EP9「ネビュラの逆襲」

 大鎌の形をしたアストラを振るうネビュラのメンバー、ワンダーラストとの戦いの最中。遊星の胸には後悔の念がよぎっていた。


「さあさあ、もっと……踊れ、踊れ!」


「くっ、はあ、はあ……こいつ……」


「動きが……早すぎる!」


 流星と二人がかりで挑んでいるのに。

 近付くことすらできないなんて。


「ふはははっ! 元ラバーズの風斗遊星、それに流星も。お前達の方から会いにきてくれるなんて、嬉しいよ。ウチらネビュラは、リーダーをやったお前達ゾディアックを決して許しはしない。ここで死んでもらうよ……!」


 またあの攻撃がくる。空気が鋭い刃になって襲いかかってくる。


「うわっ……!」


「さっきから逃げ回ってばっかりじゃあないか。我がアストラ《アプス》のあまりの速さに、避けるのが精一杯って所か?」


「はあ……はあ……いくらボク達の能力が攻撃の回避に特化してても……攻撃自体が目に見えないんじゃ、正直きびしーよ」


 アストラの副作用のせいで腕も痺れてきている。ボクの能力は触れた対象にも透過の力を付与する。このままじゃあ流星と一緒に壁をすり抜けることもできない。


「ふう……この空気を裂く様な鋭い攻撃……厄介すぎる」


「ほら、もういっちょ、踊れ、踊れ! 風はお前達と踊りたがっているぞ!」


 見えない風の刃がやってくる。流星とタイミングを合わせて左右に分かれながら、貨物の裏へと逃げ込んだ。これだけ能力を使っているんだ。アストラは使えば使うだけ暴走したり副作用のリスクが増大していく。なのに、相手はそんなのお構いなしで乱発しまくりだ。


「もう、何これ! あっちの方が、ボク達よりよっぽと風のユニオンって感じじゃん!」


「無駄口叩いてないで、真面目にやって遊星!」


「ふん、お前達のアストラ能力はすでに調べがついているぞ。遊星、お前のアストラ《カストル》は物体をすり抜ける能力だったな。そして、流星のアストラ《ジェミニ》は物の位置を取り替える、物質交換型のテレポーテーション。確かに


攻撃を避けるのに向いているかもしれないが……関係ない!」


 風の刃がこっちに飛んできた。

 壁にしていた貨物が斬り刻まれて、刃が迫ってくる気配を感じる。咄嗟に床をすり抜けようとしたけど、体が言うことを聞かずに硬直する。《カストル》の副作用だ。


「やばっ……能力を使いすぎた! 避けきれないっ!」


「遊星っ! くっ……《ジェミニ》!!」


 流星のアストラが発動して、視界が一瞬で切り替わる。目の前まで迫っていた風の刃が積まれていた資材を容赦なく斬り刻んだ。


「わっ!? ふう〜、間一髪!」


「ふん、《ジェミニ》の能力で遊星と資材の位置を入れ替えたか……だが、いつまで続くかなあ。お前達が街の方から尾行してきているのは分かっていたんだ。遊星、お前は尾行中もその透過の能力をずっと使っていたな?」


「ぎくっ!」


「アストロローグは能力を酷使しすぎれば体に副作用が出る。いや、もう出ているのかな。見えない風の刃から逃げるのに、相当力を使っていたもんなあ?」


 あちゃー。そっちだってそろそろ副作用で限界なんじゃない?なんていつもなら言い返す所だけど……これはマズったかも……流星はまだ動けそうだけど、ボクはすでに副作用で両腕が動かなくなってきてる……少し距離を取らないとまずい。


「よーし、流星、一時退却だあ」

「うん」


 ボクが急ぎすぎたせいで。流星は止めたのに、ボクが自分の能力を過信しすぎたせいで敵の罠にはまっちゃったんだ。


「逃がさないぞ……《アプス》!!」


 まずい、アストラの最大発動……! 


「うわわっ、何これ、竜巻!?」


「流石に範囲が広すぎるよ!」


「「うわあああああっ……!」」


 資材ごと体が竜巻に巻き込まれる。こ、これじゃあジェミニやカストルを発動させる余地すら……!


「ぐはっ!?」


「うぅ!」


 ああ、これ……ヤバイ……かも……今、叩きつけられた衝撃で、頭が……。


「遊星……大丈夫、しっかりして……!」


 遊星の声が聞こえる。あの猛攻撃でもちゃんと防御したんだね。さすがだなあ、遊星は。やっぱりボクとは違う。


「念のためダメ押しだ《アプス》!!」


「ぐあああああっ…! こ、こいつ……俺の足を……う、動けない……まずい!」


「さあて、仕込みは完璧だ、ニキータ。最後はお前に譲ってやるよ」


 倉庫のシャッターを突き破って、全速力でトラックが向かってくる。


「そら、ゲームオーバーだ……!」


「りゅ、流星っ! あっ……!」


 流星の腕を掴もうとしたけど腕がぜんぜん動かない。流星も資材と位置を入れ替えようとしたみたいだけど、失敗した。


「かはっ!?」


「ぐふっ!!」


 重たい衝撃が走って骨の砕ける音が内側から響いた。視界が赤い。同じ様に傍で倒れている流星の姿を探す。


「う……うぅ……流星……」


「うぐ……ゆう、せ……」


「あはははははっ! 完璧なタイミングだね、ニキータ。打ち合わせ通りだ!」


「当たり前じゃんよ。アタシがヘマなんかするわけねーだろうが。このニキータ・キャンディガールが、完璧に仕留めてやったぜ」


「見ろ、あいつらビクともしない。流石に死んだか? それにしても、トラックを突っ込ませるなんてえぐいことするな、君……あーあ、ありゃあ運転手ごと潰れてるんじゃあないか?」


「フハハッ! いいんだよ。その男は死ぬって分かってて、運転したんだぜ。なにせアタシのアストラ《サギッタ》は男を虜にし、操る能力。抗いようはねえのさ」


「全く、敵に回したくない能力だよ。さて、これで心置きなく、奴らからレコードを奪えるってわけか。ええっと、確か双子座のレコードを継承したのは弟の流星の方だったな」


 倒れている流星の方へ敵が近づいていく。だめだ、待って、待ってよ、流星はボクについてきてくれただけなんだ。やるならホボクを……。


「さあ、渡してもらうぞ、双子座のゾディアック・レコード!」


 大鎌が。流星の胸を貫く。流星の背中から刃が突き抜けて流星の体から真っ赤な血がたくさん噴き出る。


「うぐ……! ぐはっ!」


 ああっ、そんな、流星……!


 視界がにじんでいく。血まみれの流星。流星の胸から抉り抜かれた双子座のレコード。レコードを手にした相手の喜ぶ声が響いてくる。


「これがあればリーダーは蘇る。イルミナーレの連中、確かにそう言っていたな」


「ああ、そうだぜ。アストラ化したリーダーを助ける唯一の方法だってなあ」


「それが本当だというなら、ウチらネビュラが残りのレコードも奪い取ってやる!」


 イルミナーレ? リーダーを助ける? 違うよ、何を言っているんだ。ボク達は君達のリーダーを止めただけなのに。どうして……ねえ、神様、どうして流星なの……。ボク達は双子なのに、どうしていつもボクよりも流星を選んでしまうんだ。


神様、どう、して…………。

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