第6話 絶望
「き、貴様ぁ」
胸を貫かれた武田は、血反吐を吐きながら後ろに立つ誰かに話しかける。
「この程度で死ぬと思ったか?」
そう言うと、武田は自ら胸に刺さった腕を引き抜いた。
「人間の肉体なら致命傷だったかもしれないが、この肉体にとっては致命傷というほどでは無い。それに俺の『異能』で直ぐに治る」
武田の胸に開いた、穴がみるみる塞がっていく。
いつもの、敬語を使った話し方ではなく、まるで不良のような話し方で武田は話す。
「隠れていないで出て来い、何者だ!」
空間に開いた裂け目に向かって武田が言う。
すると、裂け目の向こうから黒い髪が腰のあたりまである女が出てきた。
人間とは思えないその気迫は、どう見ても魔人だった。
「私を、覚えていないのか?」
魔人の女が武田に尋ねる。
「誰だ?俺はお前みたいな奴、知らねえな」
「お前に息子を殺された者だよ!!!」
魔人の女が叫ぶ。
「もしかして、あの学者さんか?ハハ、何だその見た目?イメチェンか?」
武田が笑いながら返事をする。
「コロス!」
そう言った女は、武田に近づき武田の顔を殴った。
武田の顔は潰れ、遠くに吹っ飛んだ。
そう思ったら、吹っ飛んだはずの武田の体が再び女の前に現れた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
魔人の女は武田を地面に叩きつけ、憎悪が籠った声を上げながら、武田を殴り続けた。
さすがに、天使の肉体とは言えどあの猛攻には耐えきれないのだろう、どんどん体の修復が遅くなっている。
一体校長の肉体に何が起こっているのか、一体何が起こっているのか理解できないエリウス先生とガエルは、唖然としていた。
しかし俺は、魔人の女の顔を見て不吉な予感を感じていた。
「母さん」
小さく呟いた俺の声に反応したのは、エリウス先生だった。
「今何て?もしかしてあの魔人の女は恵さんなの?」
母の顔を知っている、エリウス先生は魔人の女の顔をよくみた。
「ええ、多分ですがそうです」
母の顔を見ながら俺は答えた。
「武田の生命力的に、おそらく武田も魔人でしょうが、力の差がありすぎます。すぐにやられるでしょう。早く隠れなさい!このままだと次はあなた達が攻撃されるわよ!」
そう言われ、俺達は学校に隠れた。
その直後、武田を殴る音が止んだ。
どうやら、武田が力尽きたようだ。
その時、何処か別の場所から小学生くらいの子供が出て来た。
どうやら、襲撃者から逃げて来たようだ。
襲撃者は人間だったので、子供を助けに来たナナに気絶させられた。
しかし、それに気が付いた母が武田の死体を掴んで子供目掛けて投げつけた。
「危ない!」
それを見たエリウス先生が、子供とナナに向かって叫ぶ。
それに気づいたナナが、『電気』で加速して子供を助けた。
母は、上空に手を向けた。
すると、上空に無数の裂け目が出現し、そこから大量の岩や乗り物が降って来た。
「キャーーーーー!!」
あちこちから、悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえる。
俺とガエルは、エリウス先生に守ってもらい助かったが、無数に降り注いだ岩や乗り物の雨で、学校から生き物の気配が消えた。
「そんな・・・」
エリウス先生が絶望したような表情を浮かべる。
母は、俺達を見失ったらしく、ナナがいた方向に歩いて行った。
母は、死体を掴んでは裂け目の中に入れて何処かに移動させていた。
「許してくださいね?」
エリウス先生は俺にそう言うと、母の方に向かって行った。
母もそれに気づいたらしく、エリウス先生の方に近づいて来た。
「何がやりたいんですか?」
エリウス先生が母に問う。
「誰だ、お前?」
母が拳を握りしめた。
「私の邪魔をするなーー!」
そう言って母は、エリウス先生を攻撃した。
「覚えていないんですか・・・」
エリウス先生は母の攻撃を受け止めながら呟く。
「学校の裏から逃げるぞ」
ガエルはそう言って、裏口に向い、俺もそれに続いた。
『異能』を使わなかったのは、生き残りを探すためだろう。
「っ、おい」
ガエルは、車に下半身を潰された人を指さした。
隼人だった。
俺は無言で隼人の遺体に近づく。
「何をしている?」
隼人の死体に近づく俺に、ガエルが言った。
「隼人の『核』を回収する」
そう言って俺は隼人の『核』を回収した。
ドサッ
後ろから何かが倒れる音がした。
「どうした?」
後ろを振り向くと、そこには何人もの魔人と倒れたガエルが居た。
「っな!」
先頭に立つ魔人が剣を振りかぶった瞬間、ガエルが『異能』で俺とガエルを移動させた。
俺は見覚えのある川の近くに移動させられた。
ガエルが俺の腕を掴む。
「おい、お前今何個『異能』取り込んでる?」
ガエルが俺に質問してきた。
「何だ?いきなり」
「いいから答えろ」
「ゼロだよ、初めから持ってる1個だけだ」
「なら、お前は俺と隼人の『核』を取り込んであいつらと戦え」
「な、何を言っているんだ?」
うつ伏せに倒れていたガエルが、あおむけになった。
ガエルの心臓近くには拳ほどの穴が開いていた。
「見ろこの傷、もう俺は死ぬ。だから俺が死んだら俺の『核』を取り込め。『異能』は例外無く、3個までは取り込める。それ以上取り込んだら死ぬが、3個までは死ぬことは無い」
ふり絞るようにガエルが言う。
「そんなことは知っているよ、だがお前と隼人の『異能』を取り込んだところで、俺が勝てると思うか?」
「出来るさ、お前が本気を出せばな。ハア、ハア、任せた、ぞ」
ガエルの呼吸が止まる。
「おい!」
ガエルは力尽きた。
「ちっ、後味の悪いことしやがって」
ガエルの死体を見ながら、俺は言った。
ここは、俺らがいつも遊んでいた川だ、ガエルの『異能』が無ければ戻ることは出来ないだろう。
俺は、ガエルから『核』を回収し、隼人の『核』と一緒に自分の胸に当てて取り込んだ。
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