金曜なんて大嫌い【アルコール×休日出勤×土砂降り】

 金曜日は嫌いだ。

 窓に映る自分の姿を見て、小さなため息をついた。周りに分からないように、そぉっと…。


 終電間際の下り列車。

 何だか金曜日は一際混んでいる気がする。


 プシュッという音に思わず振り向くと、車内で晩酌を始めるおじさん…。

 …え?この車内で飲むの?!


 寿司詰めではないにしろ、込み入った車内にも関わらず缶ビールをチビチビと、ついばみ始める。

 驚きと呆れと不快感で目眩がしそうになったところへ、スルメの咀嚼音がビートを刻む。

 たまらず、イヤホンを挿し、目を閉じた。


 学生時代好きだったバンドの曲が流れ出す。

 それが沸き立たせるだろう熱い血潮は、月曜から重ね着し続けた厚い疲労の下に眠る。

 金曜日は嫌いだ。


******************************


 ふと目を開けると、疲れた顔の自分がこちらをじっと見つめている。

 思わず目をそらすと、先ほどの晩酌おじさんが真っ赤な顔をして、ナメクジのように扉に貼り付いていた。もうスルメでビートを刻むのをやめ、鼻から不愉快な重低音を響かせる。


******************************

 降車駅に着くと、外はバケツをひっくり返したような雨だった。

 傘を買うべきか迷っていると、携帯が鳴る。

 明日も出社して欲しいとの依頼だった。


 雨は激しさを増している。

 私は熱いシャワーを浴びたくて、足を踏み出した。ホコリとともに、疲れも流れ落ちる気がして。深く深く息を吐く。


 金曜日は大嫌いだ。

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