6. 目立つのは嫌だ
「それでは説明させていただきますが、その前にこちらのカードの四角い枠の部分に指で触れてください」
「は、はい」
周りの俺に向けられる視線がめちゃくちゃ嫌なので、受付に話しかけられた途端に即刻その方を向いた。
そして、免許所と同じくらいの大きさのカードを受け取る。
そこには、自分の名前と生年月日。そしてカードの右側には少し大きめの四角い枠があった。
言われるがままに右手の人差し指で枠の中央を触ると、
『指紋認証中……この指紋は、ヘイジ・ウィルベスターさんので間違いないですか?』
「うわ! びっくりした」
指とカードが触れ合った瞬間、突然カードから機械的な女性の音声が発せられ、思わずカードを落としてしまう。
拾い上げてもう一度見ると、カードから青い光が出ていた。
「『はい』と答えてください」
「――はい」
『登録完了』
その一言だけを発すると、それ以降は何もしゃべらなくなってしまった。
「では、ご説明させていただきます。そのカードはギルドの会員であることを示すほかに、魔物を倒したり、クエストをクリアするともらえるポイントを貯蔵する役割もあります。試しに、枠の部分をもう一度触っていただけますか?」
言われた通りに、人差し指でもう一度カードに触れる。
すると今度は、半透明の水色の画面が目の前に出てきた。
そこには、獲得したポイントや次に取れるスキル名。また、自分のステータスが細かに数値化されて表示されてある。
今登録したばかりだから、ポイントはゼロだし手近に獲得できそうなスキルも、しょぼそうなものしかなかった。
「目的のスキルが獲得できるポイントまで貯まったら、画面を操作することでポイントを消費し、スキルを獲得することができます。スキルは魔力を消費することで放つことができ、強力なスキルほど要求される魔力も多くなります」
なるほど、わざわざギルドにいなくても、どこでもスキルを獲得できるのか。
ステータスも数値化されて、自分の情報を客観的に見れるのはいいんだが、如何せん高いのか低いのかよくわからない。
まあ、前世の数値でわかる自分の情報は、健康診断の結果くらいだったし、こっちの方が断然マシなのだが。
手近にとれるスキルは複数あるが、どれもあまりパッとしない。強いて言うなら、この『ラックダウン』というのが面白そうだ。
「それと、カードの右上に書いてある職業欄を見てください」
画面右上に、『冒険者』と書いてある。
あれ? 俺って確か『ニート』じゃなかったっけ?
「大量のポイントを消費すると、冒険者から別の職業に転職することができます。詳しくはこちらの紙を見てください」
受付の人から一枚の紙を受け取る。
そこには、ゲームの攻略本のように冒険者から転職できる職業の一覧と、さらにその上のランクの職業のことまで書かれていた。ゲームみたいな世界観だな……
「冒険者から好きな職業へ転職すると、その職業固有のスキルをとることも可能です。ただし、一度転職してからその職業のスキルと取ると、別の職業に再度転職はできないので注意してください。それと転職はギルドの受付でしか行うことができないので、転職したい場合は、一度ギルドへお越しください。」
「――わかりました」
職業一覧の紙を見ながら、話半分で説明を聞いていた。
まあ、言ってることは基本的なRPGと似てるところがほとんどだし、そこまで注意して聞かなくても問題ないだろう。
「それでは、これで説明を」
「ちょっと待ってください!」
受付の人が説明を終えようとした瞬間、奥から別の職員が出てきて大声で呼び止める。
奥から出てきた職員が、受付にいる職員を呼びよせると何かを手渡した。
手渡されたものを見た職員は少し驚いた様子だったが、すぐに顔を戻し、受付に戻ってくる。
そして、一枚のカードを机の上に差し出すと、神妙な面持ちでこちらを見つめてきた。
やめてくれ。こちとら人と目を合わせるのすら苦手なのに。
「――えっと、これは?」
「こちらは
『
ギルド内の全員が、一斉にこちらを見てきたのだ。もちろん、先ほど俺に話しかけた少女も、じっと俺を見てくる。
ああ、俺は何回多くの視線を集めるのだろう。背中から冷や汗が止まらないぞ。
「会員カードに情報が入力されたとき、ギルド内の機械にその情報を転送してるんですが、まれに、転送後に機械から
いや、それ以前に俺の情報を転送してるって部分が気になるのですが?
ステータスとかも一応個人情報だよね? ここにいる全員それを承諾してるってこと?
いやまて、そういえば契約書を書いたときにそんなこと書いてあった気が……
「
ギルド内がざわめきだした。
「
「ねえねえ、あの人仲間にしようよ!」
「こりゃ、とんでもねえことが起こりそうだな」
「早めに唾つけとくか?」
それぞれ思うところがあるのだろうが、その思想の先が俺というのが嫌だ。
一回目よりも二回目よりも、三回目の今が一番注目を浴びてしまっている。
陰でひっそりと暮らしたいのに、これだけ目立ってはそれも叶わなさそうだ。
「
言われた通りに指紋認証させると、会員カードで出てきた画面と似たような画面が出てくる。
職業欄には、この世界の文字ではなく日本語で『ニート』とだけ書かれてあった。
ああ、なるほど。神の部屋で獲得したスキルは、こっちの世界では
手近で取れるスキルは……『
「
ポイント獲得が魔物討伐のみっていうのがかなり効率悪いな……
「以上で説明は終わりです。なにか質問などはありますか?」
「い、いえ、特には……」
「にしてもすごいですね。私もこの職業を長いことやってますけど、私が見た中じゃ
冒険者の街として知られるここアルバスでも、
「そう、なんですか。それじゃあ俺はこれで……」
職員が残念そうな目でこちらを見てくるがそんなの知ったこっちゃない。
早くこの場を去りたかったので、踵を返すようにすぐに出入口へと向かおうとしたが、そうは問屋が卸さないらしい。
先ほどざわざわと何かを話していたギルド内の何人かが、入口付近で待ち構えていた。
別に入口を塞いでいたわけではないのだが、確実に何か話しかけられそうな雰囲気である。
そんな俺の唯一の逃げ場といえば、今まさにこちらをじっと見つめている先ほどの少女が座っている席のみだった。
きっと他のテーブルにつけば、少女がこちらに来るか、その前に他の人が来るだろう。
もう選択肢はあそこ以外にない。
俺はそそくさと逃げるように少女のいる窓際の席へ座った。
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