第9話 呪われし者

 エリウス先生の下に向かった俺は、予想もしていなかった光景を目にした。


「くっ!」


「邪魔をするなー!!!」


 エリウス先生がおされていた、母は『異能』を使っていたが、エリウス先生は『異能』を使わず、素手で戦っていた。


「エリウス先生!」


 俺は、『空間』で母を移動させながらエリウス先生に叫んだ。


「連君」


 エリウス先生が、俺のそばに近づく。


「ガエル君は?」


「殺されました、後から来た別の襲撃者に」


「そう」


 エリウス先生が下を向いて悲しそうな顔をする。


「でも、その襲撃者達はもう倒しましたしました。ところで、エリウス先生はどうして『異能』を使わなかったんですか?もしかして、俺の母だから手を抜いていたんですか?」


 エリウス先生が少し困った顔をする。


「私の『異能』は訳ありなの、この『異能』を使えば周りを巻き込むことになるわ。私はここを破壊したくないの」


「っなら、ガエルの『異能』で俺とエリウス先生と母を移動させます!それなら」


「駄目よ、いい案かもしれないけど、連のお母さん以外にも魔人の襲撃者がいる可能性がある。ここにを守る事ができない」


 俺の話をエリウス先生が遮った。


「で、ですが!」


「あなたは一度『異能』で逃げなさい、そうすれば被害が最小限ですむ」


 話している間に母が校門の方から戻って来た。


 『空間』での移動は、強制だとあまり遠くには移動させることができない。


 そして、校舎の中から別の襲撃者達がでてきた。


 その中に見覚えのある姿があった。


「おやー、だいぶ苦戦しているようですね、理事長」


 教頭だ。


「教頭・・・それは・・・」


 エリウス先生が、教頭の手の中にある透明の容器を見て固まる。


「ああ、これですか。これは貴方が必死になって守ろうとしていた物です。」


 教頭が手に持った箱を見せつける。


 中には、『楽園』のエネルギー源である『核』が入っていた。


「連君、今すぐ飼育小屋の所に行きなさい。そして隙を見計らって『空間』で楽園の外に逃げなさい。後の事は私に任せて」


 俺はためらったが、俺がここにいてはエリウス先生が『異能』を使えないと思い、飼育小屋に向かった。


「ふん、足手まといを逃がしたか。まあいい」


 教頭が校門を見る。


「ここはこの女に任せて、退散するとしよう。お前らはあの女をサポートしろ!」


 教頭は、他の襲撃者に命令をして立ち去ろうとする。


 俺は飼育小屋で、まだ生きた生き物が入ったゲージを二つ見つけた。


 影になっていて中までは見えない。


 その時・・・


「待ちなさい、逃がすと思った?」


 エリウス先生の気配が変わった。


 そして、同時に空気中の魔力が減り、俺の魔力も減った。


「ぐっ、これは・・・」


 教頭がうなる。


 周りにいた襲撃者の半数が倒れ、他の襲撃者も立っているのがやっとの様だ。


「貴様ー!」


 刀を取り出した教頭が飛び掛かる。


 しかし、エリウス先生に刀が触れる前に教頭が俺の近くの壁に吹っ飛んだ。


 エリウス先生が攻撃したようだが、全く見えなかった。


「ごばぁ」


 教頭が血反吐を吐く。


「さ、ササグチ様ー」


 襲撃者がか細く呟いて力尽きた。


 死体は干からびている、どうやら全ての魔力と生命エネルギーを失ったようだ。


 俺もかなりヤバい。


 殴られた武田の、破れた服の右腕の部分に黒い入れ墨のような物が見えた。


「こ、これはー?」


 武田が呟く。


「私の『異能』だよ、その入れ墨は『肉体変化』でも皮膚移植消えないし、腕を切り落としても必ず体のどこかに現れる。私の『異能』は『呪い』、周囲の生物から常に魔力や生命エネルギーを吸い取り、効果の範囲が広い上に敵味方関係なく呪ってしまう。その入れ墨が付くと、何処にいても呪われる」


 エリウス先生が、手を上に突き出す。


「今は、完全に封印が解けていないから大したことはないけど、封印が解ければその程度ではすまない」


「邪魔だー!」 


 母が叫びながら、エリウス先生を攻撃する。


「くらえ!」


 その隙を見て、教頭が俺の方に爆弾を投げた。


「連!」


 エリウス先生が叫ぶ。


 爆弾が爆発し、俺はとっさにゲージを掴んで『空間』で逃げた。




「やってくれたわね、でも、これで心置きなく『異能』を使えるわ」


「っち!」


「『神隠しの呪い』」


 その場から、エリウス先生と母を含める襲撃者の姿が消えた。


 そして、そしてその約一秒後、『楽園』も姿を消した。




「うう、い痛い」(一体どうなったんだ?皆はどこだ?ここは一体・・・?)


 爆発に巻き込まれた俺はしばらくの間、記憶の一部が何故か消えていた。


 魔力が尽き、爆発で負傷したせいでここから動くこともできない。


 力を振り絞って、顔を上げるとそこは俺の家だった。


 しかし、家には誰もおらず、外には火が付いている家もあった。


「一体何が・・・」


 近くから誰かが近づく気配を感じた。


「まずい、早く、逃げない、と・・・」


 俺の意識はそこで途絶えた。


「ん、うぅ」


 俺は目を覚ますと、自分の体が全く動かないことに気が付いた。


「目が覚めたかにゃー?」


 声がする方向を見ると、女の猫の獣人が立っていた。


「捕まったのか・・・?」


 猫の獣人に話しかける。


「そうだにゃー、倒れていた君を私が見つけてここに連れて来たんだにゃ」


 猫の獣人が俺に答える。


「おーい、起きたよー」


 別の部屋に向かって、猫の獣人が呼びかける。


 すると、奥の部屋から人間らしい女が一人と、同じく人間らしい男が一人出て来た。

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