第12話 生存者

 『楽園』に付いた俺達は、とても荒れた学校を目にした。


「こいつぁ酷い」


 丈が呟く。


 建物の壁は何か所か破壊され、窓もほとんど割れている。


 建物に近づくと、あちらこちらに血が飛び散っていた。


 三人は、思わず顔をしかめる。


 俺は血だまりの傍に近寄る。


「死体が無い」


 俺は血だまりの傍で呟いた。


「血は、この岩の下から流れているにも関わらず、死体の破片すらどこにも無い」


 丈と比奈が、俺の近くに来る。


 イルファは怖がっているようだ。


「本当だ、血は残っているのに死体の肉片が残ってない」


 岩の周りを見て比奈が言う。


「そうだな、連の住んでた町もそうだったが何か関係があるのか?」


 丈が呟く。


「分からない。でも、俺がここを出ていく前まではし死体がまだ残っていたはずだ、それなのに今は無いってことは、誰かが俺が出て行った後に死体を回収したってことだ」


 俺には心当たりがあった、ここを襲撃した時に何故か死体を回収していた俺の母だ。


 何が目的なのかは知らないが、母の『異能』ならこの量の死体を運ぶ事も可能だろう。


「俺は少しよる所がある、ここで別れよう。三人は向こうにある、転移用の魔法陣とここのゲートを確認してきてくれ」


 俺が三人に言う。


「待て、一人で行くのか?何がいるかもわからん、俺が一緒に行く」


 丈が提案する。


「俺に付いて来て大丈夫なのか?他の二人は」


「問題無いだろ、比奈だって一人で旅をしていた程の実力はあるんだ。イルファの事も守れるだろ?」


「いきなり何にゃ?私も事まだよく知らにゃいくせに。まあ、大丈夫だとは思うけどね」


 比奈が答える。


「それならこれを持って行け。通信用の魔具だ」


 俺は、手のひらサイズの丸い箱のような物を渡した。


「開くと直ぐに俺が持っている物に繋がる」


「おー、ありがとにゃ!」


 比奈が返事を返す。


 俺達はそこでいったん別れ、別々の場所を探索することにした。


「俺達はどこを探索するんだ?」


 丈が俺に聞いてくる。


「ここではない、『楽園』の別の領土だ」


 俺は丈を目的も場所へ送った。


「ここはどこだ?」


「ここは『楽園』の植物園だ。用があるのはその地下だ」


 俺は丈を連れて、目の前の大きな建物に入った。


「なんだこれは!?」


 丈が驚く。


 そこには大量のバラのような植物が植えてあった。


 そのほとんどが枯れている。


「これは俺が持っていた石と同じ物だ。『楽園』に住んでいる人や学校に通っている生徒は全員、血を提出してこの植物の種にその血を与えられる。そうすることで、『楽園』に住んでいる者の生存状態や健康状態を確かめているんだ」


 俺は枯れている花を指さした。


「あれが死んでいる人の花だ、死ぬとその花は枯れる。死にかけていたり病気になっていても花に変化がある。花の下に名前が書いてある」


「ここにはどれだけ花があるんだ?」


 丈が俺に聞く。


「『楽園』に住んでいる人全員の分の花がある。上にある植物園は観賞用の花を育てている」


 『楽園』に住んでいる人はとても多いため、いくつかの区間に分けておかれている。


 俺と丈は手分けして生き残りがいないか探した。


「おーい、こっちには枯れてない花は無いぞー」


 丈が俺に向かって叫ぶ。


「わかった、反対の方向も探してみてくれ!」


 丈が手を上げて答える。


 俺は、ここにある花の状態を管理している魔具の場所に向かった。


 襲撃の時に壊されていなければ、これで一気に調べる事が出来る。


「動いてくれよー」


 俺は魔具に語り掛けながら、魔具を起動した。


「報告 大量の植物が枯れています」


 魔具が起動した。


「よし、問題無く起動したな」


 その時。


「おーい!ここにまだ枯れていない花があるぞ!」


 丈が俺に向かって叫んだ。


「俺の名前じゃないだろうな?」


 丈の方に向かいながら丈に聞いた。


「ああ、知らない名前だ」


 丈が答える。


 名前の所にケルビと書いてある。


「よく知らない名前だな」


 俺が答える。


「こっちに来てくれ、ここにある花を管理している魔具が起動したんだ。こっちの方が早く生存者を見つけられる」


 俺は丈と一緒に、魔具がある場所に向かった。


「へー、これがその魔具か」


 丈が魔具を見て言う。


「こいつを使って、まだ枯れていない花を探せば誰が生きているのか直ぐにわかる」


 俺は魔具で、まだ枯れていない花を探した。


「あった、やっぱり生きてたか」


 魔具の画面を見て俺が笑う。


「誰だ?そいつ」


「俺の後輩だよ、やけに俺に懐いてたやつだ。名前はセルシウス、こいつ以外にも生き残りが何人かいるな」


 俺は他の生存者の名前も確認していった。


 途中で俺の魔具を操作する手が止まった。


「ササグチ ヒカル」


 そこには教頭の名前があった。


 教頭はエリウス先生と戦っていた、あれだけの力の差で生き残ったのか?


 俺は疑問に思いながらも、残りの生存者の名前を確認した。


 しかし・・・


「エリウス先生の名前が無い」


 俺は思わず呟いた。


「エリウス先生?お前が言ってた学校の理事長か?」


「ああそうだ、でもあの強さの先生が負けるなんて考えられない」


 俺は不吉な予感を感じながら、エリウス先生の名前を魔具で検索した。


「エリウス=ハイト 死亡」


 やはり、エリウス先生は死んでいた。


 一体何故?『異能』の副作用?それとも、エリウス先生より強い奴が後から加勢に来たのか?まさか教頭と母さんに負けたのか?


 様々な思考が俺の頭の中を巡っているなか、そんな俺を誰かが見ていた。

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