第3話 実験

「ただいまー」


 家に帰った俺は、誰が居ろうが居るまいが家の玄関で挨拶をする。


 それが俺の家に帰って始めにすることだ。


「お帰りー。テストはどうだった?」


 いつも通り作業場から父の返事が返ってきた。


 父は腕利きの鍛冶屋で、いつも作業場で刀を打っている。


「学校でエリウス先生に教えてもらったから、少し自信はあるよ」


「そうかそうか、それは良かった。ところで今日は帰るのが早かったが、先生のエリウス先生の手伝いはどうした?」


「今日は、テストがあって疲れただろうから早めに帰りなさいって言われて、帰って来たんだ」


「そうか、相変わらずエリウス先生は優しいな。その分、今度たくさん手伝いをしてくるんだぞ?」


「うん、わっかた。明日も少し早く学校に行って手伝ってくるよ」


 父は昔俺と同じく『楽園』に通っていて、そこで鍛冶の技術を学んだんだと言う。


 エリウス先生は分からないことや、困ったことがあると相談に乗ってくれる。


 だからその分俺は、エリウス先生の作業を手伝っているのだ。


「今日は何か手伝う事ある?」


「ハハ、また小遣いか?そうだな、打ち終わった刀をガントの所に持って行ってくれ。小遣いは帰って来たらやるよ」


「わかった、行ってくる」


 ガントさんは、フルネームをガント=オリバスという。


 住民のほとんどが鍛冶屋の、鍛冶の町オリバスの王で、星ではなくコロニーの中に町がある。


 町の規模はあまり大きくなく、襲撃を避ける為にひっそりと暮らしている。


 『ランク7』の王で『鍛冶王』とも呼ばれている。


 ちなみに、俺の家も鍛冶の町にある。


 ガントさんの『異能』は不明。


 俺は打ち終えた刀を持ってガントさんの家に向かった。


 あんな事になっているとは知らずに・・・。




 連が『楽園』に行っているころ、母恵は・・・。


「すごい!こんなに綺麗な状態で『光の世界』の生き物の肉体が見つかるなんて!これは天使の遺体ね?」


 新しく見つかった『光の世界』の人型の資料の観察をしていた。


「はい!古いコロニーの遺跡を調査していた発掘隊が見つけたんです!しかもまだ『核』が残っている状態で!」


 恵は目の前の」肉体に触れる。


「本当だわ!まだ『核』が残っている!これなら『あれ』が試せるかもしれない!」


 『あれ』とは恵の『異能』の事である。


 恵の『異能』は、『裂け目』といい、物体や空間に切れ目を出現させる能力だ。


 切れ目が完全に離れるとその部分は切断されるが、能力を発動したまま、切断面どうしをくっつけて能力を解除すると、切断面は綺麗に接合される。


 また、空間に穴を空けて別の空間と繋げることも出来る。


「はい、これで今まで試す事が出来なかった『光の世界』の『核』の能力を試す事が出来ます」


 『光の世界』の生物に『核』は、『ランク』が高すぎて取り込んでも制御しきれないのだ。


 だから、今まで一般人でも『光の世界』や『闇の世界』の『核』が使えるようになる研究が行われてきた。


 しかし、『核』使う事はできても、きちんと制御することは出来なかった。


 それで、恵達の研究グループは『核』を取り込み操作するのではなく、肉体を操作する方法を思いついた。


 恵の『異能』で、『光の世界』や『闇の世界』の肉体に別の肉体を融合させ、『核』を使うという方法ならば、肉体が『核』に馴染んでいるため『核』をきちんと制御出来ると考えたのだ。


 しかし、実験が実証されなければこの方法を一般化するのは難しかった。


 とは言っても、ただでさえ希少な『光の世界』や『闇の世界』の『核』や肉体をどちらも揃った状態で購入するには、資金が少なすぎた。


 なので、自分達で見つけるしかなく、そしてようやく見つかったのがこの資料なのだ。


「それで、どう?準備は良い?」


 恵は後ろに立つ男に話しかける。


「準備も覚悟もできています、いつでも大丈夫です!」


 この男は、『光の世界』の肉体に入る被験者だ。


 『肉体操作』という、自分の肉体の変形、操作する『異能』を持っている。


 特別珍しい『異能』ではないが、実験の被験者を募ったところ、候補者の中で一番この実験の被験者に向いている『異能』を持っていたので決定した。


 一同は今地球にいるため、あまり問題にならないように、恵の『異能』で岩山に移動した。


 その時、健も一緒に移動した。


「さあ、ここなら暴発しても問題無いわ!実験を始めましょう!」


 恵と男が肉体に近づいた。


「それじゃあいくわよ?暴走しそうになったら合図しなさいよ?」


「わかりました、肝に命じます」


 恵が頷き、肉体にゲートを出現させる。


 男がゲートに入り恵がゲートを閉じる。


 男が肉体に入って数秒が経つ。


 肉体が動きだした。


「「・・・・・・」」


 その場の全員が固唾をのんでそれを見る。


「ど、どう?問題は無い?」


 天使の肉体に恵が問いかける。


「ええ、特に問題はありません。実験の第一段階は成功みたいですね」


 本人を含むその場の全員が喜ぶ。


「そ、それじゃあ次に体を動かして『異能』を発動してみて」


「わかりました」


 天使の肉体が動き、『異能』を使った。


 すると、地面から大きな岩の槍が出て来た。


「成功ですね、問題無く『核』を使えます。とうやらこの天使『異能』は『岩』のようですね」


 恵が固まる。


「どうかしましたか?何で喜ばないんです?念願の実験成功ですよ?」


 恵が膝をつく。


「ねえ、皆さん?あ、返事を返すのは無理か」


 槍が刺さった場所に向かって、天使の肉体が笑いながら言った。


「もう、死んでるんだから」

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