第3話
アリストフは僕より2つ年下だった。
だけどそんなの気にならないくらい意気投合した。
僕はアリストフより少し後にここに来た。僕と同じように、お金が無いから両親にここに連れられてきたんだって。
何もわからない僕にアリストフは色々教えてくれた。ここのルールとか、ここで何をするのか、とか。
ここにいる子達はみんな無口で虚ろな表情をしている。話しかけても生返事ばかりで、楽しくなかった。
そんな中アリストフは違った。よく喋りよく笑った。たまに喋り声がうるさいとロマンに殴られることもあった。
アリストフはここに来るまでにいた田舎の話をよくしてくれた。毎日兄と蛙を捕まえたり、魚を釣ったりしていたんだそうだ。どういう細工をしたらよく釣れるとか、たくさん物事を知っていた。
僕は、すっかりアリストフに夢中になっていた。
「お前たち、仲良いよな」
食事中、最年長のリュカがからかってきた。
仲がいいことの何が悪い。
「お前、アリストフの事が好きなのか?おえっ、気持ち悪っ」
吐くような素振りをしてリュカが笑った。
好き……僕が、アリストフを?
「リュカ、好きって言うのは男は女を、女は男をだろ?でも僕とアリストフは男だ。おかしくないか?」
「そうだよおかしいよ。ここに来るじじいどもと同じだよ!変態っていうんだ」
「なら僕とアリストフは違う!」
「なんだよ、怒ることないだろ。冗談だよ」
アリストフが心配そうに僕を見る。
そうだ。僕は客のような『変態』なんかじゃない!
でも、どうしてアリストフと目が合うと熱くなるんだろう。
夜、普段なら朝まで起きないのになんだかトイレに行きたくなって目が覚めた。
真っ暗な状況に目が慣れてきたら、そろそろと部屋を出た。
「シャルナン」
急に後ろから声をかけられ、大きな声が出そうになった。
騒いだらまたロマンに殴られてしまう。
「なんだ、アリストフか。びっくりさせないでよ」
「ごめん。トイレ?俺もいい?」
「う、うん」
アリストフと隣合って用を足すことになぜ
かとても恥ずかしく感じた。
「シャルナン、少し話していかないか?」
「い、いいよ」
アリストフにじっと見つめられて顔が赤くなるのがわかった。
真っ暗でほんとによかった。
昔故郷で眩しいほどに感じたお月様の光は、ここには届かない。
たまに思い出すと涙が出そうになる。
「ねぇアリストフ」
涙をごまかそうと、何か話さなければと思いアリストフに話しかけた。
しかし咄嗟だったので何も話題が思い浮かばない。
自分から話しかけたのに黙り込んでしまった僕をアリストフは不思議そうに見つめる。
「なぁに?シャルナン」
「えっと……あっ、アリストフはここを出たら何がしたい?」
「そうだな…俺は学校に行きたい!だって皆楽しそうじゃないか!シャルナンは?」
すごく楽しそうに、学校に行っている自分を思い浮かべているのか、アリストフはとてもキラキラした笑顔で答えた。
真っ暗な中でも、アリストフの瞳は輝いていた。
故郷の月の光みたいだ。
あぁ、僕はアリストフのことが好きなんだ。
アリストフと、ずっと一緒にいたいと思った。
「僕は…………結婚したいかな」
「結婚?!まだ早くないか?」
「確かに早いけど、僕は結婚がしたい」
ずっと一緒にいるためには、結婚がしたい。
アリストフと…。
「てことは、好きな人がいるんだな?」
アリストフはニヤリと笑った。
「好きな人…そうだね…」
アリストフ、僕は君のことが…。
急に恥ずかしくなりアリストフから目を逸らした。
「さ、戻らないとロマンにバレる」
「…そうだな」
なんだか不貞腐れた表情のアリストフの手を握って、僕たちは真っ暗な部屋に戻った。
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