第4話 初めての異世界ご飯!

「マスターは先程ご覧になったかと思いますが、ここがギルドの食堂です! 」


「ここが食堂...? 食堂にするには少し広すぎない? 城の食堂よりは広くないけど...。」


 ヴィルはセラにここが食堂であると言われてかなり驚いている。実際にはギルドの窓口と図書館も兼ねているから食堂部分は一階だけなのだが。


「あー、ここの二階と三階はそれぞれギルドの受付と図書館になってるんだ。食堂はこのホールだけ。」


「あぁそうなのね。びっくりしたわ...。」


 ヴィルが考えていることを察したミナトの補足を受けてヴィルは納得した。


 ほどなくして席に着いた三人は食事を選び始める。食堂はピークの時間は過ぎている様だったが、ミナト達以外にも多くの冒険者らしき人々で賑わっていた。


「それで? ここにはどんな料理があるの? 」


「ここの名物はガーゴイルのから揚げです。 ガーゴイルの肉を食べる事には少々抵抗があるかもしれませんが...。想像以上に美味しかったですよ。 」


 この世界にもから揚げが存在する、という事がここがゲームの世界の中なのだという事を思い出させる。ここが『ドミネーション』の世界なのかという事の疑念はあるが。


「ガーゴイルのから揚げ...? ヴィルが魔王名乗ってるのにそれは...。」


 ミナトはセラに対して耳打ちする。魔王を名乗っている子供に対して魔族を調理したものを出すのはいかがなものか。セラもそれに気付いたらしく訂正しようとするが...。


「おいしそうじゃない! それ食べましょ! ...? なんでそんな顔してるの? 」


 当のヴィルは何も気にしていない様子である。それどころかキョトンとしている二人を見て不思議そうな顔をしている。


「えーっと...。その。元部下とか食っても大丈夫なのか...? 」


「? だってもう死んでるんでしょ? そもそも私もう魔王じゃないし。美味しいものが食べられればそれで問題ナシ! 」


 割とそのあたりはルーズらしい。それどころか、全然乗り気である。正直な所ミナトはよく知らない肉をあまり食べたくはなかった。ヴィルの事を配慮している風に見せて、自分が食べるのを回避するつもりだったのである。


「そうなのか..,。」


「ご注文はお決まりでしょうか? 」


 ヴィルはタイミングよく来たウェイトレスに注文を伝える。


「ガーゴイルのから揚げ三人前で! 」


「かしこまりました! ガーゴイルのから揚げ三人前ですね! 」


「え、ちょっ!? 」

 

 ミナトは自分の分まで注文された事に驚いて制止しようとするが、ウェイトレスは次の注文を受けにいってしまった。


「マスターは食事をとられないのですか? 」


「いや、いきなり魔族の肉は...。もっと普通のから食べたかったんだが。」


「ミナトは食べた事ないの? 何にも言わないから食べるんだって思ってたけど。」


 確かにヴィルにはミナトがここに召喚されたのだという事を言っていなかった。そうであればいくらミナトがジャージにパーカーというおかしな格好でもここに住んでいると考えるのが普通である。


「マスターはここに来てからの食事は初めてなんです。マスターは昨日ここに召喚されたので。」


「そうそう。部屋のドア開けたら無一文でこの街の路地に立ってたんだ。」


「そうなのね。まぁミナトがここの食事に慣れてるわけじゃないって事は分かったわ。」


 そんな事を言っていると先程注文を受けたウェイトレスが三人分の料理を持ってこちらへ向かってくるのが見えた。この様子ではミナトもガーゴイルを食すしかなさそうだ。


「こちらガーゴイルのから揚げです! 熱いので気を付けてお召し上がりくださいね! 」


「割と見た目は普通だな...。もっと丸焼きみたいなのが出てくるものだと思ってたけど。」


 ミナト達の前に現れたのは、現代日本でもよく見る極普通のからあげだった。それにパンとスープが付いて一人当たり銅貨5枚。『ドミネーション』と価格設定が同じなのであれば約300円程だ。ギルドの食堂という事もあってか、かなり価格は控えめらしい。


「美味しい...!! 」


「ヴィルちゃんのお口に合ってよかったです! マスターは食べられそうですか...? 」


「いやめちゃ美味い。ガーゴイルって鶏肉のもも肉と胸肉の間ぐらいの食感なんだな...。」


 こんなわけで三人は食事を取り始めた。ミナトは昨晩軽く夕食を取って以来何も食べていなかったので二人よりもかなり食べる速度が速い。


「そういやさっきから飲んでるこのスープって何なの...? 」


「メニューにはガーゴイルの骨と野草煮込んだって書いてあったけど。」


「鶏ガラならぬガーゴイルガラって事か...。これも普通に美味いな。」


 どうやら異世界の食事も思ったよりは食べられるらしい。ミナトが思っていた程のゲテモノが出てくる訳でもなく、普通の料理だった。この様子であれば、異世界でもやっていけそうである。


「この後はどんなクエストに行くか決めてるの? 」


「この後はゴブリンを少し狩るクエストに行こうかなと。ゴブリン相手ならいくらなんでも即死という事はないと思いますので。」


「ゴブリンかぁ...。ニヤニヤ笑ってて気持ち悪いのよねぇ...。」


 『ドミネーション』に出てくるゴブリンは棍棒を持ち、複数で襲い掛かってくる一番基本的なモブだ。ヴィルが言うように常に気味の悪い笑みを浮かべているのが特徴でもある。


「まぁセラもいるし、俺もナイフ持ってるしなんとかなるだろ。そんな強い相手じゃないし。」


「ミナトはナイフ使うのね。まぁ悪くないんじゃない? 」


「そ、そうか...? 俺的には両手剣とか使いたかったんだが...。」


「あんなの扱いにくいだけじゃない。地に足ついた武器選びなさいよ。」


 ミナトが考えていた事はヴィルによってまた一蹴された。地に足の付いた武器を使えとはド正論である。


「でもこんな武器じゃ恰好が付かないじゃん...? セラはあんなにデカい弓使ってるのに。」


「命かプライド、どっち捨てたい? 」


 余計なプライドを持っているミナトにヴィルは質問する。若干キレ気味で。


「プライドの方捨てさせて頂きます!! 」


「よろしい。そもそもミナトとセラじゃ種族が違うんだし。仕方ないわよ。」


「そうです。私は弓を使っていますが、この弓とマスターのナイフは同じぐらいの重さですし、大丈夫ですよ! 」


 セラはこんな事を言っているが、実際弓を扱うにはかなりの鍛錬と、弓を引くためにミナトのパワーを遙かに上回る力を必要とする。セラの持つ弓がミナトに扱えないのは明白だった。


「弓って弾く力が重要なんじゃなかったっけ...? 」


「せっかくセラがフォローしてくれてるんだから余計な事は言わなくていいの! 」


 ヴィルはナトに対してツッコミを入れる。こういう時は気付いていても黙っておくべきなのだ、と目線でも訴えかけてくる。


「悪かったって。こんな事言ってるけどこのナイフかなり手になじむんだよな。」


 そういってミナトは腰に付けていたククリナイフを手に取る。斬撃の威力を高めるために先端が重く、更には全体がくの字・・・型に曲がったナイフは、心地よい重みをミナトの手に与える。


「それなら良かったです...! 最初はマスターの要求にあった武器ではなかったのでどうかと思いましたが...。」


「手になじむ武器が一番よ。身の丈にあった、っていうの? そういう感覚が大事なの。」


 ヴィルは先程からかなり含蓄のある事を言う。目の前に座っているのが幼い子供という事もあって、それがより際立って見える。


「それもそうだな。昼飯も食べ終わったし、そろそろクエスト行くか! 」


「そうね。元魔王の力見せてあげるわ! 」


「私もしっかりサポートさせて頂きますね! 」

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