第20話 ネスト先生

 比奈も美味しそうに朝食を食べている。


「なあカルボ、他の生存者の所でも朝食を作っているのか?」


 近くにいたカルボに俺が聞く。


「マスターの命令で、他の生存者の元にも何体か私が向かってます」


 カルボが答える。


 本当に忠実な奴だ。


 俺は朝食を済ませて、丈と一緒に外に出た。


「今から探索に行くのか?」


 丈が俺に聞く。


「今すぐに行きたい所だが、少しよって行きたい場所がある」


 俺はそう言って、転移用の魔法陣を用意する。


「子の魔法陣は、他の魔法陣との接続条件さえ満たしていれば、何処へでも行く事だ出来る魔法陣だ」


 俺はそう言って、丈と一緒に魔法陣の上に立つ。


 魔法を発動させるために時間が掛かる為、こうゆう魔法陣は便利なのだ。


 俺は魔法陣を発動して、目的の場所へ向かった。


 俺と丈が出かける事は、カルボに伝えてある。


 目的の場所に付く。


「何処だここ?」


 目の前にある大きな街を見て、丈が俺に聞く。


「ここには、とても腕利きの医者がいる」


 俺はそう答えて、町にある大きな病院へ向かった。


 受付の人に俺の名前と、先生の名前を出すと直ぐに案内された。


 目的の人は、今は忙しくて手が離せないらしく、しばらくここで待つように言われた。


 数分後、目的の人物が扉から部屋に入って来た。


「やあ連君、今日は何の用だい?」


 扉から入って来た人物が俺に話しかける。


「お久しぶりです、先生今日は治療用の薬を貰いに来ました」


 この人はネスト先生、昔分けあってお世話になった人だ。


「治療用の薬?誰か酷い怪我でもしたのかい?」


 俺は『楽園』の事には触れずに、落石事故で子供が怪我をしたと伝えた。


「片足が潰されて重症なんです」


「なるほど、それは大変だなこれをもって行きなさい」


 先生は、かなり貴重なハイポーションを渡してくれた。


「こ、こんなものを用意して下さっていいのですか?正直今の持ち金じゃとても払いきれません」


「いいんだよ、この分は付けにしておこう。君が将来出世した時に支払ってくれればいい」


 先生が笑いながら言う。


「ありがとうございます」


 俺はお礼をいって、薬を受け取った。


「ふふ、元気そうで何よりだ。学校にも友達が沢山いるんだろう?」


「そうですね、沢山友達がいます」


 先生の質問し俺が答える。


「それでは、急がなくてはいけないので」


 俺はそう言って立ち上がった。


「連君」


 先生が俺を引き留める。


「今度は来るときは、何か面白い話でも聞かせてくれ」


 先生が言う。


 俺は先生におじぎをして部屋を出た。


「連、病院を出た後話したいことがある」


 丈が俺に言う。


「分かった」


 俺はそう言って、病院の外へ出た。


 病院の外へ出た俺と丈は、俺の『空間』で学校の近くに向かった。


「それで、話したい事って何だ?」


 俺が丈に聞く。


「さっきお前が話していた先生、途中で少し気になる嘘を言ってたんだ」


「少し気になる嘘?」


 俺が丈に聞く。


「先生が言っていた、『学校には友達が沢山いるんだろう』って言葉が嘘なんだ」


 丈が頭を掻く。


「ま、まあ何の意味も無い嘘かもしれないけど」


 丈が少し自信なさげに言う。


 俺は少し考えた。


 先生には色々な事を話しているし、実際にナナや隼人やガエルを連れて来た事もあった。


 それなのに、あの言葉が嘘?


 確かに少し気にかかる。


 そして俺は少し嫌な予感がした。


 もう、この事を考えるのは止めよう。


「わかった、ありがとう。気に留めておくよ」


 俺はそう言って、足を潰された子供の元へ向かった。


「あ、貴方はあの時の」


 子供の母親が俺を見て言う。


「その節はどうもありがとうございました。そのうえこんな施しまで」


 女性が、建物の奥を指さして言う。


 奥ではカルボが働いている。


 他の人は出払っているようだ。


 丈が連れ出したようだ。


「いえいえ、当然の事をしただけです。それで、息子さんの容態はどうですか?」


 母親は息子を見て少し悲しい顔をする。


「貴方のおかげで、一命は取り止めました。ですが、この潰された足だけは動かす事が出来ないようです」


 眠っている息子を見て母親が言う。


 俺は子供に近づく。


「もう大丈夫だ、今直してやる」


 俺は眠っている子供にそう言って、貰ってきたハイポーションを潰れた足にかけた。


「それは・・・」


 母親が言う。


 ポーションをかけられた足は見る見る内に、きれいな形に戻っていく。


 さすがハイポーションだ。



「あ、ああ」


 母親が歓喜する。


 潰れていた足は元に戻った。


 母親は泣きながら息子を抱きしめる。


 いきなり抱きしめられた息子は、驚いて目を覚ました。


 そして自分の足を見て喜んでいる。


 起きた子供と息子は、俺の方を見て深々とお辞儀をする。


「本当に、本当にありがとうございました。この御恩をどうやってお返しすれば良いか」


「や、止めてください。お気持ちだけで十分です」


 俺は恥ずかしがりながら言った。


「それじゃあ、私は作業がありますので」


 俺は適当な嘘を言って、その場を去る。


「よかったな」


 丈が笑いながら言う。


「止めてくれ」


 俺は慣れない事をされて、頭が混乱していた。


「と、とにかく。俺達にはやる事が沢山あるんだ、急いで片付けるぞ」


 俺はそう言って、『楽園』の出口に向かった。

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