラスよりマイナスの方が多い気がするんだが』とは言い出せない。


 断りたい気持ちで胸がいっぱいだが、ここまで濃い体験をしておきながら、今更この話に断りをいれるのもどうかと思う。


 それに、彼女のことだ。きっと以前にも不運のせいでたくさんのパーティから断られただろうし、そうじゃなきゃ今回のクエストだって二人で行ってない。

 そんな彼女が俺に対してパーティを組みたいと言い出したのだ。


 ここで断るのはあまりにもこくすぎる。


「――外の空気を吸ってくる。少し、考えさせてくれ」


「ええ、わかったわ。あなたが答えを出すまで、ここで待ってる」


 部屋のドアに手をかけ、そのまま廊下へと出る。ふと廊下の左側を見ると、階段がありその上にドアがある。きっと屋上なのだろう。一人で考えるにはもってこいの場所だ。


 案の定、そこはギルドの一番上で、見上げると青い空と燦燦と光る太陽が全てを明るく照らしていた。

 今は春だから、このくらいの天気がちょうどいい。


 そしてそのままドアのすぐ横に座り込んだ。


「――パーティ……仲間、か」


 きっと今は、人生を変えるチャンスなんだろう。

 彼女とパーティを組めば、忙しく辛い、けれども前よりは確実に充実した日々を送れることはわかりきっている。


 それでも、事前予告のある急な変化は怖い。

 それが誰の手でもない、自分の判断で決めれるのがより一層嫌になる。


 誰かに決めてもらう時期はもうとっくの昔に過ぎている。これからは自分自身で決めていかなければならない。そのはずなのに、自分の判断で自分に責任を課すことがどうしても怖いのだ。


「――逃げれば楽なんだろうなぁ」


 ここにきてしょうもないことを口に出してしまった。

 彼女は俺が答えを出すまでいるといっていたから、どっちにしたって戻らないと彼女に悪い。


「そういえば、俺の特殊職業エクストラジョブのポイントってどうなったんだっけ」


 迫られた選択肢から逃げるように、会員カードと一緒にポケットに入れてあった特殊職業エクストラジョブのカードを手に取る。


 画面には、ゴブリンとゴブリンキング一体ずつのポイントが映っていた。


 どうやら、会員カードの方でスキルを振っても、こっちには関係がないらしい。本当に特殊職業エクストラジョブはギルドの管理外みたいだ。


「皮肉だな。俺が選んだカードで、その通りになるなんて」


 神の部屋で選んだ職業ジョブの書かれた三枚のカードの内、選んだのがこの職業ジョブ『ニート』だ。

 職業ジョブとは到底呼べないものだし、俺はこの名前かなり嫌いだ。


 まさか、転生者は選んだ職業ジョブの通りに人生が運ぶなんてことはないよな?


 あくまで職業ジョブってのは人生じゃなくて与えられた能力の総称を指し示すものだと思ってるんだが。


「あ、ちょうど次のスキルが取れる」


 確か以前確認したとき、一番最初にとれるのが『自宅警備員ホームガードナー』というスキルだったと記憶している。


 今の俺になんとも合いすぎている名前だな。実際、家に帰って自宅警備員の職業を全うしたいという考えは、今も頭の片隅にある。


 復縁の機会だって、もらえるならどんなことでもするつもりだ。


「せっかくの機会だ。神からもらったこの職業ジョブ、とってみるか」


 多分操作は会員カードで『ラックダウン』を獲得した時と同じ要領だろう。


 同じ操作でスキルを獲得すれば、確かカードから音声が流れるはずだ。


 ――しかし、


「あれ? 音声が流れない」


『ラックダウン』を獲得したときも『ラックダウンを獲得しました』って音声がながれたのだが。

 まあ、ギルド管轄外のカードなんだし、そこまで一緒ってわけでもないか。


 ――瞬間、世界が暗転した。

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