ワルプルギスの帰り道【魔女と使い魔×五月雨に光る太陽×ゆらゆらゆれる】

 夜中にトイレに起きると、窓の外は一面の星空だった。

 何だか、星を見るのは久々で、少し空を眺めていると、鳥とも飛行機とも違う不思議な影が空をすぅーっと飛んでいった…気がした。


「あー!ホンマに?見られてしもたん?

 空飛んでるトコ見られるとか、魔女として半人前もええところなんやけど…」


 あぁ、魔女ってホントにいたんだぁとぼんやり考えながら、目の前で胡散臭い関西弁を話すサルに驚きを隠せなかった。


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「あらら、もう…。おおきに!

 お菓子とかお茶まで出してもろて、申し訳ないわぁ」

 CG映画みたいに感情豊かにベラベラ喋るこのサルは、横で小さくなっている女の子の使い魔らしい。

「ユリアは、ホンマはもう魔女としての実力はちゃんとあるはずなんやけど、つい何かに気ぃとられたら、すぐ失敗してまうねん…。

 昨日の集まりの後も、急に雲の上を飛んで帰りたいって言いだしてな…。

 何が面白かったんか、一晩中、雲の上にいたみたいなんや。

 いや、ボクも一緒に箒に乗ってたんやで!お目付き役として!

 ただちょっと眠くなってしもて…ほら、夜やし。

 で、気ぃついたら、お宅の立派なお庭に不時着してしもてたってワケ。堪忍なぁ…」


 見た目はサルなのに、あまりに流暢に関西弁を話すものだから、話が全然頭に入ってこない。


「でも、ホンマ助かりましたわ!

 雨も降ってきたけど、ユリアは日本語喋れへんし、ボクはサルやから、宿泊施設とかにもきっと入れへんし…」


 ちょっと待って…。

 とりあえず、ユリアさんが魔女で、え〜っと、おサルさんは…


「気軽にモン吉って呼んでや!

 ボクはユリアの使い魔。普通のサルがこんなペラペラ人間の言葉話せるわけ無いやん!

 まぁ、幻覚…ちゅうか、腹話術みたいなもんやと思ってや」


 何それ、めっちゃ怖い。


 モン吉さんはケタケタ笑うとお茶と一緒に出したミカンを剥いて食べ始めた。

「お菓子はサルには毒になることもあるし、ミカンだけもらうな」


 サルなのか、幻覚なのか、どっちなんだ…。

 チラッとユリアさんの方を向いても、彼女は俯いて恥ずかしそうにしてるだけで、何も説明してくれない。


「だから、ユリアはドイツ語しか話せへんねんて!

 魔法はいっぱしに使える癖に、英語もラテン語もダメダメやったから!あぁ、ゴメンゴメ

 ンって」


 恥ずかしがって、モン吉さんの口を塞ごうとしているけれど…。コレはやっぱり腹話術ではないのでは…?

 ……いや、深く考えないでおこう。


「とにかく、家に帰りたいねんけど、ここは日本の何処なん?」


 住所を言っても分からないだろうと思い、地図で説明した。

 すると、二人は顔を見合わせ首を捻る。

「コレ、どっちが北の方角?」


 えぇ…地図読めないの?!


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 その後、しばらく説明したけれど、結局上手く伝わらなかった…。


「まぁ、えぇわ!空飛んでたら、何となく分かるやろ!

 ほら、少し晴れそうやし…」


 そんなテキトーでいいんだ…と何だか、げっそりしていると、二人は悲鳴をあげて、すっ飛んできた。


「なぁ!太陽が…太陽が2つ出てるで!!」


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 真相から言ってしまうと、二人…というか、ユリアさんとモン吉さんは異世界人だった…。

 異世界人で、魔法使いだなんて、ファンタジーにもほどがある。


「まぁ、来れたんやから、帰るのもなんとかなるやろ!」

 やっぱり、楽観的なモン吉さん。

 ユリアさんの方はそうも行かないようで、何やらブツブツノートを捲ったりしている。

 でも、きっと良いコンビなのだろう。羨ましい。


「ほな、いつまでも居るのも、申し訳ないし、そろそろ行くわ。お茶とミカン、ごちそうさま」


「Danke schön. Schönen Tag!」

 ユリアさんはパチンと指を鳴らすと、少し振り向いて、優しく微笑んだ。…最後まで目を合わせてくれなかったなぁ。

「おおきに、良い一日を!」


 箒に乗った二人は、ぐーんっと飛び上がると、すぐに見えなくなった。

 しばらく、僕は体を揺らしながら、ぼんやり空を眺めていた。



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「あぁ、もう一時はどうなるかと思ったわ…」

 ユリアの背中でモン吉はため息をついた。

二つの太陽の下、箒は見渡す限りの雲海を風を切って飛んでいく。


「あれ、日本のオカルト界隈で有名な白い"ゆらゆら"やろ?

 見たら、気ぃおかしなるヤツやん…」


 ブルッと震えたユリアは頷いて、何か一言二言応える。


「うん…せやな、まぁ良いヤツではあったな」


 少しの沈黙のあと、モン吉はハッと気づいて、悲鳴をあげた。


「あ!異世界のモノ食べてしもた!」

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