第2話

 基本的には90分とやらで客は帰っていく。

 90分がどのくらいか僕たちにはわからないけど。


 客をとった後もシャワーが許される。

 別に泥がついたり汚れたわけじゃないんだけど、なぜか体をゴシゴシ洗いたくなるんだ。

 さっき使ったバスタオルで体に残った水分を、これもまたゴシゴシ拭く。


「はぁ…」


 なんの意味もないため息だけどつきたくなるんだ。


 部屋に戻ったらアリストフがいなかった。


「アリストフは?」


「シャルナンが出てった後に客が来て地上に行ったよ」


 その瞬間、地上からモノが落ちる音や割れる音が聞こえてきた。

 僕たちは驚いて上を見上げる。

 入ったばかりの子や、歳が小さい子達は抱き合って怯えている。

 ロマンの怒鳴る声が聞こえる。

 なんだ、何が起こっているんだ?


「僕、ちょっと見てくるよ」


「許可なく地上に行ったら怒られるよ!」


「大丈夫、階段の途中で様子を見るだけだから!」


 僕は物音を立てないように地下室を出て、ゆっくり階段を上がった。

 ロマンの怒鳴り声が少しずつはっきり聞こえてくる。


「どうしてくれるんだ!」


 部屋からロマンと客と思われる上半身裸の男が転がり出てきた。

 ロマンは客に馬乗りになっている。


「これじゃもう使い物にならないじゃねぇか!」


「ごっ、ごめんなさい!まさかこんな風になると思わなかったんだ!!」


 なんだ?なんの話だ?


「まぁいい。もちろん、『弁償』してくれるんだよな?」


「も、もちろんだ!いくらだ?そ、そ、そんなに?おかしいだろ!たかが乞食のガキにそんなっ…」


「なんだって?」


 鈍い音が聞こえる。恐らくロマンが客を殴った音だ。

 弁償?使い物にならない?

 頭の悪い僕には全く話がわからない。最年長で賢いリュカを連れてくればよかった。


 しばらくすると、服を着た客がそそくさと外に出ていった。

 そしてロマンが何かを引きずりながら部屋から出てきた。

 なんだ?何を……………。





 ロマンは全裸のアリストフの両腕を掴んで部屋から引きずり出していた。


「アリストフ!!!」


 思わず叫んで立ち上がってしまった。


「おい!誰が出てきていいと言った」


 ロマンがアリストフから手を離して歩み寄ってきた。

 ばちんと平手打ち1発。

 痛みよりもアリストフのことが気になって仕方ない。


「シャルナンか。アリストフと仲が良かったな」


「アリストフは、どうしたんですか?」


「死んだ。さっきの馬鹿野郎が無茶苦茶しやがったからな」


「え、死んだ……?」


 死んだ?

 アリストフを見ると、ぐったりと力なく倒れている。ロマンに引っ張られている時も、今も、ぴくりともしない。

 死んでしまったんだ。

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