第14話 生徒会長

「うっ、うう」


 セルシウスが俺の腕の中で泣いている。


 無理もない、きっと目の前で沢山の人が死ぬところを見たんだろう。


 俺に会って緊張の糸が切れたようだ。


「もう大丈夫だ、安心しろ」


 俺はセルシウスに優しく語り掛けた。


「うっ、皆を助けようとしたけど、間に合わなくて」


「大丈夫、悪いのはお前じゃない。少なくてもお前のおかげで助かった人がいるんだろう?」


 さっき地下で確認した時、セルシウス以外に何人か他にも生き残りがいた。


 全員があの母さんの攻撃で死んだとは思えなかったし、あれくらいの攻撃なら耐えられた奴も何人かいたはずだ。


「それで、お前が助けた人は何処にいるんだ?」


「皆はいま鏡の中にいるよ、何人かケガをしていたけど」


 俺はセルシウスにと一緒に鏡の中に入った。


 セルシウスの『異能』は『鏡の世界』と『万華鏡』。


 セルシスは生まれながら、二つの『異能』を持っていた。


 『鏡の世界』は、鏡を通して生き物や物体を鏡の世界に送り込む能力だ。


 ただし、鏡に全体像が映っていないと出入りが出来ないので、使いどころに制限がある。


 もう一つの『万華鏡』は、鏡に映っている物の分身体を作り出す能力だ。


「皆ー、助けが来たよー!」


 鏡の世界は、本来の世界と向きがあべこべになっている。


 すると奥から人が出て来た。


「おー、本当だ。ありがとうございます」


 出て来たのは、二十歳くらいの若い男性だ。


「怪我人がいるんだろう?どこにいる?」


 目の前の男性に質問する。


「ああ、その人ならすぐそこの物陰にいます。傷が酷くて、魔力を込めて自己治癒力を高めるだけでは傷が塞がりきらないんです」


 一体どれほどの傷なのかは分からないが、重症なら急がないといけない。


 俺は走って男の人の付いて行った。


 そこには百人ぐらいの人と、少し離れた場所に人だかりがあった。


「くっそ、助けはまだ来ないのか!?」


「このままだとそんなに長く持たない!」


 人だかりの中で、何人かが治療に当たっているようだ。


「助けに来ました。怪我人を見せてください」


 俺は人だかりに向かって話しかけた。


「よかった、助けが来たのか」


「お願いします!私の息子を!」


 女の人が俺にすがってくる。


 どうやら、この男の子はこの人の息子のようだ。


 近くに旦那さんはいないようだ。


 目の前の男の子は左足を潰されて、胴体にも酷い打撲があるようだ。


 俺には他人を癒す能力は無い。


 が・・・


「わかりました」


 俺はそう一言言うと、『空間』から学校で回収した『再生』の『異能』が入った『核』を取り出し、男の子の体に取り込ませた。


 この男の子が『異能』を何個取り込んでいるかは知らないが、こうしないとどうせ直ぐに死ぬ。


 『核』は問題なく取り込まれた。


 『核』を取り込むと同時に、男の子の体はどんどん治り始めた。


 さすがに潰された足は完全には治らないだろうが、命に別状は無いだろう。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 母親が俺に感謝の言葉を言っている。


 正直恥ずかしいから止めてほしい。


「他に重傷者はいるか?」


 俺が周りに尋ねる。


 すると周りから、ちらほらと怪我人が出て来た。


 怪我人を見てみたが、さっきの男の子程の重傷者はおらず、今の所大丈夫そうだった。


「これから出口を作るので、皆さん慌てないで出て行ってください。怪我人を優先でお願いします!」


 俺はさっきやったように、鏡の破片を巨大化させて出口を作った。


 そこにいる人々に呼びかけ、外の世界に誘導する。


 そして、最後の一人が出ていくのを確認して出口を閉じた。


「よし、これで全員だな」


 俺が出て来た人たちに確認する。


 どうやら問題無く全員出て来たようだ。


「おっ、生き残り他にもいたのか?」


 丈が俺に聞いてくる。


「ああ、やっぱり見覚えの無い生存者はセルシウスの『異能』に保護されてた奴みたいだ」


 俺はその場にいる人の数を数える。


「一人足りない・・・」


 俺が呟く。


 魔具によれば確か生き残りは笹口と俺を除いて、116人だったはず。


 しかしここには、115人しか人が居なかった。


 ここにいないってことは、もしかするとどこか別の場所にいるのか?


 『楽園』の敷地の外に行っていたなら、襲撃の被害には合わなかったはずだが、『楽園』の敷地内にほとんどの娯楽も品物もあるから出かける必要が無い。


 それに本来なら襲撃の次の日に、開国記念日がる予定だったから生徒を含め、住居者全員が『楽園』の何処かにいたはずだ(そのせいで被害が大きくなった訳だが)。


 ここにいなかったのは、なんちゃって生徒会長だ。


 候補者が一人しかおらず、成り行きで生徒会長になった奴だ。


 でもあいつの『異能』なら。


「もしかして・・・」


 そのとき。


 大きな音と共に、離れた場所にあった大きな岩が飛び上がった。


「やっぱりか」


 俺があきれたように言った。


「糞ったれーーーーーーーーー!!」


 飛び出してきた奴は何かを叫んでいる。


 どうやらいままで岩の下敷きになっていたらしい。


「どんだけ頑丈なんだよ」


 俺はまた呆れたように言った。


 でも少し嬉しかった。


 飛び上がった奴が俺の前に降りて来る。


「よく生きてたな、プラナ」


「お前連か?今はどうゆう状況だ?」


 プラナが俺に聞く。


「まあ今まで岩の下敷きになってたなら知らねえよな。かいつまんで教えてやるよ」


 俺は今まで『楽園』や俺自身、そしてエリウス先生の事をプラナに話した。                                

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