8. 何を隠している?
「これ結構重いな。着心地は悪くないが……」
「あんたの筋力が無いのよ。ある程度良いの買ってあげたんだから、我慢しなさい」
俺とナノは装備を一式揃えたのちに、討伐目標のゴブリンがいる森へ足を踏み入れていた。
腕や胸に鉄のプレートがあてがわれた装備を着ており、防具屋の店主によれば『軽くて丈夫』とのことだったのでこれを買った。
腰には片手剣を携えており、武器屋の店主によれば『軽くて丈夫』とのことだったのでこれを買った。
正直、俺には安物と高物の違いがよくわからなかったので、彼女に選んでもらったが、彼女も適当に選んでいたように見えたので若干装備に心配が残る。
「ゴブリンってどの辺にいるんだ?」
「基本は洞窟に住んでいて、道を歩いているとたまに襲ってくることがあるらしいわ。だからこうして道を歩いていれば」
その時だった。草むらからガサガサと物音が聞こえたかと思えば、緑色の人より小さい体を有し、頭に一本角の生えた、誰もが想像し得るデフォルトのゴブリンが四体出てきた。
おそらく誰かからはぎ取ったりした体に合わない装備を身に着け、手にはボロい剣も持っている。
「うわ! びっくりした」
「早速お出ましね。あんたは手を出さないんでしょ。ここは私がやるわ」
彼女は俺より前に出ると、両手を重ねて前に突き出す。すると、魔法を撃つ前段階なのか、彼女の前に赤い魔法陣が出てきた。
「『フレイムバーナー』!」
そう彼女が詠唱したとたん、赤の魔法陣から炎が出てきて、前方広範囲に放たれる。
それをもろに受けたゴブリンたちは、あっという間に倒れていき、後に残されたのはゴブリンたちが着ていた焦げた装備だけであった。
そして、強力な炎の魔法を放った彼女はと言うと、なぜか呆然と突っ立っており、ゴブリンが掃討された場所をボーっと見つめている。
「――あれ、当たった……当たったわ! ねえ見てた! 当たったわよ」
「うわあぁぁあああ!」
何故当たったことがそんなに喜ばしいのか知らないが、それよりも早くこっちを助けてほしかった。
先ほどのゴブリンの残党が、炎の魔法をいち早くよけて俺の方に来ていたのだ。
おそらくは、彼女より弱そうな俺をターゲットにしたのだろうが、まったくもってその判断は正解である。
「まずいわ! ヘージ!」
今にもゴブリンが襲い掛かってきそうな時、俺の自己防衛の本能がそうさせたのか、とっさに腰にあった剣を引き抜き、無我夢中でゴブリンに一太刀を浴びせた。
当たり所が良かったのか、一撃で倒すことができ、ゴブリンはその場で倒れる。
「あ、あぶねえ……」
「なによ、あんたやるじゃない!」
「まぐれだ、あんなの……」
謙遜などしていない。実際本当にまぐれだったし、同じ事をしろと言われたら絶対にできないと確信を持って言える。
それよりも、驚くべきは彼女の方である。
「にしてもすごいな。ウィザードってあんな強力な魔法が使えるのか」
「え、ええそうね。今日は調子がいいみたいだし? さっさとゴブリンキングも倒しに行きましょ!」
こちらとしては純粋に褒めただけなのだが、なぜか彼女はバツが悪そうな顔をする。
あれだけ合わせていた目線を、かなりわかりやすくそらしていた。
こりゃ、ギルドの奴らが言ってた不安ごとが、だんだん現実味を帯びてきたな。あいつ確実に何か隠してる。
「角とかはぎ取らなくていいのか?」
「はぁ? あんたどういう神経してるわけ? キモイんですけど」
「気をつけろ。その言葉は簡単に人を傷つける」
RPGで、討伐した魔物からドロップ品が出てきたり、角や皮などをはぎ取って武器や防具の素材を手に入れるところをよく見ていたため、この世界でもそれが当たり前だと思っていたが、どうやら彼女曰く相当キモイとのことだ。
「そういうのは、討伐の依頼には含まれないの。今回は生け捕りの依頼じゃないんだから。それに、仮に生け捕りにしてもそれを素材にするのは業者の仕事であって私たちの仕事じゃないわ」
「じゃあ、どうやって討伐したことを証明するんだ?」
「これよ」
彼女が取り出したのは、ギルドの会員カードだった。説明するよりも見せた方が早いといわんばかりに取り出し、行動で俺にもカードを取り出すように促す。
「――これは」
画面を開くと、そこには今受けているクエストの内容と同行者、クエストが行われる場所。そして討伐対象であるゴブリンの討伐数も書かれてあった。
そして現在討伐数は、十分の四になっている。
「クエストを受けるときに、カードを一緒に提示する理由がこれよ」
「なるほど、クエストもこのカードで一括管理してるのか」
「昔、別のところで同じ種類の魔物を狩ったりとかして、討伐対象を偽造する輩が出たんですって。それでこのカードで確認が取れるようになったわけ」
このカード、見れば見るほど、知れば知るほどゲームのメニュー画面だな。
前世の現代科学の結晶であるスマホには到底及ばないが、それでもこれは、ギルドでクエストを受ける者にとっては必需品である。
それがギルドへの入会と一万ルピカで手に入るのだから、安いものだ。
もちろんギルド関係以外での使用用途は全く無いが。
「なあロッドエッジ」
「――――」
「はぁ……ナノ」
「なにかしら?」
どうしても名前呼びじゃないと嫌らしい。
親しみを持ってほしいのか、それとも自分のファミリーネームが嫌なのか。どちらにしても、名字の珍しさだけが取り柄の俺からしてみれば、理解のできないことだ。
ナノを先頭にして歩いている中、名前を呼ぶと振り返ってこちらを見る彼女には、多少愛くるしさのようなものがあるが、それよりも気になることがある。
「お前さ、何か隠してることないか?」
「――――」
「おい、無言で前を向くな。無視されたと思って泣くぞ?」
彼女にとって、もしくは俺にとってかなり都合の悪いことなのか、特に確信に触れているわけでもないに、彼女は怪しさ満載で無言のまま前を向いた。
「――私があんたに嘘をついてるって言いたいの?」
「ちょっと違うな。そもそも本題すら出してないだろ」
「あ、あんたの勘違いよ。陰キャ過ぎて妄想癖こじらせたんじゃないの?」
「本当に泣くぞ? 俺は泣いたらすごいんだからな?」
図星といったところか。嘘とか真実とかそれ以前に、知られること自体がマズイことであることは確かなようだ。
というかそんなことよりも、俺の涙腺が決壊寸前だ。俺のハートはプレパラートの上に乗せるカバーガラスより脆いんだからな?
その後、なんとか彼女の隠していることを知るため、いろいろとアプローチをかけようと思ったが、そもそも俺は陰キャなので出しゃばった行動はしたくないのだ。
これ以上しつこくすると、彼女の罵声を浴びて俺のガラスのハートが砕けかねない。
触らぬ神にたたりなしと言うしな。神様嫌いだし、このままそっとしておこう。
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