第10話 新たな出会い

「よお、お前あそこで何をしていたんだ?」


 男の方が俺に聞いてきた。


 薄い茶髪で、防護服を着ている。


(こいつらは誰だ?ここがどこかも分からない、それに体を鎖で縛られている、本当の事を答えるべきか?)


 そんな事を考えていると。


「言っておくが、嘘は考えた所で無駄だぞ。俺に嘘は通用しない」


 俺の顔を睨みながら男が言う。


「なるほど、じゃあ本当の事を言っても疑われる事は無いな」


 俺は、学校で起こった事を全て話した。


「それでどう、嘘はにゃい?」


 猫の獣人が男の方に聞く。


 黒髪で、赤い目をしている。


「ああ、嘘は言ってねえ」


 もう一人いた女が、小声で男に何か言っている。


 赤髪で、いかにも人見知りな雰囲気だ。


「ああ、確かに可哀そうかもしれないが、安全な奴かどうかは、また別の話だ」


 男が、何も無い空間からアサルトライフルを出し、俺に向ける。


「少しでも変な真似をしたら命の保証は無いと思え。ここを襲撃したのはお前か?正直に答えろ」


「違う」


「お前は、俺達を攻撃するつもりがあるか?」


「命の危機にならない限り、攻撃するつもりは無い。ただし、俺の命に係わる事になったら容赦するつもりは無い」


「嘘は言って無いな」


 そう言って、横の猫の獣人に合図を送る。


 すると、俺の体を縛っていた鎖がひとりでに動き出し、俺を開放した。


「俺を信用してくれたのか?」


 男に俺が聞く。


「とりあえず、お前が危険な奴じゃない事は分かったからな」


 三人は、俺が今いた部屋とは別の場所に俺を連れて行った。


 俺がいたのは、古い空き小屋だったらしく、三人は別の場所に寝泊まりしているらしい。


 歩いてすぐの所に、焚火が炊いてある場所があった。


「私達、あちこち冒険しながら生活してるから、今は家が無いんだにゃー」


 猫の獣人が言う。


 焚火を囲って倒木に座り、焚火で温まった。


 辺りは既に少し暗い。


「軽く自己紹介でもするか、俺は日乃本ヒノモト 丈タケル、歳は16だ」


「私は比奈ヒナ、苗字はないよ、歳は16歳!」


 苗字が無いのは、まだ忠誠を誓った者がいないからだろう。


 種族や文化によっては、自分が忠誠を誓った相手の苗字を名乗る。


「わっ私はイルファ、歳は16歳です!」


 少し恥ずかしそうに、赤髪の子が言う。


「いやー、この子は恥ずかしがり屋であんまり話さないんだ。だから、あんまり流調には話せないにゃー」


 比奈が、俺に教える。


「俺は池崎連だ、歳は16。よろしく」


 俺が最後に自己紹介を終える。


「所で、なんで語尾なんかに「にゃー」を付けてたんだ?」


 俺が、初めて見た時から気になっていたことを聞いた。


「特に意味はないよー、強いて言うならキャラ作りかにゃー?」


「なるほど」


 俺は思わず苦笑してしまう。


「もー、何も笑う事は無いって!」


 少し怒って比奈が言う。


「所で、お前は母親の事や襲撃された町の事は良いのか?さっきの話だと大変なんだろう?」


 丈が俺に聞いてくる。


「ああ、もういいんだ。あれはもう俺の母親でもないし、ただの見知らぬ魔人だ」


 俺が、少し寂しげに答える。


「君の他の家族は?お父さんとか、兄弟とか」


 比奈が俺に聞く。


「祖父祖母はもう居ないし、それに・・・」


 俺は首に下げていたペンダントを見せた。


「父も弟ももう居ない、このペンダントにはまっている石は、ライフストーンと言って、『楽園』で配られていたものなんだ。この石に魔力を込めると、その人が死ぬまでうっすらと発光し続ける」


 ペンダントの石は一つも光っていなかった。


「少し気になるのは、普通その人が死んだら石は砕けるんだけど、何故か母だけじゃなくて、弟の石まで光ってはいないけど壊れてもいないんだ。もしかしたら、弟も魔人になっているのかもしれない」


「でも、お前の狂っちまった母親が「息子を殺され者」って言ってただけなんだろ?もしかしたら、生きてるんじゃ無いのか?」


 丈が同情するように言ってきた。


「そうだといいけどな。でも、健(弟の名前)には悪いが生きているとは思ってない。父の遺体は後で埋葬しておくよ」


「そうか・・・」


 丈が答える。


「でも、私が町の偵察をした感じだと、死体は一つも無かったよ?」


 比奈が言う。


「それは本当か?」


 丈が比奈に聞く。


「うん、全部に家を見て回ったから間違い無いよ」


「死体を回収したのか」


 俺が小さく呟く。


「ちなみに、お前達はどういう経緯でここに来たんだ?」


「ああ、言ってなかったな」


「さっきも言ったけど、俺達はあちこち冒険しながら生活してたんだが、初めから三人だった訳じゃ無いんだ。俺も比奈も孤児院出身で、15歳で孤児院を出てからは一人で冒険しながら冒険者として生計を立ててたんだ」


「それでしばらく冒険して、地球に行った時に岩山の辺りに、小さな村があったからそこで生活しようと思ったら、同じ経緯でそこに来た丈が表れて、そこで私達が出会ったの」


「俺も比奈も、冒険の経験が無くてボロボロだった上に、金もそんなに無かったから、空き家が多いから、掃除すれば無料で住んでいいって言われた時は感動したなー」


「まあ、私達は初対面だったからかかわることは無かったけど、村に住み始めて一週間くらいしたころに、大規模な暴動が地球で起こって私達がいた村も被害に遭ったんだよ」


「その時に一緒に逃げてたら、少し前に万引きで捕まってたイルファに会ったんだ。まあ実際には、やってないのに恥ずかしがって何も言えなくて捕まってたんだけどな」


「その後は、別の村にあった『ゲート』(空間と空間を繋ぐ扉)をくぐって、よくわからない魔物だらけの山に行って、そこからは『ゲート』を使わないで『出口』(コロニーの出口の事)から出て、もうやけくそで逃げようとしたら、空間の歪みに巻き込まれてここに来たの」


 なんだか、地球も大変なことになっているようだ、俺は二人の話を熱心に聞いていた。

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