少年たちの夢

おか

第1話

「ねぇアリストフ」


「なぁに?シャルナン」


「アリストフはここを出たら何がしたい?」


「そうだな…俺は学校に行きたい!だって皆楽しそうじゃないか!シャルナンは?」


「僕は…結婚…したいかな」


「結婚?!まだ早くないか?」


「確かに早いけど…僕は結婚がしたい」


「てことは、好きな人がいるんだな?」


「好きな人…そうだね…」




 恥ずかしくなって笑って誤魔化した。

 アリストフは悲しそうな顔をしているように見えた。










「おい、シャルナン。仕事だ」


 ロマンの太く響く声が聞こえるといつも体が震える。

 僕だけじゃない、皆そうだ。

 皆の視線が僕に集まる。

 僕に仕事が回ってきたからだ。


「すぐに来るからとっとと準備してろよ」


 ロマンはごわごわのタオルを僕に投げ、こっちを見ないで去っていった。


「はい………」



 




 僕は体を売って暮らしている。




 ここには10歳から16歳くらいまでの男の子が15人で暮らしている。

 皆僕と同じように紛争で両親を亡くしてしまったり、生活が苦しくて売られてきたりした子達だ。

 与えられた部屋は地下室の3部屋。窓も何もない暗い部屋に自然と年齢が近い子達で集まって寝起きしている。

 もちろんベッドもない。与えられた薄い毛布にくるまって、寒い日は皆で身を寄せあって眠る。

 決していい環境ではないが、雨風がしのげるので大分ましだ。

 食事もロマンが3食用意してくれる。豪華ではないが食事にありつけられるのだ。

 外で物乞いをしているよりもいい。


 ロマンはここのボスだ。身体が大きくて声も低く、力持ちだ。そのため逃げようなんてしたら……今まで逃げようとした子はもちろんいたが、ロマンにたくさん殴られて、それを見て皆逃げる気を無くしてしまった。

 最悪なことにアザだらけの身体を好む変態もいるみたいだけどね。


 ロマンはどこかからか客を呼んできて、上の部屋で僕達に客の相手をさせる。

 こうやって僕達がいる地下に降りてきて、名前を呼ばれたらおしまいだ。



 僕は、今から体を売ってくるんだ。


「シャルナン、行ってらっしゃい」


 立ち上がった僕の手をぎゅっと握って、アリストフが不安そうな目で僕を送り出してくれた。



 仕事がない日はシャワーを浴びることができない。本当ならゆっくり体を洗いたいところだけど、僕にはそんな時間はない。


 シャワーを出たらそのまま階段を上がって地上の部屋に出る。みんながいる部屋に寄ることもなく。






「こっちの部屋だ」


 ロマンが何個かある部屋の一室を指す。

 客はもう来ているようだ。



「シャルナン、久しぶりだね。元気だったか?」


 地下室で暮らす僕より肌が白い、でっぷり太った口ひげを蓄えたおじさんが部屋にいた。

 あー、何度か来たことはあるけど、名前はなんだったかなぁ…。

 覚えていないことを悟られないように僕は笑顔を作る。


「うん、元気だよ!また会えて嬉しい」


 上目遣いで嬉しそうに言うと喜ぶんだよ。

 なんで喜ぶのか僕にはわからない。

 皆に聞いてもわからないって言う。

 まぁ、考えても無駄かな。

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