5. コミュ障? 人見知りなだけです

「ここがギルドか……思ってたよりでかい建物だな」


 今周りにある建物の中でひときわ目立つのが、目の前にある大きな三階建ての建物。

 中で賑やかな声が聞こえ、窓からは真昼間だというのに生ビールを一気飲みしている巨漢が、数名で机を囲んでいる姿が見える。


 どうやらギルド以外に酒場も経営しているようだ。三階まであるということは宿屋の側面もあるのかもしれない。

 金さえあれば一生ここで暮らすことも、もしかしたら可能なのかも。


 とりあえず、中に入ってみないことには何も始まらないので、胸の位置にあるスイングドアに手をかけ、恐る恐る中へと入っていく。


「ひぃ!」


 木造のスイングドアから、木独特の『キィイ』という音がしたとたんに、かなり多くの人が俺の方を見てきた。口から心臓が飛び出そうなくらいビックリして、小さく悲鳴を上げてしまう。


 ただ、それも一瞬のことだったようで、目的の人物ではないと思ったのか、すぐに自分たちのいるテーブルの方へ視線を戻した。


 正直こんなところに長居はしたくないが、右も左もわからないので、とりあえず受付らしき女性がいる場所までそそくさと移動する。


「えっと、その……ギルドで、し、仕事を……」


「クエストの受注ですか? それでしたら、あそこの掲示板に貼ってある紙をこちらに持ってきて、会員カードと一緒に提示してください」


「え……その、会員カードっていうのは……」


「ギルド会員未介入の方ですか? ではこちらにお名前と必要事項を記入してください。それと発行料として一万ルピカもお願いします。」


「わ、わかりました……」


 ダメだ。いまだにリアルの人間とはうまく会話ができない。

 中学も高校も、これのせいで孤立して、次第にいじめられていったのだ。


『いじめは加害者側も悪いが、被害者側にも非がある』という人は少なからずいるだろうが、だとすれば俺の非とやらはどうやったら治るのだろうか。ぜひとも教えてもらいたいものだ。


 紙とペンを渡され、言われるがままに記入をする。

 全ての内容を書き終え、封筒の中から一万ルピカを取り出して紙の横に置く。


 ギルド内の実際の治安がどうかは知らないが、怖いので残り九万ルピカ入った封筒は、しっかり懐にしまっておこう。


「――書けました」


「――ヘイジ・ウィルベスターさんですね。ではカードの発行と説明があるのでここでしばらくお待ちください」


「はい……」


 受付のお姉さんは内容を一通り確認すると、問題なかったのか書かれた紙とお金をもって奥の方へ消えていった。


 カードの発行ってすぐできるものじゃないのか。

 周りから聞こえてくる音は、おっさんの笑い声、おっさんのイビキ、おっさんの怒鳴り声……全部おっさんじゃねえか!

 いや、もちろん女性もいるにはいるんだが、その声は全ておっさんの声でかき消されている。


 治安が悪いなんてレベルじゃない。俺の大嫌いな陽キャのノリが、今後ろで繰り広げられているのだ。


「――ねえ」


 もし誰かに絡まれでもしてみろ。即刻カツアゲの内に無一文になるに決まってる。


 もちろん良い陽キャもいるのは理解している。

 高校生の時、不登校最初の日に学校から配られたプリントを持ってきてくれていた、クラスの学級委員長がいた。その子はクラスの中心にいて、誰にでも優しくて、だからこそ俺にも多少は優しかった。


 まあ次の日から彼女は来なくなったけど。


「――ねえ」


 いや、確かに不登校になった俺も悪いよ? それでもせめてあともう一回くらいはプリント届けに来てくれたっていいと思うんだ。


 そもそも俺は悪いのか? 自分たちとは違う存在を淘汰しようとするのは確かに人間の本能だし、そこは割り切っている。でも見た目は君たちとほぼ一緒だし、特別ブサイクに生まれたわけでもないのに、コミュニケーションが苦手ってだけでクラスの連中から無視されたり、トイレ中に水ぶっかけられたり、教科書隠されたりとか、どんだけ人って集団の意思というか理念っていうか、そういうのに数割でもそぐわない人間を排除したがるんだろう。だからこそ俺にもほんの少しは非があるとして、大多数はあいつらが


「――ねえ!!」


「――え?」


 話しかけられたのは自分じゃないと思いながら、頭の中で昔の嫌な記憶を蒸し返して聞こえないようにしていた。


 しかし、大きな声を出された挙句、服の裾を引っ張られては無視できるものもできなくなってしまう。

 そして振り返ると、彼女の大きな声に反応して、今まで騒いでいた人たちが、また一斉にこちらを見てきた。


 しかも今度は、さっきの目線とは意味合いが違う。明らかに奇妙なものを見る目で二人をみているのだ。


 勘弁してほしい。こっちは早くここから去りたいから目立つことなんてしたくなかったのに、彼女のせいで今かなり悪目立ちしている。


「今日ギルドの会員に加入するの?」


「は、はいぃ!」


 真剣なまなざしでこちらを見る金髪の少女。


 第一印象の風体として、その恰好はゲームやアニメに出てくる魔法使いをそのままリアルに引っ張り出したような見た目だった。特に黒く大きな帽子には目を引かれる。


 真っ直ぐな瞳をしている彼女にまともに目を合わせることもできず、あまつさえ声を裏返して情けない返事をギルド内に轟かせてしまった。


 奥の方では、何人かクスクス笑っているのが聞こえる気がする。きっと幻聴だろう。そう信じたい。


「話があるから、手続きが終わったらあそこのテーブルに来てくれないかしら」


 そう言い残すと、少女はこちらの返事も聞かずに窓際の指さした方のテーブルまで歩いてちょこんと座った。


 それと同時にカードの発行が終わったらしく、受付のお姉さんが窓口に顔を出した。

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