第8話 再会

ミナト達はギルドから直接受ける依頼とは別の、依頼主が直接依頼を貼り付けていく掲示板に来ていた。位置的には昨日来た2階の真向かいに面している。


「死体が出ない依頼って言っても色々あるけど。何するの? 」


「いや、俺に聞かれても....。」


 かなり大きな掲示板に所狭しと依頼が貼られている。ほとんどは隊商の護衛や、魔物の討伐などで、魔物と遭遇しそうにない物は見当たらない。死の危険がない依頼は初心者でもやり易く、すぐに無くなってしまう。広い掲示板の中にその様な依頼がないか、3人で探していると───


「あ、ありましたよ! これなら多分大丈夫なんじゃないでしょうか。」


「どんな依頼なの? 」


「依頼内容は盗品の捜索だそうです。依頼主の方がマスターが武器を買った所の鍛冶屋さんですので始めやすいと思います。──ちょっと危ないかもしれませんが....。」


 セラが指し示した依頼は盗品の捜索依頼だった。盗品という事であれば盗んだ者が存在する。危険なのは危険なのだが、依頼主は前にあったあの鍛冶屋らしい。


「とりあえず話聞くだけでも聞いてみるか。」


「そうですね。品物が盗られて困っているでしょうし....。」


「ならこれ持ってさっさといくわよ。」


 ヴィルがそういうと共に3人は歩き出す。何かに気付いたミナトはチラチラと振り返り、ヴィルを見ていた。


「何よこっち振り返って。」


「いや、今度は無計画に歩き出したりしないんだな、って。」


「うるっさいわね....。あの時はたまたまでしょ! 」


 ヴィルは抗議しながら早歩きでミナトに追い付こうとすると、ミナトがヴィルの前で膝を付いた。


「ほら、乗っけてやるから。歩幅違い過ぎて歩きにくいだろ。」


「あぁ、そういう事だったのね。ありがと。」


「こうしてれば多少は筋肉も付くかもしれないし。大丈夫大丈夫。」


 ミナトはヴィルを肩車する。中身は別にしても体格は大人と子供。先程からヴィルが歩き辛そうにしている事にミナトは気付いていた。


「久しぶりに高い所からの景色も良いわね....。」


「マスター、大丈夫ですか....? 」


「なんとか歩けなくはないかな。思ってより重くなくて割といけそう。」


 いくらヴィルが子供とは言え、人は人。かなり重い物だとミナトは思っていたがそういうわけでもない。


「よし、んじゃ行くか! 」


「はい! 」


 3人はギルドを出て鍛冶屋へ向かう。依頼主の欄にはバッカスと書いてあった。恐らくあの男がバッカスなのだろうか。『ドミネーション』の中では鍛冶屋としてしか表記されていなかったが、そんな名前だったとは。ミナトはそんな事を考えながら漫然と歩いていた。


「あれ? 道間違えたっけ? 」


「いえ、確かにここに店があったはずです....。」


「間違えたんじゃないの? ミナトもぼーっとしながら歩いてたし。」


「いや、そんなはずは....。」


「アンタ達、この前の! 」


 ミナト達が困惑していると、この前の鍛冶屋が前から歩いてきた。という事はやはり確かにここは店があった場所のはずだ。一体何があったのだろうか。


「私たちはバッカスさんの依頼を見てここに来たのですが....。これは一体.....? 」


「依頼見て来てくれたのか!端的に言うとなァ....。盗まれたんだ。」


「盗まれた? 」


「あぁ。盗まれた。店ごとな。商売道具も何から何まで全部。」


 バッカスの口からは衝撃的な言葉が発せられた。店ごと盗まれたというのだ。武器一つを盗むのとはスケールが違い過ぎる。 


「まさかそんな....。どうして気付かなかったの? 」


「子供が1人増えてる? 兄ちゃん達のガキかい? 」


 バッカスはヴィルの質問に答える事なくミナト達に問いかけた。バッカスとて悪気はない。男女が2人並んで歩き、男の上には子供が1人肩車されている。この状況で勘違いしない方がおかしいだろう。だがヴィルにはなんであれ同じだった。


「そんな訳ないでしょ! どこをどう見たらそう見えるの!? 」


「これは勘違いされても仕方ない様な気がします! 」


「なんだ違ェのか。んでなんだ、なんで気付かなかったのかって話だったか。隣の家で寝てたのに全く気付かずに持ってかれたってワケだ! デケェ音がしたら流石に気付くと思うんだがな....。」


 驚いた事にバッカスは隣の家で寝ていたという。店ごと持っていくとなるとかなり大掛かりな用意が必要なはずだが、それでも気付かれずに持っていくという事はかなりの手練れなのだろうか。


「でも鍛冶屋って武器もそうだけど炉とかあるし、めちゃくちゃ重いよな。マジでどうなってるんだ? 」


「言われてみればそうですね。普通の家でも誰にも気付かれずに運ぶのは不可能でしょうが、それが鍛冶屋ともなると....。」


 ミナトの言う通り、鍛冶には金床や溶鉱炉、多くの燃料が必要で、しかも家は石造。一体どうやって運んだというのだろうか。


「どうやったら運べるんでしょう....? 」


「うーん、大量の人を集めてバラバラにして持ってくとか? 」


 たしかにこれが1番現実的な案である。大勢の人間が居れば店ごと持っていく事も出来るはずだ。しかしこの説明には問題点があった。


「ですがそれならものすごい音が出るような....。」


「それにそんな事しても何にもならないわ。武器が欲しいなら武器だけ持っていけばいいし、いくらなんでも外壁とか装飾まではいらないでしょ。」


 ミナトの説明には以上に対する説明が出来ない。そもそも店ごと持っていくという行為自体が非効率的なのだ。これを分解して持っていけるだけの人数がいるなら、鍛冶屋は住居にするには狭過ぎる。


「でも店ごと持ってったならかなり目立つはずだけど。探してはみたの? 」


「あぁ。この辺り一帯は全部探し回ったさ。だけどどこにもありゃしねェ。夜のうちにスラムとかに売り払われたかもしれねェって思ったんだ。それで商人とか近所の連中にも聞いてみたんだが、聞いた限りそんな物はどこにも出てねェ。」


「そんな事ってあるんだな。マジで何が目的なんだ....? 」


「知らないわよそんな事。」


結局最終的に4人は今の段階では何も分からないという結論に至ってしまった。


「でもどうするの? このままじゃ何にも解決しないじゃない。」


「とりあえず夜に一旦この辺りを見回ってみませんか? もしかしたら盗賊さん達に出会えるかもしれませんし! 」


「盗賊さん達って....。まぁそれが1番妥当かもね。ミナトもそれで良い? 」


「あぁ。こういうのは地道な捜査が必要なやつだしな....。」


 という事で夜のパトロールが決定した。警戒していれば何か手掛かりが見つかるかもしれない。更にまた何かを盗むという可能性もある。できればその様なところを抑えたいが、話を聞いている限り簡単にはそうさせてくれなさそうだ。


「とりあえずうちに来て話さねェか。せっかく依頼受けてくれたのにずっと立ち話ってのもよ。」


「ならそうさせてもらおうかしら。ミナトの首からそろそろ悲鳴が聞こえて来そうだしね。」


「気付いてたなら降りてくれよ...。」

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