漫才 漫才の追求

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

A「はいどうもこんにちは、〇〇でーす! 仲良く漫才していこうと思います。今日は名前だけでも覚えて帰ってくださいね」

B「お前はアホか」

A「いや、どんだけ台詞飛ばしてんの? 東武東上線の急行か」

B「お前は名前を覚えてもらうために漫才やってんのか」

A「いや、そこは重要でしょ。俺たちまだまだ無名だし」

B「そんなに名前覚えてほしいなら椅子に風船くくりつけて大空の彼方へ飛び立てよ!」

A「それは風船おじさんだろ。未だに行方不明の。30年前の事件だし、そんな方法で覚えてほしくないわ」

B「お前、固定観念に囚われすぎじゃないか。俺が、今から漫才の心得を教えてやるよ」

A「今やんの? おそすぎない? それ、本番前に教えてくれる?」

B「そこがお前の古いところなんだよ。本番中に漫才の練習始めんのが最先端なんだよ」

A「先端すぎて、崖から落下しとるわ」

B「まあ、お前は第7世代じゃないからな」

A「お前も違うだろう」

B「いや、俺は第7世代。お前と違って」

A「片方が第7世代で、片方がそうじゃないコンビってあるか? ハーフ・アンド・ハーフのピザか」

B「そこも斬新なんだよな」

A「なんでも新しいで片付けるなよ。いや、本当、お客さん、すいませんね、こんなややこしい相方で」

B「お前、客を味方にするのは卑怯だぞ。第7世代として、それだけは許せない」

A「なんでお前がさっきから第7世代を代弁してんだよ。いつから広報になった」

B「まず、客の方を向いて漫才するのが古臭いんだよ。だから、(客席に背を向けながら)俺はこっちを向く」

A「ざ、斬新だー、(間)ってなるか。あのなピカソだって基礎が完成してから奇抜な絵を書き始めたんだぞ。俺らみたいに、基礎ができてないのに、こんなことやってもおかしいだろ」

B「お前、それ、昔島田紳助が言ってたことじゃないか。人の意見ばかり気にしやがって。だからお前はつまんないんだよ」

A「漫才ならまず笑わせないとダメだろ!」

B「お前まだそんな段階なのかよ。何周遅れてんだよ。俺は笑わせるために漫才をしてるんじゃない。漫才道という道を極めようとしている求道者なんだよ」

A「(前を指差して)こっち向いて喋れや! そんな重要なことなら」

B「お前がこっち向けばいいだろ」

Aも客に背を向ける

B「(間)なあ、俺らみたいなブサイクがこんな格好つけたことしても様にならんだろ」

A「おい、雑な自虐はやめろよ! それに後ろ向いてたら顔が見えねえじゃねえか」

B「(前を振り返って)若手がこんな奇をてらったことをやってもおかしいですよね? そうですよね、お客さん?」

A「全部お前が言い始めたことじゃないかよ! ここまできて前言を撤回するな」

B「(間)A。お前と漫才やるの息苦しいよ。強要するなよM-1制覇なんてさ。俺は楽しくやりたいだけなんだから」

A「ここまで来たら俺はもう意地でも戻らねえ。コンビ解散だよ」

B「本番中に解散するって一番斬新だな」

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